第133話 ラスビア渓谷


ブラドーが去った後、詩織たちが合流し馬車と馬で西へ西へと向かった。


馬車の中で茜が


「メアリーと言いブラドーと言い、強い魔王は頭もいいのね」


と言うと


「1000歳に2000歳だっけ? 長生きね。今の茜なら4,5000歳生きていられるんじゃない」


「千代、それ誉めてないよね。絶対、誉めてないよね!!」


というと千代は茜から目をそらしながら


「次は悪魔の魔王よ。なんか本格的な魔王っていう感じじゃない? 好戦的では無さそうだけど怖いわね」


「人間の負の感情を食べるって、何か怖いな。茜、大丈夫か?」


「茜ちゃんは能天気だから負の感情なんて無いわよね」

と詩織が言う。


「失礼ね~~詩織! 私だってあるわよ。お兄ちゃんと会えなかったらどうしようとか。お兄ちゃんに変なムシが付いていたらどうしようとか」


「茜ちゃんは昔から碧さん命だからね」


「私も則之さんが心配だ。早く見つけられるといいんだけど」



馬車の外では馬に乗っている加奈のもとへアルファが馬で寄って来た。


「茜様の兄上の碧様ってどんな方なのですか? 茜様みたいにお強いのでしょうか?」


「碧さんは普通の人ですよ。どこにでもいる優しいお兄さんですよ」


「普通・・・・ですか」


「気配りの出来る優しいお兄さんですね。

 私や詩織は特に気にかけてもらっているので学校では色々助かったことが多かったです」


と入学早々、詩織が上級生に付き合えと絡まれたときのことなどを思い出すのであった。


「私は一人っ子なので、碧さんのようなお兄さんが欲しかったですね

 あの二人は私の理想の兄妹像です。

 ちょっと茜には色々言いたい事はありますけどね」

とニッコリ笑って加奈はアルファに話した。




ラスビア川を右手に望み上流めざし進むとラスビア渓谷に到着した。

渓谷の幅は500mくらいあるだろうか。真ん中にすんだ水の川が流れている。

このラスビア渓谷の真ん中を流れる川がラスビア川になり近辺の町や村の水源として使われている。

渓谷は木々で生い茂り涼しい風が下流へ流れる。

所々からのぞく岩肌はグランドキャニオンを思い出させるような壮大さがある。

美しく幻想的であり儚さと切なさを感じさせる世界がそこにはあった。

一見してラスビア渓谷には悠久の時間の時間の流れを感じさせる。


渓谷を流れる川の両脇には馬車がすれ違えるくらいの道が出来ている。

人の往来は無い。

それもそのはず、ラスビア渓谷を抜けると魔属領と言われている。

魔属領へ行って帰ってきたものは誰もいない。



「キャーー、また、ローパー!」

詩織が悲鳴にも似た声を上げる。

ローパーの魔王の一件がトラウマになっているようだ。


「こいつもエロイのかな? ブラストチェンバー」

と茜が唱えるとローパーを包むように箱が現れた。


パシュン

パシュン

ヒュンヒュン


と箱の中から音がする。

箱が消えるとローパーは細切れ状態になり絶命した。


そして100匹を超えるスライムの大群も現れる。


「あ~~また、服、熔かされちゃうのかな」

詩織が一段と凹む。


「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール」


茜と加奈が魔法を放ちスライムを処分した。

するとゴブリンが100匹ほど武器を持って迫ってくる。


「数が多いわね。さすが、大魔王の住処が近いと言うことかしら? ファイヤーボール!」


「そういう事かも知れないわね。 ファイヤーボール」

茜と加奈は話しながら魔法を放つ。

10匹ほどが魔法から逃れ千代や詩織の元へ向かった。


千代は剣を取り出しゴブリンに斬りかかる。

織田も剣を取り出しゴブリンを切り捨てる。

茜だけはレベルが上がる事はなかったが他のみんなはレベル40前後に達していた。

ヘタレと言われていた織田でさえゴブリン程度は素手でも難なく倒せるようになっていた


すると次はスケルトンの軍団がやってきた。


「この渓谷に骨の集団は不似合いね。ファイヤーボール!!」

と茜が唱えスケルトンに当てたのだが、効果は今一つ弱く先頭の10匹ほどを倒すだけだった。


「ここは私に任せて。Holy!」

詩織が杖を天にかざし聖属性の呪文を唱えた。

空が一瞬、光輝いた。

スケルトンはバラバラと崩れるように倒れ土に返っていった。


「詩織、凄いわね。アンデットには聖属性の呪文は効くのね~」

と加奈が言った瞬間、川の中から10mを超える巨大なワニが飛び出て加奈に足に噛みつき川の中へ引きずり込んだ。


「キャ~~~痛い!!」


加奈の血で川は赤く染まる。



「加奈ーーーーーー!!」


茜の叫び声が渓谷に響き渡った。


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