第162話 そんなわけないじゃん!


フェネクシーの顔は驚きに溢れていた。

そして二人は見つめあった。


「え? え? エーーーー!?」


思わず加奈は声を上げてしまった。

そしてフェネクシーは慌ててそらすのであった。


「碧さん?」


フェネクシーは顔をそむけ加奈と顔を合わせないようにした。


「えーーー 大魔王さんって碧さんだったの!?

 え?何故? 時間が・・・・

 未来にいるんでしょ!

 早く茜に名乗り出てください!」


加奈はあまりの事に動揺した。

そして頭の中はフル回転しだした。


ラスピア渓谷の館で始めて会ったとき簡単に碧の姿に簡単に変身できたのは自分自身だったからなの!?

大魔王といわれる大物が簡単に茜に付き従うのは碧さんだったから!?

時折、見せる優しい顔は碧さんだったから!?


と。

そして涙がこぼれようとした瞬間!!






「う~~~ん!美味!? 女子の驚きの感情も格別じゃな。

 どうじゃワシの演技!?」



「へ!?」


今の加奈はどれくらいマヌケな顔をしたのだろうか?

まだ短い人生だがこれほどアホな顔をした事はないだろう。



この野郎・・・・・・・殴りて~~~~

乙女の純情を弄びやがって!!

この禿げじじーを思いっきり殴りたい!!


と人生において最大の力で拳を握り締める加奈であった。





フェネクシーにからかわれた・・・・・・

いや、おちょくられた後も拳を強く握りながらも茜の行方を目で追っていた。


地面スレスレをタナの剣を振り回しながら騎士団の中へ切り込んでいった。

無益な殺生を避けるためか斬るのではなく剣の腹で騎士たちを殴り飛ばしていた。

ライキンも負けず騎士団を片っ端から殴り飛ばしている。


「さすが、ライキンじゃの~ 獣王の名も伊達ではないの~

 女子に負けるわけにはいかないので張り切っておるの~

 お、騎士団を突破して魔道師たちへ攻撃を開始したか」


魔道師たちが逃げる時間与えられず茜とライキンの突撃により片っ端からブッ飛ばされていく。

接近戦になった時点で魔道師たちに勝ち目は無く一方的に排除されていった。


「勝敗は決したな。

 ワシらは先に戻っておくとするか」


フェネクシーは獣人たちが多くいる地点まで加奈を抱えながら戻るのであった。

加奈は地上に降りると腕組みをし右手の人差し指を上へ下へと動かしながら右へ左へ落ち着きなく動いていた。

完全に怒りのオーラを撒き散らし誰も近寄れる雰囲気ではなかった。


「お前たち、戻ったぞ!」

そこへ茜とライキンが戻ってきた。


「加奈ーー! 全員、ブッ飛ばしてきたわよ!! 楽勝、楽勝!! ねぇ~~ライキンさん!!」


「そうだな。俺たち二人がいればウオレルなぞ恐れるに足りん!! ガハハハハハ!!」


加奈はその言葉にキッ!とした顔をして振り向き怒鳴った。


「あかねーーーー!! 正座!!」


「ヘッ!? 何で?? 勝ったじゃない」


「いいから正座!!」


「はい・・・・・」


さっきまでの勢いは霧散しすごすごと正座する茜であった。


「お前は、この女の命令は素直に聞くな~」


と正座しようとする茜を見ながらライキンが言うと


「ライキンさんも正座!!」


「え?なんで俺まで?」


「いいから正座!!」

手に持っている魔法の杖を地面にタンタンと突きながら怒声を発した。


「あの~加奈さん、何で怒られるのでしょうか?」

と恐る恐る上目遣いで加奈を見上げながら茜は聞いた。


「私は戦いに先立って色々指示したわよね~!

 勝手に突撃するなって言ったわよね!」


「言ったような、言わなかったような・・・・・」


「言ったわよ!

『うをーーーー』とか叫びながら何突っ込んで行ってるのよ!」


「だって、みんな突撃するんですもの・・・・・私だって・・・・・」


「で、穴に落ちているんでしょ。

 この間の戦いで獣人さんたちが落とし穴に落ちているのを見ているでしょ!」

 考えなさいよ!」


「だって、テンション上がっちゃって・・・・ノリノリだったんだもん」


と言ったとき加奈は魔法の杖を茜の頭にコツコツと何度も軽く叩くのであった。


「テンション上がったじゃないわよ!

 ノリノリじゃないわよ!」


「痛い、痛い、痛いんですけど・・・・・カミラーズ人に殴られるよりはるかに痛いんですけど」


「そりゃ痛いでしょ!杖で叩いているんですからね」


茜の着ているロゼのローブは悪意のある攻撃は全て無力化するのだが悪意のない攻撃はそのままダメージを受けてしまうという良いのか悪いのか良く分からないチート装備であった。

ただ、そのチート能力が発揮されるのはローブに覆われているところだけだが・・・・・・


「女! 戦いに勝ったのだからいいではないか!

 何をそんなに怒っているのだ!!」


と言ったライキンにキッとした目をしながら振り向き


「ライキンさんも同罪!!

 私、言いましたよね!

 冷静に慎重にって!

 獣人の仲間が落とし穴に落ちているのを放置して突撃をかけて

 あのクソジジーがいなかったら犠牲者が増えていたかもしれないんですよ!!」


と言いながら茜にしたように杖で頭をコツコツと叩き始めた。

あまりの加奈の剣幕ぶりに


「私も正座した方が宜しいでしょうか?」


とあまりの剣幕にブラドーも加奈にお伺いを立てるのであった。


「あっ!ブラドーさんは良いのよ。

 このバカ二人の子守お疲れ様でした」


とブラドーに言った後に再度、茜とライキンを睨みつけ


「こんな戦い方をしているから犠牲者が増えるの!

 無駄な戦いばかりしていないでもっと考えて戦いなさいよ!

 政治的に経済的に戦いなさいよ!」


「まぁ~ 女子もそこまで怒らないでも・・・・・」


とフェネクシーがこの場を納めようとすると



「うるさい!! ハゲ! お前も正座しなさい!!」


「なぜじゃ!」


「か、か、加奈が怖いんですけど・・・・・・

 大魔王さん! 何かしたの?」


「いやな、ちっとこの女子をからかったのじゃ」


とフェネクシーは正座をしながら茜にいきさつを話した。



「ハハハハハハハ、そんなわけないじゃない!!そりゃ間違える加奈が悪いわよ。

 お兄ちゃんがこんな禿げじじーになるわけないじゃん!!ハハハハハハ」

と茜はお腹を抱えて笑うのであった。


「う、う、うるさい!

 私は碧さんが見つかって本当に良かったと思ったんだから!」

と顔を真っ赤にして下を俯いた。


「お兄ちゃんが例え誰に変わっていてもどんな姿でも絶対に分かるから」


とここぞとばかり茜は立ち上がり加奈の見方をするフリをして説教地獄から逃れるのであった。




あまりの剣幕に獣人たちが周りに集まり騒ぎ始めた。

ライキンが正座している姿は獣人たちには衝撃的だった。


あの女を怒らせるな。

あの女に逆らうな。

あの女の命令には服従。

あの女に口答えをするな。


と加奈の暴君伝説が今始ったのであった。



「おい、ちょっと待て!

 俺はフェネクシーの巻き添えをくったのか?・・・・・・

 いい年のじじーのクセに碌な事をしないだろ。

 だからこいつと係わり合いを持つのはイヤなんだよ・・・・」


とライキンは正座しながらぼやくのであった。

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