第201話 装甲車
翌朝、例によって例のごとくマイソール家の4頭立て馬車が迎えに来てくれリーパスの郊外まで向い、辺りに誰もいないのを確認し装甲車をマジックランドセルから取り出しロッシさん、ジーコさんに見せてみた。
「おおおおおお!! 碧くんのマジックバッグは、こんなに巨大な物まで入るのかい?」
ジーコさんが驚く。
「え! 普通は入らないのですか?」
「入る物も有るには有るけど。
そうそう有るものでは無いよ」
「・・・・・・実は、このサイズより大きい物を含め合計7台入りました」
「「えーーーーーーー!!」」
ロッシさん、ジーコさんが声を合わせて驚く。
それどころか、このランドセル。
対岸まで100mはありそうな湖の水すべて飲み込んだ事を確認した。
水を全部吸い込むと魚や見たことのない水棲モンスターが干上がった湖でピタピタともがいているのを見て慌てて水を元に戻したことがあった。
しかも、まだまだ入りそうな気がする。
「碧くん、ネーナと結婚してとは言わないから、うちに婿入りしてくれないかの~」
とジーコさんが弱々しい声で明らかに俺のご機嫌を伺いながら聞いてきた。
スルー、スルー、こういう話はスルーが一番。
雰囲気を察したロッシさんが
「とても頑丈そうだね。馬や牛いなくて本当に動くのかい?」
ロッシさんが不可思議そうな顔で聞いてくる。
ジーコさんは装甲車の周りをぐるっと一周しながら色々な場所を興味深そうに確認していた。
「スピードも時速100㎞位なら出せますよ」
「何!それは本当かい!?」
ジーコさんが喰いついてきた!
「俺たちの世界だったらもっと出せると思うのですけどハルフェルナは路面が整備されていないから100㎞位が限界ですね」
「なんと!!」
ジーコさんが驚きの表情を見せた。
「みんなの世界は科学が進んでいるんだね。ハルフェルナが遅れているのか・・・・・」
ロッシさんが嘆くようにつぶやく。
「魔法があれば我々の世界も今とは違っていたと思いますよ。
魔法は便利すぎるのですよ。
魔力さえあれば、このように火を作り出すことさえ簡単に出来ますからね」
と智弘は指先に火を灯して見せた。
「魔石があれば誰でも簡単に火力の高い熱を扱うことが出来ますからね。
火事になったり爆発しない暖房器具を見れば誰もが納得しますよ」
と続けた。
そうなのだ。魔石を使った暖房器具、給湯器は直接、火を使うことがない。
我々の感覚で言うと電気に近いものと思えば良いのだろうか。
発電所で石油などを使い電気にする必要もなく暖房器具、給湯器にセットすれば1年くらいは交換せずに使えるという。
これだけ手軽で安全な物があれば石油類を必要としないのも当たり前なのかもしれない。
「さぁ、これで移動しましょう。ロッシさんのところの馬車の乗り心地には敵いませんがスピードはなかなかのものですよ。
ただ、乗り降りが大変なんですけどね」
装甲車は車体上部から乗り込むようになっており車体サイドに付いている取っ手を掴み上部に乗りハッチを開け乗り込んだ。
上部には機銃が搭載されておりオークやオーガなどなら1,2発であの世に送ることが出来る。
が、俺のマシンガンとは違い無限に銃弾を発射できるのではないので余程の事がない限り使用は控えている。
テストで一人数発ずつ撃っただけだ。
将太や七海は撃つ事を嫌がっていたが何かのときの練習ということで無理やり銃座に座らせ試射させた。
何かのときのために。
内部は運転席に、助手席、後列は向かい合わせで片側6人、合計12人が座れるようになっている。
詰め込めば20人くらいは乗ることが出来るだろう。
全員乗り込みリーパスの北東にあるアルファンブラ商会の施設に向かうためアクセルを踏み込んだ。
運転席に俺が座り隣に智弘が座る。
すぐ後の横並びの席の運転席側に近い位置にロッシさん、ジーコさんが左右に分かれて座っている。
「あ、あ、碧くん、そんなにスピード上げて大丈夫かい?」
「危なくないかい?」
あまりのスピードにロッシさん、ジーコさんが驚く。
「大丈夫ですよ。まだ余裕がありますから。安全運転してますよ」
「碧さんたちの世界では、こういう乗り物を『車』と言うそうですよ。
車が所狭しと走っているんですって」
「なに! それは本当かい!!」
ロッシさんが驚く。
「でしょ。碧さんたちの世界、凄いでしょう。お父さま、おじ様。
私も最初は驚きました」
「我が商会でも一台欲しいもんだね」
・・・・・ジーコさん、それはおねだりしているのでしょうか?
俺は隣に座る智弘の顔を見る。
智弘は黙って頷く。
「トラックがその辺を走っているのってまずくないか?」
「そう遠くないうちにコリレシアのトラックがこの世界を走り回るぞ。
それならアルファンブラ家に恩を売っておいても良いと思うが。どう思う?」
智弘は小声で話しかける。
「確かにネーナさんには色々と良くしてもらたからな~
本当にいいのか?」
「アルファンブラの人にトラックの運転に慣れてもらっておいた方が、後々の事を考えると都合が良くなるかもしれないしな」
「それはガルメニアと事を構えて全面戦争のときか?」
智弘は何も言わずに頷いた。
そして、俺は最初に人差し指を出し、次に中指を追加した。
智弘はまだ頷かなかった。
薬指を追加する。
が、まだ動かなかった。
俺は小指を追加すると智弘はようやく頷いた。
「全部か!? いや、1台は何かのために取っておいたほうが良いと思うが」
「使うことあるか?」
智弘がすぐに問い返す。
「だから何かのために。
俺たちも大量に何かを輸送したりするかもしれないから1台は残した方が良いと思うんだけど。
使わなかったら、その時に4台目も渡せばいいと思うけど」
そして小さい声で
「トラックも軽油だから融通してもらう量も減るかもしれないぞ」
智弘が腕を組み少し考えた後に
「分かった、そうしよう」
「ジーコさん、智弘の許可が出たんで輸送用に適したトラックというのを3台お渡しできますよ」
「なに!! 本当かい! そのトラックというのは、こんなにスピードが出るのかい?」
「ほとんど同じくらいスピードが出せると思いますよ。
今乗っている装甲車は人間の輸送用、トラックは物資の輸送用に作られていますから大量に物を運べますよ」
「いいのかい! いいのかい!!」
おっさん、テンション高いぞ。
「こちらも燃料を貰ってばかりでは申し訳ないので交換ということで」
智弘が言う。
後々のことまで考えて恩を売っておくあたりを考えると、やっぱり俺より智弘の方が商人に向いているんじゃないか?
しかも前に『悪徳』と付くけど。
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