第194話 4人旅


和服を着た4人の前を馬4頭立ての豪勢な馬車が通っていった。

4人は滅ぼされたイズモニアで多く見られる服装だ。。

和服を着ている4人なのだが顔が西洋人の顔をしており違和感しかない。


「あれはマイソール家の馬車じゃありませんか? ご隠居様」

と4人の中の一人の女性が老人に聞いた

女性は最も若く25歳ほどの妙齢で和服の着物の上からでもはっきりと分かる巨大なメロンが二つ胸に付いていた。


「そうじゃな。マイソールの子倅も、もういい年だろ」

ご隠居様といわれる老人が答えた。

老人は80歳近くに見えるが腰はピンと伸び、歩く姿は老人のそれとは思えなかった。


「方角から言ってアルファンブラ商会の方へ向かっているのでしょうか?」


「そうじゃろ。あの両家は親戚じゃからな。

 でも、珍しいの~ マイソールの子倅は学術ギルドの仕事が忙しいだろうに。

 何か火急な用でもあったのじゃろうか?」


4人は馬車のあとを追うと予想通りアルファンブラ商会の前で止まった。

馬車からマイソール家の当主、ロッシ・マイソールが降りてきた。

その後から一人の男が降りてきた。


(20代だろうか?  いや、10代の少年? フフフ、私の好みかも)

と、おメアは10代にしては精悍すぎる顔を見てどちらか分からずにいた。


(でも美味しそう)

と、軽く舌なめずりをした。


その少年は馬車の方へ向きなおると小さな女の子が降りようとしていた。

少年は小さな女の子の両脇を持ち上げ降りるのを手伝ってあげた。

その後から金髪の大女が馬車の天井に頭をぶつけないように体を縮ませながら降りてきた。


「パツキンか! いい女だがちょっとデカすぎるな」

と、30代に差し掛かった背が高く痩せた男が言う。


「な~に、スケさん、値踏みしているのよ。いやらしいわね~」

おメアはさっき自分が少年を値踏みしていたにも関わらず背が高く痩せた男を罵った。


次に緑の髪をした少女が降りる。

すると少年は少女が降りやすいように手を貸した。

次ぎに犬の仮面をつけた女が降りようとすると少年はまた手を貸した。


「あの仮面の女・・・いい胸してる。 いや違った。

 魔物か?魔人か?普通の人間じゃないぞ。

 ちょっと危ない臭いがするぞ!」

こちらも30代に差し掛かった背が低く太った男が犬の仮面を被った女の胸を見ながら答えると


「カクさんもイヤらしいわね~」

と、おメアは冷たい視線で背が低く太った男を見返した。


最後にお嬢様ルックの丹精な顔をした女性が降りてくると少年は手を貸し降りてくるのを手伝った。


「あーーーいけ好かないガキね。いい男と思ったけどあの年でハーレムパーティ?!

 私が殺しちゃおうかしら」


「こらこら、おメア、そんなことで人を殺していたら宰相に怒られるぞ!! 自重しなさい。カカカカ!」


「分かってますよ。ご隠居様」


「おお! 良い塩梅に商会の前にしゃれた店があるじゃないか!あそこで一休みしようか。

 ワシはもう足腰が痛くて仕方が無いの~」


ご隠居は賑わっているオープンカフェを指差した。

80を過ぎた老人が入るには少々、若向けであった。


「何言ってるんですか、まだ若いじゃないですか。

 そろそろ3万歳ですか?」


「おメア! そこまで年はくってないぞ!」


「ハハハハ、ご隠居の場合は年齢よりヒキコモリ癖のほうが問題だからな」

「そうそう。年齢よりヒキコモリが問題ですな」


「こら、スケさん!カクさん!」


4人はアルファンブラ商会を見渡せる席に座るとウエイトレスが素早くメニュー、水とおしぼりを持ってきた。

カクさんがメニューを受け取り開くと


「これ、これ、これ」


と指差し、親指だけ折りたたみ4の数字を作りオーダーをした。


「おメア、今回の情報は大丈夫なのだろうな」


「あら、ご隠居様、うちの子たちに情報網をお疑いになるのですか?」


「お前んところの小娘たち、アテになるのか!?

 200年前の偽情報に踊らされたろ!」


「情報の裏をしっかり取ってからにしろよ!

 200年前、危く一国を滅ぼすところだったろ!!」


「あ~スケさん、カクさん! そんな事、言っちゃっていいの?!

 うちの子たちだって一生懸命頑張っているんだから!

 そんなこと言うのなら、スケさん、カクさんはサキュバスの館は出入り禁止ね。

 来てもサービス禁止にしてあげるわ」


「あぁぁぁぁぁぁ、おメア! 俺が悪かった。

 あれは手違いだよな。手違い!」


「いや・・・・・すまん。失敗は誰にでもあるよな」


「カカカカカ! スケさん、カクさん。おメアの方が一枚上手だな。

 して、あのパーティはちょっと気になるの~

 マイソールの子倅が直々にアルファンブラ商会へ連れてきたのじゃからな」


「そうですね。

 私の手の者に監視させておきましょうか?」


「おメアのところも人手不足じゃろ。そこまでしなくても良いと思うぞ。

 アルファンブラ商会の方から情報を仕入れる事は出来るじゃろ?」


「いいえ。アルファンブラ商会の者は口が堅くて無理ですね。

 あそこは教育が行き届いていて、サキュバスの館で色仕掛けをしても仕事に関する情報は誰一人漏らしませんからね。

 自分の命を賭しても商売に関わる機密は漏らしませんよ。

 今までに何人か誘拐されて帰らぬ人になったのですが、けして口を割ることは無いそうですよ」


「本当かよ! おメア! 根性座っているな!」

「人間はもっと利己的なものだろう」

スケさん、カクさんが驚く。


「おメアよ! なぜそれが分かった?」


「うちには情報部門と暗殺部門があるじゃないですか。

 両部門の一番の上客なんですよ。

 特に近年は」


「アルファンブラの今の会長ってダルマみたいな親父だろ?

 情報は分かるが暗殺もかよ!!

 とてもそうには見えないけどな!」

スケさんが驚きの声を上げる。


「ダルマ親父もそうですが娘のネーナ・アルファンブラは徹底していますよ」


「ネーナって言うと20代でナミラーの商業ギルド支部長になった子娘だろ」


「あら~カクさん詳しいわね」


「あの女、好みなんだよ。あれは絶対『ドS』だ」


「ハイハイ、カクさん『ドM』でしたよね。スケさんも。

 ご隠居様も付き人を代えた方がよろしいのではありません?」


と、おメアに言われるとご隠居様は禿げた頭をポリポリと掻きはじめた。


(今は商業ギルド協会に勤めてるけど・・・

 何れはアルファンブラ商会の会長に・・・・

 それとも商業ギルド協会の会長か・・・・)

と、おメアはネーナの顔を思い浮かべた。情報不足で判断をしかねていた。


「ネーナはアルファンブラ商会のみならず、商業ギルドの部下が不条理な目に合わされたら必ず報復しますよ。

 徹底的に情報を集め、犯人が分かると金に糸目をつけず報復しますからね。

 昨年、うちの子たちじゃ手に負えないからスケさん、カクさんに頼んでワイハルトの将軍と1個師団を壊滅してもらったでしょ。

 あれも依頼主はネーナよ」


「あれ、そうだったのか!」

「俺もスケも久しぶりに皆殺しできるから喜んで飛んでいった仕事だよな!」


「そうそう、あの大虐殺。首班はネーナよ。

 あの将軍が独断でアルファンブラの商人、そして一緒にいたギルドの部下を殺し商品を奪った事件。その報復ね」


「おいおい、殺された人間と商品がどれくらい重要だったか分からないが将軍と1個師団だろ。

 割りに合わないんじゃないか? 殺しの料金だって相当ボッタ食ったんだろ!?」


「あの子にしてみれば金の問題じゃないのよ。

 約束や誓いは命に代えても守るという子なんでしょうね。

 学生の頃、ダルマ親父から学費を出してもらわずに冒険稼業で稼いでらしいわよ。

 そのせいもあって仲間意識は誰よりも強いのかもしれませんわね」


「それにしても、そのネーナという娘は恐ろしい女子じゃの~」


「そういう一途なところはある意味、姫ちゃんに近いかもね」



と、そこへオーバーアクションの小太りの親父が飛び出てきた。


「お、そのアルファンブラのダルマ親父が出てきたぞ」


「マイソールにぺこぺこ頭下げて・・・・・そこまで徹底的にする一族には見えんな~」


「スケさんや! カクさんや! 人間を上辺だけで判断してはいけないぞ!」


「はは、分かっております。先に殺せということですね。ご隠居! ハハハハハハ」

「ヌカリはございませんよ、ご隠居! やられる前にやってしまいますから。ハハハハハ」



そこにはスケさん、カクさんの返答にこめかみを右手で押さえるご隠居様がいた。



・・・・・が、このとき4人のうちの誰かが『聞き耳』や『盗聴』のスキルを使っていれば、この物語はすぐに終焉となっていたことだろう。

この後に続く悲劇や喜劇も無かったのかもしれない。


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