第170話 敗れざる者


「アダマンタイト部隊! 突入!」

アクアが剣を抜き城内を指し命令を下した。


アダマンタイト部隊は横5列にならび突入を試みる。


ズドンズドンと重い音を響かせながら城下へ突入した瞬間、


「ソニックブレード!」


横一閃鋭い風圧がアダマンタイト部隊を襲う。

前列5人、その後ろに居る5人が風圧で吹き飛ぶ。


「ソニックブレード!」


また、5人、5人が吹き飛ぶ。

そこでアダマンタイト部隊の突入は止まった。


「アクア姫! これはどういうことかな!

 ウオレルは我が国ファイレルへの宣戦布告と言うことで宜しいですね」


アルファが愛刀の大剣を構えながら叫ぶ。


「これはアルファ王子、御機嫌よう。

 ファイレル王国を貰いに来ました。

 政略結婚であなたが私を選んでいれば、こんなことにはならなかったでしょう」


「何を言っているんだ! そんなことで簡単に戦争を仕掛けるとは!」


「先日、貴国は我が王都に来て獣人と共存を主張なされた? 何、腑抜けた事を言っているのですか?

 獣人は人類の敵! 早く滅ぼしその後の魔族との戦いに備えないとならないのに愚かな。

 そんな愚かな者が王になっている国など滅ぼし一刻も早く人類を統一することが我が国の成すべき道!

 獣人、魔族にどれだけ苦しめられてきたか忘れたのか?」


「いつまでもそんな事を言っているんだ!

 魔族と和解できるチャンスが訪れているのだ!

 こんな事は人類の歴史上、無かったことだ!

 今を逃せば永遠に失われる!」


「何を愚かな!

 魔族との和解など有り得ない!

 魔族と人類の戦いの歴史を忘れたのか?!」


「アクア姫! いつまで報復の連鎖を続けるのですか?」


「私が終わらせますよ。

 獣人、魔族を殲滅して」


と言い終わるとアルファに斬りかかった。



ガキン!

ガキン!

剣と剣が当る音が響く。


アルファとアクアの斬り合いを合図にウオレルの各部隊が城内になだれ込もうとしたとき!


「ファイヤーボール!」

城内からファイヤーボールが多数発せられた。


「雷神剣!!」

雷を伴った剣激がアダマンタイト部隊の一人を弾き飛ばす。


賢者・小松理沙と魔法剣士・藤吉秀吉の二人だ。



二人の参戦を合図に城内からファイレル王国の近衛騎士団が飛び出てきた。



「体力アップ! 防御力アップ! スピードアップ!」

近衛騎士団に僧侶・氷室桃花が支援魔法を掛ける。



「ファイレル王国、近衛騎士団! 

 お前たちの力を我に見せよ!」

ファイレル国王グレーコが数年ぶりに剣と甲冑を着込み戦いの場に現れた。

剣を抜きウオレルの騎士団を指す。



その隣で


「青銅騎士団。

 私の未来の旦那様を守りなさい!」

ウインレル国・アリア姫の護衛騎士団が突撃を開始した。


城内は3カ国の騎士団が入り乱れ乱戦になり、いたるところで剣と剣が当る音が響き渡る。

時々、理沙、藤吉、ミスリル部隊の魔法も入り乱れる。

ヒールとアリアの声が響く。

桃花の支援魔法を唱える声も聞こえてくる。



「アクア姫! 引いて下さい。

 我々が争う意味がありません」


「何を今さら! 人類の未来のために今統一しなくてはならないのです」


と剣を交えるたびに会話が続く。

アルファには余裕があった。

アクアが『姫騎士』とか『女傑』と言われても剣の技量、力は自分の方が勝っていると言う自信があった。

現に剣を交えてアルファの考えは確信になった。

それがアクアの策略とは気がつかずに。


「アルファ王子!あなたが私を選びさえすれば、こんなことにはならなかったのよ!

 私とあなたの国が一つになり、その後、ウインレルを征服すれば話は簡単だったのよ!」


「アクア姫! あなたって人は! 何て見下げた人なんだ!

 政略結婚といえどもあなたのような人は願い下げだ!」


アクアの口元が少しだけ笑った。



このボンボン王子は無能だと。





桃花の支援魔法が効果なのだろう、徐々にファイレル、ウインレル騎士団が押し出した。


「小松! お前は少し後ろに下がれ! 

 騎士相手に距離が近すぎる。

 氷室のところまで下がれ。 もっと後から魔法を撃て!」


「分かった。攻撃力アップ! スピードアップ!」


と藤吉に支援魔法を掛けた後、後に下がっていった。


徐々に倒れて兵士が増えてくる。

城下のあちらこちらで死体が見かけられるようになった。


押され始めたか!

アクアはアルファと剣を合わせながら死体の数を見て察した。

そろそろ頃合だということを。


そして私の勝ちだと確信した。

もしアルファが自分ではなくアダマンタイト部隊やミスリル部隊に斬りかかっていたら死傷者の数は我が軍が圧倒的に多くなっていただろうと。

最高のロイヤルガードをしても数人は斬り殺されていただろう。

自分が対峙することで自軍の被害を最低限に留めたのだった。


「撤収!!」

アクアはアルファと距離を開け叫んだ。

その間激を突き藤吉がアクアに斬りかかった。


アクアは軽々藤吉の剣を受け


「坊や、悪くないタイミングだけどお姉さんと坊やとでは剣の技量が違うのよ!」

軽く受け軽々と藤吉を受け飛ばし全力で城を飛び出した。

一斉にウオレルの部隊は撤退を始めた。

その撤退の仕方は統制の取れた物ではなく各自バラバラに敗残兵のように見えたことだろう。


城の外へ逃げ出すウオレルの部隊を追うようにファイレル、ウインレルの兵が城の外へ飛び出た瞬間、

アダマンタイトで出来た2mを超えるランスがファイレル、ウインレルの兵士に突き刺さった。

城の出口に伏兵が隠れていたのだ。


「ロイヤルガード!突入!!」


すかさずロイヤルガードはランスを構え城下へ突入を図った。


虚を疲れたファイレル、ウインレル兵は崩されそうになりながらも何とか踏ん張る。

そこへ再編したアダマンタイト部隊がファイレル、ウインレル兵が並ぶ隙間を突きファイレル、ウインレルの分断に成功した。

そこにアクアは機微を返し突入するとアルファが突入を阻む。

アルファがアクアに気を取られて瞬間、黒い軽装の一団がアルファの隣をすり抜けグレーコ、アリアの元へ飛び込む。


「国王! アリア!」


アクアの剣激を受けながら後に目をやる。

アクアは最初からこれを狙っていた。



「ぐぉ!」

と声をあげグレーコがうずくまる。

アクア子飼いのアサシン部隊の5人だ!

アサシンの一人がグレーコの正面から牽制している間にもう一人が背後から鎧の継ぎ目を狙い毒の塗った短剣で突き刺した。


アサシンの一人がグレーコの隣にいたアリアの腹を叩き気絶させ肩に抱え上げ、その場を脱した。

ロイヤルガードはオトリだったのだ。

いや、アクア自身もオトリだったのだ。



「撤退!」


アクアがアリアの捕縛を確認すると指示を出した。

そして、最後に残っていた魔法の玉を


「さようなら、王子様!」


と言ってアルファに投げつけると突入してきた以上のスピードで撤退した。


魔法の玉はアルファに直撃する事はなかったが爆風は城の天井を吹き飛ばしアルファ自身も重傷を負った。

自分を守ってくれたミスリル製の白銀の鎧に感謝をした。

ファイレル、ウインレルの騎士も多くが傷をおうことになった。


理沙と桃花が咄嗟に二重の魔法障壁を張った。

もし魔法障壁が二重でなかったら怪我人はもっと出ていた・・・・・・・

いや、ファイレル王家、ファイレル国は滅んでいたかもしれない。



完敗だ!

してやられた。


アルファは唇を噛み締めながら剣を杖にして立ち上がりミスリル製の鎧もボロボロの状態だった。

そこにいたのは一国の王子ではなく敗残兵そのものであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る