第69話 七海キレる!!


七海の機嫌が悪い。

明らかにイライラしている。


「あの~ 七海さん、私、何かやらかしちゃいました? 食事が美味しくないとか」


「え? 違うの違うの」

手を振って首を振って答えた。


「ここ数日、食事時を狙ってガルメニア軍がちょろちょろ嫌がらせに来るじゃない。

白田君の作ってくれる美味しいご飯がちゃんと食べれないのがうっとおしくて」


食事時の攻撃を受ける事を考えて騎士団と冒険者たちは3チームの交代制になっているが俺たちは全員が一斉に取る事にしている。

その俺たちの食事時を狙ったようにガルメニアは攻めてくるのだ。

しかも3日続けて。


「もう、頭にきた!! 白田君、水原君、騎士団長のところへ行くから付き合って!!」


俺と智弘は手を引っ張られヘルムートさんのところまで強制連行された。




ヘルムートさんのいる騎士団の詰め所に赴き見張りの兵士に面会の旨を伝えるとすぐに詰め所内部に通された。


「どうしたのかね?」

ヘルムートさんが椅子に座るように手を動かした。


「あの~うちの魔道師さんが激オコ状態でして・・・・・・」


「ヘルムートさん、私がルホストへ行って魔法を撃ってきます! 

ガルメニア軍のせいで美味しいご飯をゆっくり食べられません!!」


「おいおい、七海、お前過激すぎるぞ。食事ぐらいで」


「魔道師殿、過激ですな」


俺たちの会話を聞きながら智弘の顔がニヤニヤ笑っていた。


「俺は今でも七見に大量虐殺はさせたくは無い」


「白田君はあまい!! これ戦争なんだから。やられる前にやる!!

もし、みんなに何かあったら悔やんでも悔やみきれません!!」」


うわ~~七海の口から『やる』とか『やられる』とか・・・・・ご馳走様でした。


「そうして頂けるとオリタリアとしてもありがたいのですが、白田殿は極度に魔道師殿が人を殺めるのを拒絶されているので私としては裁可を下せないのですよ」


「私が良いと言っているんですから問題ありません!

もう何人も、この手で人を殺めていますから」


「おいおい、七海、考え直せ。やり過ぎだよ」


「いえ、やります! ヘルフレイムでも撃ちたい気分です」


「気分で極大魔法を使うなよ」


「ちょい待て」


智弘が会話に入ってきた。


「七海、お前のアースウォールでルホストの町全部を囲うことできるか? 俺のアースウォールはあまり硬くは無いが七海のアースウォールはメチャクチャ硬いだろ。

 ファイヤーボールくらいなんかビクともしなかったし壁の上で闘いあっても崩れたりしなかったから。

 アースウォールでルホストの町全体を囲って出撃できないようにしたらどうだ?」


「それはいいアイデアじゃないか! さすが智弘だな」


「え~~~それじゃ、つまらな~~い。私の怒りをぶつけたいの!」


「じゃ、とりあえず囲ってから数発魔法を撃つのでどうだ?」


「囲えば魔法を打ち込む必要ないだろう」


「食べ物の恨みは恐ろしいのよ。試しに全種類撃ってみたい」


「それはちょっと過激すぎるだろ!」


「我が軍としては敵が殲滅するくらいの魔法を放ってほしいのですが・・・・・」


「ほら、ヘルムートさんも撃って欲しいって言っているから」


「だーーーめ。絶対ダメ。そんな事を七海にさせられません!」


「ブハハハハ」

智弘が笑い出した。


「お前たち二人、出来の悪い夫婦漫才にしか見えんぞ」


夫婦といわれ思わず下を向いてしまった。

多分、顔が赤くなっていることだろう。

七海に目をやると下を向いているようだった。

多分、俺と同じく顔を赤くしているのだろう。


「まぁ極大魔法を撃つかは別にしてルホストの町を土壁で囲ってしまおう。

 帰り際に一、二発お土産を置いていっても良いんじゃないか?

 このくらいなら碧も文句無いだろ」




「・・・・・分かった。不必要な殺生はするなよ」


「では魔道師殿、お願いできますか」


「はい」


七海は明るい声で答えた。




夜になり作戦は決行された。

智弘が七海を抱え飛空魔法で飛んでいきルホストの町へ嫌がらせ、もとい、土壁で囲んで出撃できないようにするという作戦だ。

俺、将太、則之、ヘルムートさんで見送りに来たのだった。


智弘が七海をお姫様抱っこして跳ぶ準備をする。


「あ~~いいな~ 七海をお姫様抱っこできて」


「いいだろう~代わってやらないぞ」

ヘンタイ魔法少女が挑発的な事を言ってくる。


「くそ~~」


「アオ君、怒らないの冗談なんだから」


「う、ううん。それではみなさん行ってきます」


七海が咳払いをしながら言う。

智弘がSky highの呪文を唱え空に舞い上がる。

白と緑の縞パンを確認するとあっという間に見えなくなった。





「なぁ~七海。お前、将太に嫉妬していたろ」


「エッ!? な、な、何言ってるの? し、し、嫉妬なんかしてないよ」


「ハハハハ、動揺しすぎだよ。嫉妬していますって言っているようなものだぞ」


「そ、そんな事無いよ~ 緑山君に嫉妬なんかするわけないじゃない。男の子なんだよ」


「将太が聖女になって碧との距離が近くなったのを見てイライラしているんだと思っていたんだけど」


「そ、そ、そんな事無いよ・・・・・」

七海の声が小さくなった。


「アイツの七海への心配っぷりは普通じゃないだろ。

 この作戦だってお前に人殺しをさせるのを極度に嫌がっているだろ。

 これ以上、七海に嫌な思いはさせたくないんだよ」


「そ、そうなの?」


「そうさ・・・・・・・おっと、これ以上は野暮ってもんだな。

 もう着いたぞ。作戦開始と行きますか」


「はい」


七海は明るく元気な声で返答した。



ルホストの町は暗く所々明かりがついている様子だった。

町の真ん中辺りに大きな焚き火が焚かれていた。


智弘に抱えられたまま最大硬度のアースウォールを唱える。

長さ100m高さも優に10mは超え厚みも3mはあろうかというサイズの物が


ゴォー ゴォー ゴォー


と幾つも連鎖するように地響きと共に地面から競り上がってくる。

北をに塀が完成したかと思うと東へ、南へ、西へ町を一周する。

それまで静かだったルホストの町はパニックになり暗かった街に明かりが灯りだす。


カンカンカン カンカンカン


と半鐘の音が響く。


「おお、慌てている。慌てている」


「ご飯の恨みを思い知れーーー!!」


ガルメニアの兵士飛び出てきて周りを囲む壁に驚く。

何人かの目ざとい兵士がこちらを見つけると弓矢で応戦してくる。


「おっと、危ない。もう少し高度を上げるか」


「私のこの数日の怒りを受けなさい! ブリッツ・ライトニング!!」



ゴロゴロ・ドカーーーン!!



稲光がルホストの町を襲い、暗かった街が一瞬明るくなる。


ウガーーー

ギャーーー


と悲鳴が聞こえてくる。


「あぁぁ~ やっちゃった。碧に叱られるぞ~」


「じゃ~もう一発、撃っちゃおうかな」


「それは止めておけ。叱られるだけでは済まないかもしれないぞ。

 作戦は成功したし撤退しよう。

 これで騎士団への義理ははたしたろう」


「はい、分かりました。みんなの下へ帰りましょう」


「碧のところへだろ」


「ち、ち、違いますーーーーー!」


「ハハハハハ。そういう事にしておこう」


智弘は七海をお姫様抱っこしながらナミラーの町へ戻った。

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