第166話 決着



「魔王よ!」


茜が警戒の声を上げる。

元カイトだったマントヒヒは牙をむき茜たち、いや、ライキンを威嚇する。


「ニッケルメッヒ! お前は魔族なのか!!」


フェネクシーが声を上げる。


「ハハハハハ、まだ気が付かないのか。年は取りたくないものね」

と羽織っているマントを脱ぐとそこには30過ぎほどの女が立っていた。


「私よ、女神・アリーナ」


「ア、ア、アリーナか! 老いたものだな」




小声で茜はブラドーに

「あのおばさん誰?」

と聞くと


「女神・アリーナのようです。

 私も見た事はないので断言はできませんが」


「あ~~ 戦いの神とか言われている嫉妬おばさん?」


と言うとブラドーは黙って頷いた。




「老いただと? お前のようなボケたじじーには言われたくは無い」


「魔神大戦の時はもう少しまともだったはずだが・・・・

 女神と言われる者が悪事に手を染めて哀れじゃの。

 お前のような醜い女神が最高神になったらハルフェルナは報われん。

 タナ様、ロゼ様が後継者に名無しの女神を選ぶわけじゃな

 哀れなり!アリーナ!

 名無しの女神に対する嫉妬心がお前を醜くさせたのじゃな」


「う、う、うるさい! あの女がいなければ私が最高神になれたのじゃ!

 タナ様、ロゼ様の愛をいただけたはずなのに!

 のこのこ後から出てきて、あの泥棒ネコが!!」


「だっさーーい あんたなんかにタナやロゼが愛をあげるわけないじゃん!!

 バカじゃないの!!」


「小娘! いい気になるなよ! お前はその剣、ローブの真の所有者じゃないくせに!」


「いいのよ!! 真の所有者だろうが無かろうが! タナとロゼの物は私の物なんだから!!!

 所有権は私にある!! 断じてあなた物では無い!!」



とアリーナと話しているうちに


元カイト王だったマントヒヒとライキンは拳をあわせ戦っている。

体格的には数倍あるマントヒヒの拳を正面から受け止め、その勢いを使ってライキンは壁へ向かって投げ飛ばす。

すかさず近寄り倒れた顔面に拳を数発撃ち込むとマントヒヒは


「ウキー!グギー!」


と絶叫にも似た叫び声を上げる。

マントヒヒのもがく腕がライキンを捉え反対の壁に飛ばされる壁が崩れる。

すぐさま体勢を立て直し立ち上がるマントヒヒに飛び掛り顔面を殴りつける。

圧倒的にライキンが押していると


「まずいわね、 カイト、もう少し頑張りなさい」


とアリーナはマントヒヒに回復魔法と身体強化の魔法を掛けた。


「あーーー何、横槍入れてるのよ!」


と茜も負けずにライキンに回復と様々なバフを掛けアリーナに向けマシンガンを連射した。


「あんたの相手は私よ! クソビッチ!」


「女神をビッチ呼ばわりするとは身の程知らずね」


「クソビッチじゃない! 

 神様って、この世界を護るためにいるんでしょ! 

 あなたは争いを引き起こしているじゃない!! うちの女神様と大違いよ!!」


と、茜は名無しの女神をクソビッチ呼ばわりしていた事をすっかり忘れていた。


「神に対する侮蔑の数々許すわけにはいかない!  ここで死ね!」


アリーナは虚空庫から透き通った青色の剣と透き通った青色の楯を取り出し。

青色の剣は怪しい靄をまとっていた。

そして茜に斬りかかった。

咄嗟に後ろに飛びのき剣激をかわす。

茜もタナの剣を抜き斬りつけるとアリーナは楯で受け止め、その隙に青い剣を腹の辺りを狙い水平に振った。

剣が届く前にバックステップでかわすとアリーナは距離を詰め縦一閃、剣を振り下ろしその剣激をタナの剣で受け止めアリーナの腹を左足で蹴り飛ばす。


「まぁ~ 何て下品な戦い方なの! 

 剣と剣の戦いに足を使うなんて剣の道を何だと思っているの!」


「生憎、こちらは剣の道なんて興味がありません。

 だからこんなこともするのよ!!」


と言った瞬間、


ヅキューン!!


と言う音が玉座に響く。

茜は腰の後に隠してあるマグナムをアリーナに向けて撃った。

アリーナは盾でマグナムを受け止めた。


「まぁ~ほんとにお下品ね! 銃を使うなんて、何考えているの!」


「あ~、さすがクソビッチでも神様だけの事はあるわね!」


「神様に対してその口の利き方はお仕置きが必要ね」


アリーナは剣を上に向けくるくると2度ほど回転させ茜に向けて剣先を向けた。

剣先から白い霞のような物が飛び出し、茜の体を簀巻き上に縛り上げ拘束した。

身動きが取れなくなった茜は


「何、これーーあんたこそ反則じゃない!!

 剣の戦いで相手を拘束するなんて卑怯よ!!」


「うるさい小娘ね! 神を罵倒したことを死を持って償いなさい!!」


アリーナはローブで覆われていない膝から下を狙って斬りつけた!

茜の両足から鮮血がほとばしり倒れてしまった。

左足の方が傷は深いようだ。


「いたーーーい」


「いくらロゼのローブが神器といっても完璧ではないのよ」


そして、茜の右頬を切り裂いた。


「いたーーーーい!!


「この剣は斬った者に呪いが掛かかるのよ。

 戦いはヒットポイントを削るだけではないのよ」


とまた、倒れている茜の足を狙いきりつける。

茜は切られる瞬間、腹筋と体全体のバネを使い縛り上げられたまま飛び跳ねるようにして避ける。


「ハハハハハハ、こっけいね。まな板の上の鯉みたいね。

 いつまで飛び跳ねていられるかしら」


「にゃにお~~~」


アリーナが簀巻きになっている茜に斬りつけようと飛びかかる。

アリーナの斬激が茜の足に当たる寸前一本の剣が遮る。


「やらせわせんよ。やらせわ!」


ブラドーが間に入り茜を守った。


「邪魔をするな! ヴァンパイア・ナイト!」


「その呼び名、久しぶりに聞いたぞ!」


「恐戦士・ブラドー!!」


「強欲の魔王と呼ばれる前は、そう呼ばれていたがな。

 今は『姫様の騎士 ジルド・ブラドー』と呼んでもらおう!」


「誰が呼ぶか!」


ブラドーとアリーナは剣と剣で斬りあう。

激しい火花が散る。

剣が折れてしまうのではないかと言うくらい激しく火花が散り辺りに斬激の音が響き渡る。

お互い斬ることも斬られることもない戦いが続く。


茜は馬鹿力で縛っていた紐を引きちぎり立ち上がった。

フェネクシーがなにやら魔法を唱えアリーナの足元に向けて放った。


ビチャッ!


トリモチだ。

ただのトリモチだ。


が、粘着力は相当強くアリーナの片足が止まった。

そして、もう一度顔に目掛けて放った。

アリーナの左側の顔に白いトリモチが付着する。


「何をする! ふざけるな!」


「名無しの女神は、そんなおもちゃ簡単に避けたぞ。

 しかも数十発撃って一度も当たったことないぞ」


「チッ!」

アリーナが舌打ちをする。

名無しの女神と比べられたことが相当不愉快のようだ。

フェネクシーの言葉の裏に

『お前は名無しの女神と比べて劣る存在』

と言われているようにしか聞こえなかった。


アリーナにとって名無しの女神は自分の劣等感の象徴であった。

なぜ、自分がハルフェルナの管理神・絶対神に選ばれなかったことに納得がいかなかった。

先輩であるはずの自分が。

優秀な自分が。

納得いかなかった。

神として致命的に『愛』が足りないということを理解できなかった。


「魔王と呼ばれるお前たちがなぜ人間の味方をする!!」


「それは、お前より魅力があるからじゃろ」


「くだらない事を聞くな! お前ごときが姫様と比べて良い存在などではない!」


「私は神だぞ!!」


「「だから?」」


とフェネクシーとブラドーはハモるようにして言った。

ブラドーは続けた。

「私の信仰する神はロゼ様のみ。ロゼ様の残したこの世界を汚すようなことをしたお前は神にあらず」


「アリーナよ、お前は神に相応しくないのじゃよ。

 タナ様、ロゼ様は無意味な争いは否定されていたじゃろ。

 お前は自分自身のために人を利用したのじゃぞ。

 タナ様、ロゼ様はお前を許さんじゃろ。

 名無しの女神はハルフェルナを良い方向に導こうと色々努力をした。

 お前は自分のためにハルフェルナを利用したじゃろ。

 タナ様、ロゼ様もさぞ残念がっておることじゃろ」


と首を振った。


「うるさい!!」

アリーナは顔に付いた取り餅を取りながら叫んだ。

その時、ロープを引き千切った茜がタナの剣で斬りかかりアリーナは右肩から斬られた。


「うぐーーーー 覚えておけ! 勇者・茜!  

 名無しの女神の使いであるお前は許さない! 

 必ずや不幸のどん底に陥れてやる!」


アリーナは霧散して消えていった。


「嫌な、神様ね~ うちの神様とは大違いよね」

当初はクソビッチと言っていたことも忘れ茜の中では、もう名無しの女神は身内と言う設定になっていた。


「またどこかでやりあう事になるのね。しつこい女は嫌われるのにね~」


とブラドーとフェネクシーに同意を求めた。

一瞬、ブラドーの目が泳いだ気もしたが気のせいだろう。



ゴン!

ゴン!

ゴン!ゴン!

ゴゴン!


と固い物がぶつかり合う音が響く。

音のほうを見るとライキンとカイト王だったマントヒヒはがっぷり4つに組みながら頭突き合戦をしていた。


高さがあるマントヒヒの方が有利なはずなのだがライキンも頭突きをする瞬間、マントヒヒの両腕を左右に引っ張り頭突きの力を高めているようだった。


「あぁ~もうなんて馬鹿な戦い方をしているの」


と加奈が首を振りながら言う。


「あれは男と男の意地の戦いじゃな」

とフェネクシーが言うと。


「男って馬鹿なんですね~」

と呆れたように言う加奈であった。


「身も蓋もないの~」


その戦いも決着が付こうとしていた。

明らかにライキンの石頭がカイト王だったマントヒヒに出血を強いた。

そして最後の一撃とばかりライキンは体を弓なりに反らせ力一杯の頭突きが決まる。


ガゴン!


と鈍い音がした後、マントヒヒは仰向けに倒れ、そこには黒いゲートが出来上がった。

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