第70話 暗闇の町・ルホスト
ルホストの町の方角から稲光が見えた。
「あ~~、七海、雷落としたな。これでしばらくはガルメニア軍も大人しくしているんじゃないか?」
「そうだね。七海さん、凄いね。僕は回復しか出来ないから・・・・」
「将太はそれで良いんだよ。聖女ってのは前線に出て戦う職業じゃないだろ」
「アオ君こそ戦闘職じゃないんだから戦うこと自体間違っているでしょ。また、サリムさんたちに怒られるよ」
「そうでゴザルな。碧殿は戦闘職じゃないのだから後ろにいた方が良いでゴザルよ。将太殿と後衛にいるべきでゴザル」
「じゃ~後からコソコソ中華君を投げるようにするよ」
そこへ智弘と七海が帰ってきた。
「お帰り~ お疲れ様」
「トモ君、七海さんお疲れ様」
「お疲れでゴザル」
「首尾はどうだった」
「さすが、俺たちの七海様だぞ。ガルメニア軍の驚きっぷりを見せてやりたかったよ」
「七海、お前、魔法、一発撃ってきたろう。あれ程無益な殺生はするなと言ったのに」
と七海の目を見る。
犬のお面の中でスルッと目をそらす七海が可愛い。
「碧、臨機応変にいかないとダメだろ。七海が撃ってくれたから無事に帰ってこれたんだぞ」
「そ、そうなのか。悪かった。七海」
「う、うん」
七海が下を向く・・・・・なんか気まずい。
「諸君、ご苦労。これで少しはガルメニアも大人しくなるだろう」
「BLパーティ、ご苦労」
ヘルムートさんとドリスタンさんが労いの言葉を掛けてくれる。
明日の夜にも援軍が到着予定だそうだ。
明後日、セキジョー・ダンジョンへ向かう事に決った。
セキジョー・ダンジョンはサンジョウの近くにあり、ガルメニア軍の支配が及ぶ可能性があるということだ。
危険が伴うのは仕方が無い。
明日のうちに食料や必需品をナミラーの町で購入して出発に備える事にした。
翌夕、智弘と七海がルホストへ偵察兼嫌がらせをして戻ってきた。
智弘に抱えられた七海は地面の着地すると一目散に俺の前から逃げて則之の後に隠れた。
????なに、俺嫌われた? 色々言い過ぎたのか?
「様子はどうだった?」
智弘に尋ねると
「ガルメニア軍は右往左往していたよ」
「そりゃ、そうだろうな。あっという間に四方を壁で囲われたんだからな。壁は壊れていなかったか?」
「あ~厚みがあるからな。壊そうにも簡単には壊れないだろうな・・・・・・
で・・・・・・・・・・・」
「で? で、なんだよ。もったいぶって」
「いや、あの・・・・・・七海がまたやらかした」
「え?何を?」
「ファイヤーボールを10発ほど撃ち込んで」
「撃ち込んで?」
と言った後に七海を見ると則之の後からこちらを伺っている。
「まぁ~人には命中していないと思うけど・・・・・まぁ、家に撃ちこめば火事が起こるよな」
「あぁ、確かに燃えるな。で?」
「その後、土壁の上を閉じるように延ばしたんだよ。早い話、土の屋根を被せたんだよ」
「はぁ~? 何々、どういうこと? 屋根って町全部を覆ったのか?」
「そう、町全部を覆った」
「町を覆えるのか!? 魔力切れとか起こさないのか? そんなこと可能なのか?」
「まぁ、現にルホストの町全体に屋根が付いた訳だし」
「光が射さなくて暗黒の町だな」
「それより、火を消化できなくて上に屋根が付けば・・・・・・酸欠で全滅だぞ」
「エッ! 幾らなんでも隙間とかあるだろ」
「まぁ、あるとは思うが二酸化炭素は重いから町の中に溜まる一方だから・・・・
蓋がされれば新鮮な空気の流入は難しいだろうから」
「おいおい、後に『ルホストの大量虐殺』とか言われないだろうな」
七海をみると則之の後ろに完全に隠れた。
「窒息死しなくてもそうとうなストレスになるだろうな。
ずっと暗い状態が続くわけだし酸欠の恐怖に気がつくだろうから。
外に補給部隊がいたから外と中で壁を壊すだろうから何れは外との連絡は付けられると思うが・・・・・」
俺は頭を抱えながら地べたに座った。
何となくハルフェルナの人たちがリッチを殺そうとするのが分かった気がした。
七海は仲間だから良いが敵にリッチがいたらルホストのような目に遭っていたのは俺たちかもしれない。
「七海!!ちょっと、こっちへ来なさい!!」
座りながら七海ほうを見た瞬間、一目散に逃げ出した。
「あっ、こら~~待て!!」
俺は立ち上がり七海を追いかける。
おいおい、今の俺は料理スキル以外ないが体力は無駄にあるんだぜ!!
俺から逃げ切れると思っているのかい?小猫ちゃ~~ん。
魔道師ごとき余裕で捕まえてやりますわ・・・・・・・・
と思っていたら一気に加速した。
あぁ~~身体強化の魔法使いやがッた!!
持っていたんだ。
いや、レベルが上がったから覚えたのかもしれない。
駐屯地から逃げ出し街道を走り野原の方へと逃げ出す。
が、所詮、体力が常人を超える俺の敵では無い。
徐々に距離を詰め。
「捕まえた!!」
七海の綺麗な手を掴んだ。
その拍子に二人とも草の上に転がってしまった。
「キャ~~捕まっちゃった」
「七海~~~ お前な~ 自重しろよ」
「テヘ」
と首を少しかしげながら言う。
「テヘじゃないだろう。『ルホストの大虐殺』とか言われたら嫌だろ」
「はい・・・・・・」
七海はシュンとしている。
両肩を押さえ俺のほうに向き合わせながら言った。
「俺は七海に人殺しのようなマネをさせるのは今でも反対なんだ。
そういうのは男の役目だから。
女は未来に命を繋ぐのが役目だと思っているから。
七海に人殺しなんてさせたくないんだ・・・・・・させたくないんだ」
俺の声は段々力が弱くなっていった。
「分かりました。出きるだけ人間には使わないようにします。
でも、白田君や水原君たちが危ないと思ったら魔法を唱えます。
人間に対しても魔法を撃ちこみます。これだけは譲れません」
七海の言い分の方が正しい。
間違っている・・・・・いや、甘いのは俺のほうだ。
俺の甘い考えが仲間を危険な目に遭わせる。
分かってはいるのだが・・・・分かってはいる。
でも、七海に人殺しのようなことはさせたくない。
そんな甘い考えが通用する世界では無い。
綺麗ごとを言っているのは俺の方なのだ。
「分かった。そのときは助けてくれ」
「はい」
明るい声で返事を返す。
しばらく沈みゆく夕日を二人で座りながら眺めていた。
ハルフェルナへ来てから夕日どころか月や星などゆっくり見る機会はなかった。
「夕日が綺麗だね」
「もうすぐ月が見えるかしら。月も綺麗なのでしょうね」
俺たちは何も言わず沈みゆく夕日を見ていた。
この世界も東から太陽が昇り西へと沈んでゆく。
そして、月も東から昇る。
俺たちの世界と同じように欠けるのかは分からない。
が、ハルフェルナが地球と同じく丸い球体だとしたら欠けていくのだろう。
夕日は地平線の彼方に沈んだ。
どれくらい時間が流れたのだろうか?
いや、ほんの少しだけかもしれない。
俺は立ち上がり七海に声を掛けた。
「じゃ、戻ろうか」
七海は黙って頷き、手を繋ぎ引っ張り上げた。
手を繋いで駐屯地へ向かった。
七海の手は暖かく柔らかかった。
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