第132話 強欲の魔王・ジルド・ブラドーぱーと2


「あの、ブラドーさん。あなたはそこにいる茜より強いの?」

と、加奈が尋ねた。


「否、私では敵うまい。そのタナ様の剣で数回斬り付けられれば生きているのは難しい」


「正直なのね。普通は返答を濁すと思うけど」


「誤魔化しても実力差がありすぎるのでな」


「タナの剣、知っているのね」


「まさか実物を見ることが出来るとは思ってもいなかったがな。

 そのローブもロゼ様のローブだろ」


「あなたも『様』付けるのね」


「当然だ。タナ様、ロゼ様がいなければ魔族は滅んでいただろう。これでも私はロゼ教の熱心な信者なのだよ」


え~~~

えーーー


茜と加奈は驚いた。


「吸血鬼って信仰心に弱いって聞いたけど」

と加奈が聞くと


「それはどこから出た話だ?私は熱心なロゼ教の信者だ。

毎日、お祈りを欠かしたことは無い。

 ロゼ教の教会のある町へ行けば教会へ赴いて祈りを捧げている」


「ハルフェルナ・・・・よく分からないわ」

と加奈は首を振った。


「ファイレルに行った時、そこの王子の成人の儀が合った。私は教会にいたのだよ」


えーーー

えええ


「あの時、いたのか!」

アルファが驚く。


「この国のアリア王女が聖女になったときも教会にいたのだよ」


「ねぇ~、何なの・・・この吸血鬼」

茜が呆れたように周りにいた全員に聞く。


「私は好きなときに好きなところへ行きたいだけだ。

 王子の成人の儀、アリア王女の聖女の儀も興味があったから見にいったのだ。


 襲う気になれば襲えた。

 人間など皆殺しにしようと思えば簡単に出来た。が、私はする気がなかった。最初から。

 めでたい席をぶち壊すような下賎な魔王ではないと言うことだ」


「確かに・・・・・吸血鬼の魔王が暴れたという話は聞いたことがありませんから。

 この魔王も人に危害を加える気は無さそうですね」


「あなたを殺すとやっぱりゲートが出来るの?」


「多分、ゲートになるだろう」


「無制限に使えるってやつ?」


「死んだことがないから分からないが、無制限に使える高位のゲートであって欲しいと思う。

 この話の流れで、試してみるとか言わないよな」

とブラドーは警戒してみたが本心で警戒しているわけでは無さそうだった。


「止めておくわ。あなたを斬ったら後悔しそうだから」


「それは良かった。私もまだ死ぬ訳には行かないのでな」


「ブラドーさん、あなたやたらと社交的なのね。やっぱり伯爵とか?」

と加奈が聞くと。


「いや、爵位などもっておらん。普通の一般魔王だ」


「ハハハハ、なにそれ。一般魔王って。面白い」

と茜は無邪気に笑いながら


「あぁ、そうそう。白田 碧というかっこいい少年知らない? あなたならハルフェルナを旅していそうだから知ってるかも?」


「それは異世界から来た召喚者なのか?」


「そう、私のお兄ちゃんなの。心当たり無い? クラス35人、召喚されたの」


「さ、さ、35人も! 有り得ない。35人は何かの間違いでは無いのか?」


「やっぱり、そういう反応するのね」


「そこの王子に聞いてみればいかに難しいことか分かるはずだ」


「もう、言われたわよ」


「過去に遡れば召喚できる時代はあったのかもしれないが・・・・・私が生まれてから2000年、聞いたことは無い」


「え~~~ブラドーはそんなオジサンなの!」


「吸血鬼は成人すると年はとらない。ひょっとすると違う世界に召喚されたのでは無いのか?」


「え!!違う世界ってあるの?ハルフェルナだけではないの?」


「お前たちの世界とハルフェルナだけが世界では無いかもしれないからな」


「えーーー違う世界なんて考えたこと無かった~~~~!!」


「私もこの世界の住人だから召喚した神に聞かないと分からない。

 お前たちは『名無しの女神』に召喚されたのだろ」


「何故、分かったの?」


「剣とローブだ。『名無しの女神』神が管理していると言われている。

 それにしても、よくタナ様の剣、ロゼ様のローブを貸してくれたものだな」


「いえ、この子が強奪してきたんです」

と加奈が申し訳無さそうに言う。


「なんと!! 『名無しの女神』はハルフェルナの最高神といわれているんだぞ。そんな馬鹿なことがあるのか!

 お前は人間では無いのか!」


「失礼ね!普通の人間よ!! お兄ちゃんを探していると言ったらくれたのよ。プレゼント!」


そういう茜のお隣で加奈は手を顔の前に出し『違う違う』と手と首を振った。


「何だか、お前たちこそよくわからないな。普通の召喚者たちとは違うようだ。

 何度か召喚者たちに会ったことはあるがお前たちのようなものは初めてだ。

 お前の兄の行方は名無しの女神に聞いてみるしかあるまい。

 35人も召喚できる神は名無しの女神以外考えられない」


「あの女神様と合う方法知らない?」


「私は会ったことがないが、たまに下界に下りてくることがあるらしい」


「たまにって何時よ!!」


「そんなこと私が知るわけ無いだろう!」


「おっさんのクセに物知りじゃないのね~」

と茜はブラドーに悪態をつく。


「そこの娘、こんな娘にタナ様の剣を渡したと言うのは何かの間違いだよな」

と加奈に聞くブラドーであった。


「だから強奪してきたと」

と加奈が答えると。


「やれやれ、これ以上はラスビア渓谷にいる悪魔王・フェネクシーにでも聞くが良い」


「聞けば答えてくれるの?」


「それは分からない。だいたいアイツは寝ているからな。

 が、最古の魔王だから最も詳しいだろう」


「悪魔王と言うくらいだから悪魔なの?やたら好戦的なんじゃない?」


「最強の魔王、大魔王といわれているからな。

 ただほとんど寝ている。『怠惰の魔王』と言われているくらいだから。

 私も500年くらい前に会ったきりだからな。そのときも眠そうにしていた」


「そんな魔王で強いの?」


「強さから言ったら最強の魔王だろう。国一つ滅ぼすのも簡単にやってのけるだろうな。

 が、あいつはそんなことするより寝ている事を選ぶだろうな」


「なにそれ、怠け者じゃない」

と茜が言うと


「正しくナマケモノなのだよ。

 ただ気をつけたほうがいい。

 フェネクシーは『人間の負の感情』を食べて生きている。

 飲み込まれないようにした方がいいぞ」


「なんか、それ怖い。加奈どうしよう」


「それからラスビア渓谷は風が強いから飛空魔法で飛ぶのは難しいぞ。地上を歩いて行くしかない。

 とても危険だから気をつけた方がいい。

 まぁ、そこの赤髪の女がいれば心配は無いだろうが」


「色々教えてくれてありがとう。助かったわ。ブラドー」

と茜が頭を下げ感謝する。


「久しぶりに召喚者と会えて面白かったよ。特にお前たちは面白すぎる。では、さらば!」

と言うとブラドーは飛空魔法で飛んで行った。



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