第160話 作戦参謀・加奈


ウオレル国への出発の日、ライキンを先頭に人狼部隊、猫人、犬人、牛人、エルフの部隊と続き最後尾に茜、加奈、ブラドー、フェネクシーが馬車に乗り続いた。

ライキンを初め大柄な種族は徒歩で小柄な猫人やエルフは馬車に乗って移動をすることになった。

詩織、千代、織田は町を守る守備隊と共に居残りになった。

詩織は茜に着いて行く事を希望したが町に何かあったとき強力な回復魔法を使える者を一人残しておいた方が良いと言う事になった。



幾度かウオレルの部隊と交戦はあったが進軍はきわめて順調に進んだ。


・・・・・順調すぎる。

順調すぎるのだ。

多くの部隊を『北の森』へ派兵したからといって全軍を派兵するわけではない。

あまりにも抵抗が少なすぎた。

茜は加奈をお姫様抱っこをしながら馬車から飛空魔法で飛び立ち先頭のライキンの元へ近づいた。


「なんかウオレルの反撃というか兵隊が少ない気がするんだけど?ライキンさん、何故?」


と茜がライキンに尋ねる。


「ハハハハハハ! ウオレルの奴ら我々に恐れをなして城に引っ込んでいるんだろう」


「な、分けないでしょ!! ライキンさん!!」


と加奈に一喝されライキンは怯むのであった。

内心、ここに机がなくて良かったと思うライキンであった。


「絶対何か企んでいるわ!! 注意が必要よ。

 偵察を強化した方がいいわ。

 ライキンさん、悪い事は言わないから大魔王さんかブラドーさんに参謀になって貰ったほうがいいわよ」


「断る!! 誰がフェネクシーやブラドーの世話になるものか!」


「何をそんなに意地を張っているのよ! ライキンさんのプライドで部下が死んじゃうでしょ!

 大魔王さんなんか子供の頃からの知り合いなんでしょ」


「あのじじーは口うるさいんだよ!」


「あーー分かる、分かる。ライキンさんのその気持ち。口うるさいのが近くに居るとね~~」

と茜はライキンのほうを見て頷く。


「そのうるさいと言うのは私のことかな?茜くん。

 そういうふざけた事を言う口はこうだ!」

と言うと茜にお姫様抱っこをされながらも両側のほっぺたを引っ張るのであった。


「ふみ~~ごめんなしゃ~~い」


「お前!よく茜にそんなこと出来るな! 肝の据わった女だ!

 茜もよく反撃しないな!」


「反撃したら数100倍の報復が返って来るから・・・・・怖くて」


「なんか酷い言われようね! 茜ちゃん!!」

と言うと再度茜のほっぺたを引っ張る加奈であった。


「そうだ! お前が作戦参謀になれ! 作戦を全部任せる!」


「ハー!? 何言っているの? 私は素人よ!

 戦いなんて知らないわよ!」


「いいんじゃない!? 加奈がやってあげたら? ライキンさんの突撃と後退よりはマシなんじゃない?」


「な!そうだろ! 茜! いいアイデアだろ!ハハハハハハ」


「あんたたち二人は一度痛い目にあった方がいい!!」

と加奈は首を振りながら答えた。


「安心しろ! 獣人は人間よりはるかに強く頑丈だ!

 俺の雑な作戦でも今までやってこれたのだから、女! お前の作戦ならもっと上手く行く!!」


有り得ない!・・・・・やっぱり、このライオン、バカだ。

こんなバカに育てられるネギトロが不憫た。

ちゃんと立派に育てることが出来るのだろうか?

せめて学習能力だけは身に付けて欲しいと加奈は思ったが口に出しては言わなかった。


「ふー」

とため息を付いた後に


「アドバイスくらいしか出来ませんからね。

 決定はライキンさんがしてくださいね!

 それと大魔王さんやブラドーさんが意見したら聞くこと。 いいですね!!」


「チッ! じじーとブラドーもかよ!」


「チッじゃないの! チッじゃ! 分かりました? 返事は!!」


「お、おう!」


「何か策略があるかもしれないから常に冷静で慎重にね。

 勢いで突撃はしないでくださいね。

 いくらライキンさんや茜が強いからと言って独断専行はしないでくださいね。

 二人が勝手に前進したら他の獣人さんたちが狙い撃ちされるかもしれませんからね。

 常に集団行動。

 魔法が来たら散開!!

 いいですね!!」


「お、おう」

ライキンの返答は分かったような、分からないような頼りない物であった。



加奈はライキンを圧倒するのであった。

そして一人の男を思い出した。

碧の友人の水原智弘を。

学校では『ヘンタイ』と言う通り名で評判の悪い男であるため、本来なら接点などあるはずは無いのだがのだが碧の友達なのでそこそこ親交はある人物だ。

学年でも有数の秀才でこういう事にやたらと詳しい男だ。

勉強だけではなく雑学の知識も多く・・・・・少々、偏っている気もしないではないが頭が良く回転も速い。

自ら『勝つためには卑怯な手でも、邪道な手でも躊躇無く俺は使う!』と豪語する男だ。

なぜこんな極悪な人間が碧さんの友人なのかいつも疑問に思う加奈であったが、彼なら完璧にこういう事をこなしてくれるだろうと。



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