第176話 無双 デビルロード!


ロゼ教の遺跡の上空にどす黒く不快な暗雲が広がる。

誰もが尋常ならざる状態を察する。


「こ、こ、これはネクロマンシー!!

 禁忌を使いおったか!

 なぜネクロマンシーを使える!!」


アクアの唱えたネクロマンシーの呪文はフェネクシーたちのいる後方でも察することが出来た。


「何?ネクロマンシーって?」


加奈がフェネクシーに問う。



「一度死んだ者を復活させる呪文じゃよ。

 と言ってもアンデッドとしてな。

 『死者にたいする冒涜』じゃ。

 悪魔でさえ使わないのじゃよ」


「そんなことまでしてアクア姫は・・・・・・・」


「や、や、これは不味いぞ!! 『デッドナイト』の呪文を唱えたぞ!」


「何? 『デッドナイト』って?」


「死霊騎士だ。

 蘇った者を不死身の騎士に代えるのじゃ!

 元が選び抜かれた精鋭だから能力は上がっておるぞ!

 並みの剣ではダメージを与えられん!

 なにより簡単には死なん! 厄介じゃぞ!」


「え?凄くまずい状態じゃないですか?」


「そうじゃ!

 が、なぜ剣士であるあの姫様がリッチになったとはいえこれだけの魔法を!!

 ネクロマンシーなぞ使えるのじゃ!

 僧侶系の者がリッチになったときしか使えんはずじゃぞ。

 アリーナが何か仕組んだのか?」


「大魔王様、それはアクア姫が元は僧侶だからだと思います」

アリアがフェネクシーの疑問に答えた。


「何じゃと? あの姫様は姫騎士として名が通っておるのにか?」


「子供の頃、私とアクア様はロゼ教の大司祭様の下、一緒に学んだことがあります。

 優秀な僧侶として未来を期待されていました」


「なるほど、それで使えたと言うことか・・・

 あの負けん気の強い姫さんのことだから僧侶としてもかなり優秀だったのじゃろうな。

 なぜ、剣士になったのじゃ?」



「それは聖女に選ばれずに・・・・・・・」


アクアは言葉を濁した。


「それはひょっとして、そなたとの聖女争いに負けたと言うことか?」


フェネクシーの言葉にアリアは黙って頷いた。


「そして・・・・女の嫉妬か・・・・醜いの~ が、ワシの大好物じゃな。

 誇り高い女子じゃからのアリア姫の下に序列されるのが嫌だったんじゃろうな」


「その頃から剣や馬術など身体能力は抜き出ておりましたよ。

 同期どころか教会に属していた誰よりも優秀でした」


「あ~~~~なんか、アクア姫の傲慢ぶりが想像できるわね~

 何でも出来て優秀なお姫様だから全てにおいて一番出ないと気がすまなさそう性格しているわね~

 茜と正反対の性格ね。

 私もあのお姫様とは仲良くやっていけそうにないわ」


と加奈はつぶやく。




茜たちとフェネクシーたちの中間地点ではデビルロードと千代たちが後方へ退避しようとしていた。

周りにはデビルロードに無双され亡骸が溢れていた。

その亡骸が一人一人、また一人と鎧をガシャガシャと鳴らしながらのっそり立ち上がってくる。

明らかに自分の意思があるようには見えないが目だけは赤く不気味に光ったいた。

ざっとみて50人は下らないだろう。


「これは不味いな。

 小僧どもフェネクシー様のいるところまで下がれ。

 ここは俺たちが防ぐ」


痩せた悪魔が言う。


「ほら、早く行け!」


太った悪魔が言う。


「あんたたちは?

 これだけの数大丈夫なのか?」


織田が悪魔たちに問うと


「フフフ、人間ごときに心配されては俺たちもおしまいだな」

太った悪魔が細身の悪魔の顔を見ながら言う。


「安心しろ!小僧ども! これでも俺たちは魔族界では名の通った『魔王』だからな。

 ほら、行け!!」

とクールに笑ったのが分かった。

その言葉を聞いて織田を先頭に千代たちはフェネクシーの元へ走った。



「小僧どもの手前、しっかり働かないと格好がつかないな。

 残業手当を出してもらわないと割に合わんな、カクタス!」


「我々はフェネクシー様と違って働き者だからな。行くぞ! スケルシャール!!」


2匹の悪魔は手と爪の形を変えた。

痩せた悪魔は細長い手に長く鋭い爪を一纏めにし、剣のように。

太った悪魔は自分の胴体ほどありそうな巨大な手に太い爪に変化した。

そしてデッドナイトとなったウオレル騎士団の元へ突入していった。

デッドナイトたちの動きはゾンビのそれとは異なり生前と同じく素早い。


ガン! ガシッ!

ギン! ガシッ


と剣と爪があたる音が響く。


筋力も増しているのか剣の重さが先ほどとは違う。

デビルロードたちの爪が鎧を引き裂き肉を斬るのだが血は一滴もでない。

利き腕を切り落としても何事もなかったようにもう一方の手で剣を拾い上げ何事もなかったかのように斬りかかる。


「おお、強い、強い。さすが、デッドナイトと言うところか」

太った悪魔が驚いたように言うが、その声はまだまだ余裕があるように聞こえる。

痩せた悪魔が数人を切り裂きデッドナイトの動きを止めた。


「う~~~ん、こいつらを殺しても面白くも何とも無いな。

 恐怖や狂気が何もない。

 カクタス! 面倒だ燃やすぞ! 下がれ!!」


2匹の悪魔は一気に後退し、痩せた悪魔が魔法を唱える。


「ヘルフレイム!!」


ゴォーーーーー


うねりを上げ辺りに無数の巨大な火柱が上がる。

加奈や理紗も唱える事は可能だが火柱の高さが圧倒的に違う。


多くのデッドナイトが沈黙したが、まだ数体は何事も無かったかのように剣を振り上げ走り寄って来る。


「スケルシャール! お前、魔法の腕落ちたんじゃないか?」


「うるさい! 奴らはオリハルコンの鎧を着ているからだ! 

 お前こそ働け!!」


「はいはい」

と太った悪魔が言うと虚空庫から自分の身長よりも遥かに大きなトゲのついた金属製のハンマーを取り出した。

そのハンマーを軽々振り上げ近寄ってくるオリハルコンの鎧を着た騎士たちに振り下ろす。


「どっせー!」


グチャン!!


オリハルコンの騎士がペシャンコになった。

厚さ5cmもないだろう。

正真正銘にペシャンコだ。


太った悪魔は勝ち誇った顔で痩せた悪魔の顔を見る。

その顔は


どうだ! 俺、凄いだろwwwwww


と。


「チッ! たった一匹じゃねーか! もっと働け!」


と痩せた悪魔が言うと太った悪魔は両手を広げ肩を竦めた。


ペシャン!

ペシャン!

べシャン! べシャン!


太った悪魔は俊足を使い次々と魔法が効かなかった騎士を片っ端から潰していく。


「どうだ? お前の魔法が効かなかった奴らを俺が倒したぞ。

 俺の勝ちだな」


「何言ってるんだ! 倒した数は俺の方が上じゃねーか!!」


「認めろよ! お前が倒せなかったヤツを俺が簡単に倒したんだぞ!」


「偉そうな事は俺が倒した数を上回ってから言え!」


二匹の悪魔は口喧嘩をしながら近づいてくるデッドナイトを葬っていった。

二匹の周りには死ぬはずの無いデッドナイトの屍の山が作られていった。

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