第172話 アクアとアリア
ライキンはグレーコ王の側に歩みを進めた。
グレーコは宣誓の儀が終わると胡坐で座り込み、また桃花にヒールを掛けてもらっている側にライキンはゆっくり歩み寄りグレーコ王の対面に同じく胡坐で座った。
「ファイレル王、グレーコ! お前も噂どおり肝の座った武人だな!
カッコいいぜ!
あのアルファ王子もお前の血筋をしっかり受け継いだ頼もしい武人だな」
二人が若い頃、剣をあわせたことはなかったが一度だけ戦場で合間見えたことがあった。
と言っても記憶に残っているのはグレーコだけだが。
ライキンが指揮する『北の森』との戦いのときグレーコは皇太子でウインレルのエドワードとともに派遣されたことがあった。
ウオレルの隣にミディアと言う国があり獣人たちの攻撃に合い援軍として参加したのであった。
その戦いで先陣を切って突撃してくるライオンの姿を今でもはっきり覚えていた。
一直線に敵の本陣を目指しミディアの兵士がボーリングのピンのようにハジケ飛んでいく様を忘れることが出来なかった。
その時グレーコ、エドワードは
『これが魔王といわれるものの力!!』
を初めて目の当たりにした。
人間では到底太刀打ちできない物の力を実感したのであった。
この戦いでミディアは国力を落とし、その後ウオレルに併合された。
今思うと裏でウオレルが手を回し獣人たちとミディアを戦わせたのかもしれないと思うグレーコであった。
「獣王・ライキン。
名に相応しい立派な鬣だ」
ライキンは自慢の鬣を誉められてご満悦になり
「グレーコ王の決断、中々出来るものじゃない。
息子を死地に行かせるということだ」
「未来の嫁が浚われ、城を破壊され、アルファも王子というより一人の男として汚名をそそがない訳には行かないのでな」
「任せろ!
親の気持ち、王の気持ち、男の誇り、俺にも分かる。
俺も茜に息子が救われた。
茜に恩を返さないと嫁に叱られるのでな。
必ずアルファ王子は無事に届けよう」
「かたじけない」
とグレーコは頭を下げた。
アルファや茜たちはお互いの大まかないきさつを話し今後の方針を相談するのであった。
「そうね。アリア様を早く助けないと!
大魔王さん、また飛んでもらえる?」
「女子よ、飛ぶのは良いがどこへ行けばいいんじゃ?
ウオレル国か?」
「北東の方へ向かったと言う報告が来ています。
北のウオレルへ直接戻るのではなく、どこかを経由するか他にも何か狙っているのかもしれません」
アルファが言うと。
「早速、北東へ向かいましょう」
茜の言葉で平内、桃花を除く一同が馬車に乗り込み黒鳥に変身したフェネクシーがその馬車を掴み空へ舞い上がった。
^-^-^-^-^-^-^-^-^
アクアたちはファイレルの城から北東5kmほどに位置する遺跡にたどり着いた。
ここには過去にロゼ教発祥の地と言われ過去には多くの神殿が立ち並んでいたと言われるている。
が、その多くの神殿も過去の話しで今は折れた柱が目立つだけだ。
今ではほとんど人が訪れることはなかった。
ロゼ教も発祥してから数千年がたちハルフェルナに拡がり根付いたのだが、それにともない各国の教会が利権という名の力を持ったため発祥の地は寂れ廃れていったのであった。
グレーコの抹殺は確認できなかったがウインレルのアリアを人質に成功し、ファイレルの城下もほぼ破壊に成功したのでほぼ目的を達することが出来た。
アクア率いるウオレルも死者、重傷者は想定より少なく済んだ。
が、参加した大多数の者がどこかに怪我を負った状態だった。
冥界と厳正を彷徨っている者も数人いるのであった。
「アリア姫を起こせ!」
アクアが兵士の一人に命令した。
兵士は命令の通りアクアの目を醒まさせる。
「アリア姫、おはようございます。良いお目覚めですか?」
アリアに嫌味を言う。
「アクア様、なぜこのような事を!」
「戦争ですから」
とアクアは半笑いで冷たく答えるのであった。
「アリア姫、我が軍も多くの怪我人が出ております。
中には瀕死の兵もいます。
アリア様の力で助けてあげてください」
「え!?・・・・・」
自分の嫁ぎ先に国を踏みにじり、自分の護衛の兵士を斬り捨てたウオレル国の兵士を助けるなんて・・・・
アリアは葛藤する。
「う・・・・・・・・」
「ゴボッ!?」
「痛~~~~い! 痛い!!」
ある者は痛みで呻き。
ある者は血を吐き。
ある者は痛みを堪えられず叫ぶ。
一人の兵士が亡くなった。
「アッ!! アリア姫がボサッとしているから一人死んでしまいました。
このままでは二人目が出るのも時間の問題ですよ。
聖女様とあろう者が救いを求める者を助けてくださらないのですか?」
アリアは下を向き俯く。
「うっ!! ぐは~~~」
また一人血を吐き生き絶えた。
亡くなった兵士の下へアクアは駆け寄り
「済まぬ、お前を助けることが出来ずに。
私の無能を許せ!
アリア様、また一人亡くなりました!」
半分真剣に半分演技がかったようにアリアの顔を見て言う。
居た堪れずにアリアは立ち上がり怪我をしているウオレルの兵士にヒールを掛けた回った。
その瞳からは涙がこぼれ落ちていた。
「聖女とは悲しい生き物ですね。さぞ、苦痛でしょうね」
と誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた。
「お前たち、聖女アリア様のヒールだ!
有りがたく回復をしてもらっておけ」
アクアは冷たく言い放った。
そして一人その場から離れた。
「ご自分の弱さで国王を撃たれ婚約者を奪われ。
さぞ悔しいでしょうね。アルファ王子。
私とあなたでは覚悟が違うのですよ。
剣はあなたの方が上かもしれないけど指揮官として、人間としてあなたは弱すぎるのですよ。
誰にも公平とか平等などと言っているうちは上に立つ者として、王として未熟なのですよ。
あなたが王になるのであればファイレル王国もそう長くは続かないでしょうね」
アクアは雲一つない青空に向けて一人つぶやいた。
このとき遺跡で合流するはずの援軍がウオレルから誰一人来ないことをアクアは知らなかった。
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