第171話 決意


「アンチポイズン、ヒール! アンチポイズン!! ヒール! ヒール!」

桃花が蹲っているグレーコ王に回復魔法を掛ける。



「ヒール! ヒール!! ヒール!!!」


理沙は負傷者の下へ回復魔法を掛けるために回る。


「軽傷の方はポーションがあります。飲んでください!!」


平内がありったけのポーションを抱えベルファ王子と共に負傷兵へ配り始めた。


「王子! お怪我は?」

藤吉がアルファの元へ駆け寄る。


「私より父上は!!

 父上!! 王!!」

と叫び剣を杖にしながらグレーコの元へ寄っていく。


手持ちのポーションを配り終えるとベルファも青い顔をしながらグレーコの元へ駆け寄る。


「父上! 父上!」

今にも泣きそうな顔をしながら叫ぶ。


グレーコの顔は青く血色が悪い色をしている。

グレーコ王の隣にはまだ桃花がアンチポイズンとヒールを掛け続けている。


「ありがとう異世界の聖女よ。 

 私より兵士を介護して欲しい」


「いけません。王様、今は王様を側を離れるわけにはいきません」


桃花はなおもアンチポイズンとヒールを掛け続ける。

その甲斐があったのかグレーコの顔色も回復してきた。


アルファがやっとの思いでグレーコ王の元へ辿り着いた途端に倒れてしまった。


「キャーーーー!王子様」

理沙が負傷兵をそっちのけでアルファの元に駆け寄りヒールを掛けまくる。

膝枕をし労わる様に、またヒールを掛ける。


「お前、ベルファ王子を狙っているんじゃなかったのかよ」

と藤吉が聞くと


「バ、バ、バカいってんじゃないわよ! あんたも早くポーション配りなさいよ」


藤吉は肩を竦め平内の元へ行くのであった。





^-^-^-^-^-^-^-^-^


一匹の巨大な黒い鳥がファイレル城の上へ辿り着いた。

ファイレルの城下がざわめく。



「うわ~~酷い有様ね。城下町もお城もメチャクチャね。

 町の人たちは大丈夫かな・・・・・・」

茜は無駄に有り余る魔力を使い、空から町全体にヒールを掛けておいた。


「こりゃ、派手にやられたな」


ファネクシーが巨大な黒い鳥に変化して足で掴んでいる馬車の中から茜とライキンが顔を出しながら話すと


「来る途中の町も同じような状態だったから・・・・

 悪い予感はしていたのよね」


「お城へ行って早く怪我人の手当てをしないと」

加奈と詩織も馬車から覗き見た。


「お主ら、あまり身を乗り出して落ちても知らんぞ」

フェネクシーが巨鳥の状態で話しかけながら天井ががら空きとなった城内にゆっくりと馬車を地上に降ろす。



「皆さ~~~ん、大丈夫ですか? 茜ちゃんが戻りましたよ~~」

と左足を引きずりながら茜が馬車から降りグレーコ、アルファの元へ来た。


詩織も合流するなり倒れている兵士へヒールを掛けて回った。

加奈、フェネクシーと馬車から降り理沙や桃花のもとへ向かった。

そして、ブラドーが降り最後に馬車からライキンが降りたとき、一瞬緊張感が走った。


「あの大きい人は獣王のライキンさんよ。

 一緒に戦ってくれたのよ。

 カイト王はライキンさんが倒したから。

 もう一人の銀髪の人は強欲の魔王・ジルド・ブラドーさん。

 二人とも味方だから大丈夫よ」


と茜が大声で辺りの者に注意を促す。


「茜さま、足と顔の傷はいかがなされたのでしょうか?」

アルファが剣で体を支えながら聞くと


「ヒール、ヒール、ヒール!」

茜もアルファの姿に驚き慌ててヒールを掛けた。


「女神アリーナにやられたの。

 ニッケル宰相に化けていたわよ。

 最初からニッケルさんはアリーナだったのかもしれないけど」

今では確めることは出来なかった。


「何だか呪いの剣だったみたいでダメージが残っちゃってるの。

 そのうちなんとかなるでしょ」

と茜は簡単に言った。


「茜さまなら何も問題ないかもしれませんね。

 確かアリーナは戦いの神と言われていたと思いますが」


「もう~クソビッチなヤツだったわよ。

 先輩の女神のクセにうちの名無しの女神に嫉妬して・・・・・

 情けない女神ね!」


「私はこれからアリア姫を救出に行ってきます」


「え?アリア姫? 何? どういうこと? ファイレルにいらしていたの?」


「アクア姫に拉致されてしまいました」


「え!! でも、王子様、そんな傷では無謀なんじゃ・・・・」


「行かないわけには行きません!!

 ウインレル王、エドワード陛下に合わせる顔がありません。

 私の命に代えてもお救いしなければなりません!

 我が父、グレーコ王! 今ここで皇太子の地位を私からベルファへ交代をお願いします!」


「あ、あ、兄上! 何をおっしゃっているのですか!!」

突然の宣言にベルファは動揺を隠し切れない。


「王よ、裁可を!」


グレーコは立ち上がり目を瞑りしばらく考えた後に


「たった今より、皇太子をアルファ・ファイレル第一王子からベルファ・ファイレル第二王子へ交代とする!」


と城内に響き渡る声を振り絞り宣言した。


アルファはグレーコの前で跪き宣誓を受諾し


「ベルファ皇太子、王の宣誓です。跪き受諾してください」


「あ、あ、兄上! お、王よ、お考え直しください。

 私なぞより兄、アルファの方が王としての器量を上回ります。

 国民の事を思えば!」


「ベルファ皇太子、王の命令は絶対です。

 皇太子、王子と言えども命令に逆らうのは不敬にあたります。

 早く跪き宣誓の受諾を」


「あ、あ、兄上!」


「早く受諾を! 王の命令です。国民のためです」


ベルファは納得してはいないが言われたとおり膝をつき


「王の命令、受諾いたしました。アルファ皇太子に代わり私、ベルファが皇太子となります」


アルファは傷ついた体で颯爽と立ち上がり茜たちの方へ歩みを進めた。


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