第161話 フェネクシーの正体!?


ウオレルの城下町に10kmと迫ったところにある平原でウオレル軍は騎兵を中心とした陣を敷いていた。

両者は平原を挟んで向かい合った。

加奈やブラドーたちは城にこもって持久戦を仕掛けてくるとばかり思っていた。

ここで決戦を仕掛けてくることも予想はしていたが人数が少し少ない。


来るぞ


最も後衛に位置していたフェネクシーとブラドーが合流すると


「これはどこかに伏兵を敷いているかもしれない。警戒するに越したことはないぞ。ライキン!」

ブラドーがライキンに注意を促す。


「そ、そ、そんな事、お前に言われなくても分かっている!」


あ~~これダメなパターンね。

ライキンさん、分かっていなかったみたい。

と加奈は口に出して言わなかった。


ウオレル軍に動きがあった。

騎兵の奥にいる魔道師たちの動きが慌しくなる。

魔道師たちが一斉に杖を高く掲げ魔法を詠唱しだした。


「来るぞー!!」

ライキンの大声が響き渡る。


加奈は魔法障壁を唱えた。

が、10mにも満たないサイズであるため自分の周りしかカバーすることは出来ない。


私レベルの魔道師じゃ役に立たないのね・・・・・



茜たち数人を守るレベルならそれでも充分なのだが軍団レベルになると力不足は否めなかった。


「魔法障壁!」

フェネクシーが右手を前に出し魔法の壁を張る。

ほぼ全軍をカバーできるサイズの魔法の壁が出来た。


「魔法障壁!!」

茜もフェネクシーに習って魔法障壁を張った。

・・・・・が、サイズがあまりにも巨大でライキン率いる獣人軍どころかウオレル軍の騎士の後ろまで覆ってしまった。


「あかねーーーー! あんたは加減しなさいよ!

 前は魔法障壁上手く張れたでしょ!

 何こんなに巨大なのを張るのよ! 役に立たないでしょ!」


「いやーーー何と言うか・・・・・小さいのは上手く出来るんだけど大きいヤツは・・・・・

 加減が分からないと言うか・・・・何と言うか・・・・」


「いや! そうでもないぞ。

 騎士と魔道師を分断できた。

 これで魔道師は無力化できたはず。

 魔道師が戦いに参加するには障壁内に入ってくるということです。

 接近するということは、我々に有利に働きます。

 さすが、姫様です!!」


「ほらーー 加奈、聞いた!? ブラドーさんは分かっているな~~~」

とさっきまでとは違い得意満面に答える茜であった。


「偶然でしょ!! ブラドーさんも茜を甘やかせないください!!」


と首を振る加奈であった。



「ヘルフレイム!!」


ブヲー!

ゴーーーー




ヒヒーーーン


フェネクシーが極大魔法をウオレル騎士団に向け撃ち込んだ

といたるところで地面から火柱が吹き上げる。

数十体の馬が飲み込まれ、乗馬していた騎士は炎に焼かれた。

馬はいななき炎を恐れ暴れ統制が利かなくなった。



「今がチャンスだ! 皆の者、突撃ーーー!!」


「「「「「うをーーーーー!」」」」」


ライキンが号令をかけると獣人たちが一斉に雄たけびと共に突撃を開始した。


「うをーーーーーー!!」


と茜も大声を上げ突撃を開始した。


「まだ、早いって!!」


と誰もが加奈の声をスルーしていった。


「あかねーーーー!! 罠があるかもしれないわよ! 気をつけ・・・・」


といった瞬間、茜は綺麗に落とし穴に嵌った。


「姫様ーーーー!」

「女子ーーーー!」


ドロだらけになった茜が飛空魔法で穴から抜け出し


「うをーーーーーー!」


と叫び声を上げまた突撃を開始した。


「この間のライキンの戦い方を忘れておるな。

 ライキンもじゃが、女子も学習能力がなさそうじゃな」

フェネクシーはこの間の戦いで獣人たちが落とし穴に嵌っていく様を思い出していた。


「あの子も大概ですからね・・・・・

 ブラドーさん、お願いします」


「心得た!」

加奈の言葉を聞くとブラドーは飛空魔法で茜の元へ飛び去った。


落とし穴に落ちたのは茜だけではなく多くの獣人が落ちてしまっていた。

そこを騎士がヤリ上から突き刺す。


「この間と同じじゃな。

 獣人たちも、もう少し学習すれば良いものを」


「え?そうなんですか?」


「そうじゃ、この間の『北の森』の襲撃と同じじゃよ」


「バカねーーー

 ・・・・・・・・で、それを見ていた茜も落ちるって・・・・・・ 

 あの子、目先しか見てないから・・・・」


穴に落ちた獣人を援護するために会話をしながらフェネクシーは魔法を撃ち続け騎士の数を減らしていった。

加奈もフェネクシーを見習いファイヤーボール撃った。


「穴に落ちた者を助けてあげてください!」


加奈は良く通る声で周りにいた獣人に指示を出した。

穴に落ちた者を助けようとする獣人にウオレル騎士たちが攻撃を仕掛ける。

それをフェネクシーと加奈が魔法で撃退していく。


フェネクシーは次から次へと矢継ぎ早に指先から魔法を連発してゆく。

しかも無詠唱で。

そんなことが出来るのは茜以外始めて見たのであった。

女神から貰ったギフトではなく才能で聖女となったウインレルのアリア姫でさえ杖やロッドなどを必要としていた。

自分はと言うと呪文を唱える最初の段階で杖の力を借りて使わないと詠唱にも時間が掛かってしまう。

ブラドーも無詠唱で魔法を使えるという。

『魔王』といわれる者はやはり桁が違うと言うのを実感した。


「女子も中々やるの~ 魔力のほうは大丈夫か?

 あまり無理するでない」


「はい、なんとか。でも、そろそろ辛く成ってきました」

大魔王さんは色々と気を使ってくれる。

時々周りに対する気遣いは碧さんを思い出してしまう。


「無理をするのは良くない。後はワシがやろう」

と言って騎士たちに次々と魔法を撃ち込み近くにいた敵をほぼ排除した。


「女子よ! ライキンの参謀になるのなら高いところから戦場全般を見渡すと良い」


「私は参謀なんかに・・・・」


と言い終わらないうちに加奈を抱え飛空魔法で空高く飛びあがった。

急なことで加奈はフェネクシーに必死でしがみついた。


「そうそう、魔法障壁にはこういう使い方も出来るのじゃ」


と言うとサンダーアローを唱え茜の張った魔法障壁へ撃ち込んだ。

ビカーッと稲光が光ったかと思うと魔法障壁にぶつかり砕け散り粉々になった光の矢がウオレル騎士団の居た地面に降り注いだ。

声は聞こえなかったが馬に乗った騎士たちが次々と落馬していくのが見えた。


「な!? 上手いもんじゃろ。障壁にぶつける角度がポイントじゃ。

 火炎系、水系、風系の魔法は障壁に当たると霧散するが雷系の魔法は反射するのじゃ」


「大魔王さん凄いですね。

 年の功ですね。

 さっきの魔法の無詠唱の連発も凄かったですけど経験と知識は伊達では無いですね。

 私なんかファイヤーボールを撃つのにも詠唱時間が必要ですから」


「な~~に。経験と練習じゃよ。

 詠唱は魔法を使っているうちに無詠唱で唱えられる。

 ワシなぞ何万発も撃っておるからな。

 繰り返しじゃよ」


そう碧さんも


『出来ないなら練習あるのみ』


とよく言っていた。


「何か、碧さんみたい・・・・」

と言うと加奈はクスクスと笑いフェネクシーの顔を見た!




「ギク!」



フェネクシーの瞳は泳いでいた。

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