第84話 エピローグ


「さぁ~勇者・赤城よ。最後に言い残すことは無いか?」


異世界から来た少年は鎖に縛られガルメニア城下の広場に引きずり出された。


余がガルメニアの城に戻って最初にする事は、出来損ないの勇者・赤城の処刑だ。

皮肉なものだ。

まさか、余が魔王になってしまうとはな。

あれほど魔族を憎み嫌ってきたのに。

これも多くの民を殺してきた業なのか。

神々の天罰なのか。


が、後悔は無い。

魔王フェルナンドがハルフェルナを統治すればいいだけの話だ。

魔王になってから体から力がみなぎる。

確実に人間であった頃より強くなっているのが分かる。

剣技など人間だった頃と比べ切れ味が増している。

ただ問題なのは余の剣技に剣がついてこれないのだ。

並みの剣では簡単に折れてしまう。

異世界人の持ってきた武具を使うとしよう。

今の余なら神剣・タナの剣でさえ使いこなせるだろう。

今まで使うことが出来なかった魔法、火の魔法が使えるようになったではないか。

最大級のヘルフレイムが使えるようになったのはありがたい。


軍を指揮する能力、民を支配する能力が上がったのがはっきりと分かる。

命令を強制させることもできる。

なんて素晴らしい能力だ。

やはり、これは余が『世界を支配しろ』というお告げなのだろう。




「フフフフフ 踊りなさい」




イズモニアを征服した今、今後はどうするべきか。

当初の予定通りオリタリアを攻略するべきか。

まさかルホストがあんな状態になるとは。

オリタリアには優秀な魔道師がいるようだ。

気をつけなくてはならないな。


ルホストが前線基地として使えなくなったのは誤算だがイズモニアが丸々手に入ったのなら充分な黒字だ。

イラークに拠点を移し南から再度攻めるか、ワセンからオリタリアの東へ侵攻するべきか。


それともワイハルトがリピンと争っている後背を突くか。

密偵からの知らせによるとリピン攻略に手間取っている様子だ。

クリムゾン魔国がリピンに援軍を出しているようだから仕方が無いといことか。

よもやクリムゾンとリピンが内通しているとは思ってもいなかったがな。

余も魔王になったから紅姫べにひめと決着をつけるのに丁度良いではないか。

ハハハハハハ


さぁ、どちらを選ぶか。




「お前は最初から使い物にならない勇者だったな。いや、その方が余にとっては都合が良いか。ハハハハハハハ

 お前がいなければ余を倒す者は、この世界に誰もいないということだからな。ハハハハハハ」



「黙れ!! フェルナンド!! 必ず俺の仲間がお前を倒す!」


「勇者無しでどうやってた余を倒すのだ?」


「それでも、俺の仲間たちは必ずお前を倒す!」


「ハハハハハハハ、愚か者め! 魔王は魔王で無いと倒せないのだ!」


「それでも!それでもだ!! 俺の仲間たちはお前を絶対に許さない!!」


「逃げ出したガキがか?」


「それでもだ!!」



フェルナンドはしばらく考えた。


「それならお前に楯になってもらおうか。

 スライムの冠を持って来い!」


スライムの冠、それはイフリートの仮面と同じように装備者に呪いを掛けるアイテムの一つ。

徐々にスライムと化してしまう。


フェルナンドはスライムの冠を手にすると鎖につながれ跪いている赤城の頭に被せた。


「止めろ!!」


「この冠は装備すると徐々にスライムになるのだよ。ハハハハハ!!」


フェルナンドの冷たい笑い声が辺りに響く。


「止めろ!! フェルナンド」


「ハハハハハ! どうだ?最強であるはずの勇者が最弱のスライムになる気分は」




「グワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



城下の広場に赤城の絶叫が響き渡った。










「フフフフフ 踊りなさい フェルナンド 踊りなさい」







^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^






俺たちはナミラーに戻ってきた。

帰りは戦利品・・・・・いや、放置されていたコリレシア軍の装甲車を使って帰ってきた。


当然、免許書は無い!が、ここは日本では無いので問題ないだろう。

一応、人目につかないように街道を避けるように走った。

それでも速いし快適だ。

さすがは現代兵器。




智弘、則之は冒険者ギルドへ、将太、七海はアイゼー大将の居る騎士団の詰め所へ

俺とアレックスさんは商業ギルドへ赴いた。


商業ギルドへ入りネーナさんとの面会を申し込むと、ネーナさんが支部長室から飛び出てアレックスさんを抱きしめていた。

ヤッパリ、この二人、怪しいよね。

俺の子種とか言っていたけど、この二人絶対・・・・・百合だよね。


「もう、ネーナ、大袈裟なんだから。碧さんたちが居るから大丈夫よ」


「碧さんたちが居ても心配だったんだから!」


「まぁ、俺はたいしたこと無いですけど、則之や七海がいればたいていの事はね」


「それで、勇者・茜様とは・・・・・・・・」

ネーナさんは言葉を濁した。


俺はマシンガンを取り出しネーナさんに見せると表情が変わった。


「この通りです。勇者・茜様は俺の妹のようです」


「えっ・・・・・・・・・・ なんて言って良いのか言葉が見つかりません」

と、ポツリと言った。


「何れ、朱殷城しゅあんじょうに行って紅姫べにひめに真相を尋ねないといけませんね。

 紅姫べにひめにゲートもあることだし、丁度良いのかもしれませんね」




しばしの沈黙の後、アレックスさんが旅での事を話し始めた。

「碧さんはドSなのよ。聖女様にお小水を強要して・・・・・・」

「碧さん、酷い。聖女さまにも容赦しないのですね・・・・」


「オークのゾンビが・・・・・・」

「え、そうなの・・・・・」


「ヴァンパイアが・・・・・」

「本当・・・・」


話が弾んできたようなのでこの辺で退散するとしよう。

集合場所の冒険者ギルドへ向かった。

冒険者ギルド内は何か色々と騒々しかった。


智弘、則之に合流しこの喧騒の訳を聞くとイズモニアがガルメニアに占領されたようだ。

イズモニアのダニアス皇王を初めとする皇王家の者、全員が処刑されたと言うことだ。

皇王家には女子供いたようだが情け容赦なく全員皆殺しだそうだ。



そして、なんとフェルナンドが魔王になったと。

あまりの話に俺はぶっ飛んだ。


「おいおい、人間も魔王になるのかよ!」


「思い出せ、女神様が『人間も魔王になる』って言っていただろう」


さすが、智弘だ。ヘンタイだが頭も良く記憶力も良い。

あのフェルナンドは最初から魔王だったのではないかと思うくらい残酷で残忍で残虐な男だった。


「フェルナンド自身で皇王に手をかけたそうでゴザルよ」


「普通は皇王は幽閉しておくものだけどな。で、毒殺したりして病死として公表するのがよくあるパターンだけどな。

 ハルフェルナは情け容赦が無いのか、フェルナンドが残虐なのか・・・・・・」

智弘が解説してくれた。



狂ってやがる。フェルナンドはやはり狂っている。

だからこそ、魔王になったのかもしれない。

そこへ将太と七海も合流した。


「アオ君たち聞いた?ガルメニアのこと。ワイハルト帝国のこと」


「ガルメニアは知ってるがワイハルトは知らないが何かあったのか?」


「クリムゾン魔国とリピン国の連合軍がワイハルト帝国と戦っているって」


「え?どういうことだ将太!」

智弘があまりの話しに驚いた。


「ワイハルトの侵略に対してクリムゾンとリピンが協力しているんだって」


「エ!! クリムゾンと言えば魔族だろ!! その魔族が何故リピンに協力しているんだと言うことだよ!!」

あまりの事に大声を上げてしまった。


「トモ君、そんなに怒鳴らないでよ。アイゼー将軍でさえも分からないって言ってたよ」


「人類と魔族が手を結んでいると言うことだぞ」


「魔族と和解できたと言うことかでゴザルか?」


「いや、そうとも言い切れない。

 どの国に野心があるのかということで話が変わってくる。

 ワイハルトに野心があった場合、クリムゾン魔国とリピン国で信頼関係が築かれたということになり人類と共存を望んでいるのかもしれない。

 クリムゾンに野心があった場合、リピンを傀儡としてワイハルトに攻め入り人類滅亡を考えているのかもしれない。

 リピンに野心があった場合、クリムゾンを利用して・・・・と考えているかもしれない。

 すべての国が邪な野心を持っている場合もあるからな」

 

「おいおい、結局何も分からないといっているのと同じだぞ。智弘」


「他にも偶発的な遭遇戦で戦果が大きくなってリピンがクリムゾンに助けを求めたのかもしれないが・・・・・・情報が少なすぎるな。

 色々考えられるが重要なのはクリムゾンが敵か味方かということだろうな」


「俺から見ればクリムゾンは敵でしか無いがな」


そうなのだ、茜ちゃんを殺した紅姫べにひめは殺すべき敵にしか見えない。


「私・・・・・ガルメニアに行くべきだと思うの。みんなを助けに行きたいと思うの」


「そうだな、赤城たちも心配だ。七海は仲の良い井原たちが心配だろうし・・・・・フェルナンドに仕返しがしたいしな」


「碧、フェルナンドは魔王になったようだから仕返しと言っても簡単じゃないぞ。

 山中たちと争うのは得策じゃないと思うのだが」


「赤城を救出してフェルナンドを封印してもらえればザマーなんだがな」


「赤木君たちを救出するべきだと思う」


「将太殿の言うとおりでゴザル」


「智弘、赤城たちが心配だよ。赤城は俺たちの切り札なのだからガルメニアに行って他の奴らを奪還した後、細かい事は考えるようにしたらどうだ?」


「多数決だよ、トモ君。渋っているのはトモ君だけだから」


「とは言うがな~・・・・・・」

智弘は腕を組んで色々と思案していた。


「将太、俺は多数決には反対だ」


「え?なぜ? アオ君だって赤木君たちを助けたいと思っているでしょ」


「思ってはいる。思ってはいるが、俺は自分の意思や多数決より智弘の判断を信じる。

 智弘だって助けに行きたいに決っている。それを渋っているという事は様々なリスクを考慮しているからだ。

 智弘はヘンタイだけど一番賢いし狡賢い。一番冷静で冷徹な判断を下せる。

 自分たちに利益のためならどんな汚い手でも平気で使う。

 今まで智弘の判断に従って失敗した記憶はほとんどない。

 だから俺は智弘の判断を一番信じる」


「ちょ、ちょ、ちょっと待て、碧。お前、それ半分誉めてないよな。ほとんど悪口にしか聞こえないぞ」


「悪口でも智弘の判断に従う!!」


と俺は強く言い切った。


「何だか誤魔化されてるような気がするのだが・・・・・・分かった。

 俺もガルメニアに行くべきだと思う。

 赤城を救い出せばフェルナンドに対してもアドバンテージを得ることができるだろうし、

 他の奴らの協力があればもっと有利に立ち回れるかもしれないしな。

 ただ、基本的にガルメニア軍との戦闘は避ける。

 逃げて逃げて逃げ回る。

 後の事は合流後、考える。

 この案でどうだ?」


「異議なし!」

と俺は強く言い切った。


「アオ君が納得するのなら僕も賛成する」

「無駄な戦いはしないほうが良いに決まってるでゴザルな」

「私もみんなを助けられるなら」


「よし、これでいこう。智弘、救出作戦を頼むぞ」


「はいはい」


と智弘は肩をすくめるポーズを取った。




が、俺たちはこの時、赤城がもう俺たちの知っている赤城ではないという事を知らなかった。



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