第141話 報告


茜たちはウインレル城へ戻りエドワード五世とレイランに事の顛末を話した。

その後、王の許可を取り、怠惰の魔王・フェネクシーを謁見の間に招き入れるのであった。

フェネクシーが謁見の間に入ってくると周りに居た騎士たちは反射的に剣を抜き構えるのであった。


「控えろ! 剣を収めよ」


エドワード五世が騎士たちに命令を下した。

騎士たちも分かっている。分かってはいる。

フェネクシーは客人として招かれているのだが反射的に剣を抜いてしまうのだ。

騎士としての本能がそうさせてしまう。


「怠惰の魔王・フェネクシー殿、申し訳なかった。

 そなたなら分かってくれると思うが、そなたへの恐怖心からくる無礼ゆえ許して欲しい」


「構わぬ」

と短く答えた後、フェネクシーは茜のとなりに来ると茜と同じように膝をつき王へ頭を下げるのであった。


「またれよ。そなたも悪魔の王ではないか。跪く必要はないはず」


「エドワード王よ。ワシは何でもこの女子の子分かペットだそうだから女子が跪いている以上、ワシも跪かないと示しがつかないじゃろ」


「魔王・フェネクシー殿、余はそなたの寛大な人柄に好意を持つ。

 そなたの国と休戦を結ぶ事は可能だろうか?」


「エドワード王よ。少々勘違いされているようだがワシが魔族界の支配者と言うわけではないのじゃ。

 悪魔族はワシの配下と言うより庇護下の者が多いがすべてではない。

他の魔族・亜人はワシの支配下にはないのじゃ。

 それに魔族界は国という物とは掛け離れておる。

 住人たちは好き勝手に生きておるのでなワシと協定を結んでも平和にはならないかもしれん」


「一部の悪魔族だけでも人間を殺めたりはしないと約束してもらえるだけでもありがたい」


「それは安心して欲しい。悪魔は人間がいないと生きてはいけないのが多いのでな。

 もし人間を襲う悪魔がいたらワシが罰することを約束しよう。 

 が、一つ覚えておいて貰いたいのだが人間に手を出す悪魔ほど悪質なヤツが多いのじゃ。

 この点だけは忘れないでおいてもらいたい」


話しが終わるとエドワードはフェネクシーのところに歩み寄り手を取るのであった。

こうしてエドワード五世とフェネクシーの会談は平和裏に終わった。


エドワード五世の右腕とも頭脳とも言われているレイランは一応、一安心することが出来た。

フェネクシーといえば最強の魔王、大魔王といわれ別格扱いされていた魔王が友好的と分かり少しだけ気を休めることが出来た。

だからと言って全面的にフェネクシーを信頼するほどお人好しでは無いのがレイランという人物だった。

色々と難しい顔をしているレイランの隣に加奈がやって来て。


「レイランさん、何か悪いこと考えていませんか? 主に大魔王さんのことで」


「これは加奈殿。魔王の討伐、ありがとうございました。

 加奈殿にはバレバレですか。ハハハハ。さすが知者・加奈殿ですな」


「そんなに心配しないでも大丈夫だと思いますよ。

 大魔王さん、あんまりやる気のある人じゃないですから。

 とにかく寝ていたいと言う悪魔ですから。

 何より女神様と仲が良さそうでしたし、大魔王さんより他の魔族や亜人たちを心配した方が良いと思いますよ」


「そうなのですか。が、この国の宰相として警戒をしないわけにもいけないのですよ」


「確かにそうですね・・・・・・」

と加奈はしばらく考えた後


「大魔王さんが魔神大戦に参加したのも『しがらみ』で参加したような感じでしたよ。

 なら、レイランさんも『しがらみ』を作っちゃえばいいんですよ」


「なるほど~ それも一理ありますな」


「怠惰なくせに義理堅い悪魔ですからね。それを上手く利用した方が得策だと思いますよ」


「ご忠告、ありがとう。我が国もその線で対応しておきます。

 さすが知者ですな」


「私は普通の魔法使いですから」

 



そして、茜はウインレルからもSSランクの冒険者・・・と言うよりは名誉の称号を受けた。

『史上唯一のSSSSランクの冒険者』になったのだが・・・・・


「でも、無職なのよね~」

と肩を落とすのであった。







茜たちはファイレル王国へ戻りグレーコとマストンへ報告しフェネクシーも紹介するのであった。

ウインレルと同じくフェネクシーと友好を結ぶ事になった。

茜たちがウインレルへ行っている間に大変なことが起きていた。

ウオレルと獣王・ライキングの『北の森』と全面戦争になったということだ。

ウオレルが北の森へ侵略を開始したようだ。

ウオレルも異世界人を召喚して国内の魔王7人すべてを葬った。

次は隣接している北の森の支配者ライキングを討伐するという計画らしい。

ハルフェルナは奴隷制度があるのだがファイレル、ウインレルはほとんど見ることは無い。

ハルフェルナの奴隷の80%はウオレルに居て、なおかつ亜人の奴隷がその中の50%を占めると言われている。

北の森の王、獣王ライキンは亜人の魔王といわれており亜人の同胞を救うために幾度となくウオレルに侵攻していたそうだ。


今のところファイレルに援軍の要請はきてはいない。

ファイレルからウインレルへ現状を問い合わせたのだがその返答も帰ってきてはいない。

グレーコ王もマストン宰相もどうするべきなのか決定を決めあぐねているのであった。



ウインレルへ行かずにファイレルに残った居残り組みも茜たちの活躍によりレベルアップし今や全員がレベル50とハルフェルナでは最高クラスの力を持つようになっていた。

賢者の理紗、僧侶の桃花は診療所や教会の手伝いをして今や聖女でもないのに『聖女』と呼ばれるくらいファイレル国民に愛されている。

魔法剣士の藤吉は騎士団と共に行動をし王都のそばに出没するモンスターを討伐するために日夜、駆け回っていた。

そして、平賀はスキルをポーション精製に大きく振りハルフェルナ初のMP回復ポーションの製作に成功した。

他にもハイ・ポーション、アンチポイズン・ポーション、アンチパラライズ・ポーションの製作などもハルフェルナ初のことだった。

これにより騎士、兵士、冒険者、、旅人、町人さえも怪我などで亡くなることが少なくなった。


そして、ウインレルにあるゲートを使って誰が帰るか相談したのだが織田以外帰りたいと言うものはいなかった。

居残り組みはやりがいのある仕事に出会いもう少しハルフェルナの役に立ちたいと思っているようだった。

話し合いが解散したとき、茜はフェネクシーに呼び止められた。


「すまんがライキンを助けてやりたい。何とかできんじゃろうか」

今、フェネクシーはナマケモノの姿ではなくどこにでもいそうなローブ姿の老人になっていた。


「何故?大魔王さん」


「ライキンは亜人たちを救いたいだけなのじゃ。王として自国民を守る、取り返すのは当たり前のことじゃろ。

 ウオレルが亜人を奴隷にさえしなかったらライキンも事を構える事はあるまいて」


「う~~~ん、確かにそうね。大魔王さんの言う事は一理あると思う。

 加奈ーー! こういう難しい事は加奈に判断してもらった方がいいわね」

といって加奈を呼び事情を説明した。


「え!? 私!

 う~~~ん、難しいわね。心情的に獣王に問題があるとは思えないけど、事の発端はどうだったのか。

 最初の獣王が侵略して敗残兵が奴隷になったのかもしれないし・・・・

 私たちは人間だから立場的にウオレル側に付くしか無いような気もするし・・・・・・

 王子様にお願いして王様に取り次いでもらいましょうか」






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アルファのおかげで王に謁見がかないフェネクシーの願いを聞いてもらった。


「フェネクシー殿、いささか難しい案件じゃの~ 我々は人族だ。

 人族が亜人の肩を持つと言うのは少々難しいことじゃ」

王が答えると


「フェネクシー殿、亜人を解放さえすれば獣王は矛を納めるのでしょうか?」

マストンが聞く。


「ライキンは奴隷さえ元に戻れば矛を収めるじゃろう。この身に掛けてワシが説得しよう」



王はしばらくの沈黙の後




「フェネクシー殿の願い聞き入れよう。

 アルファに命じる! 余の親書を持ってウオレル王カイトに謁見し手渡しなさい。

 ファイレルが望む事は平和のみ獣王もカイト王も無駄な争いは望んでいないはずじゃ」


「グレーコ王よ、我の願い聞き入れて頂き感謝に堪えない。かたじけない」

とフェネクシーはゆっくりと深く頭を下げた。


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