第4話 職業選択の不自由



「うわーーーーー」

「マジかよーーー」

「嘘でしょ~~~」

「私が選んだのはこれじゃなーーい」

「ズレたーー」

「押すときにズレたーー」

「やり直しだ!やり直し!!」


クラスメイトの悲鳴や罵声が空間に響きわたる。

将太が不安そうな顔をして寄ってきた。


「アオ君、どうしよう・・・・・僕、『聖女』選んじゃった!!」


「え、将太、『聖女』って女性職だろ、成れるのか?」


「わ、わ、分からないよ。僕は『僧侶』が良かったんだけど」


そこへ、則之も寄ってきた。


「『侍』を選んだつもりが・・・・・『姫騎士』になってしまったでゴザル」


ちょっと待て、俺が一番上のを選んだから一つずつズレてしまったってこと?

やばい、この責任は俺にあるかも・・・・・

変な汗が止まらない。


「ぶわっはっはっは!爆笑もんだな!

将太は『聖女』というのも似合うかもしれないが、則之の『姫騎士』はダメだろ。

190mもある姫騎士って・・・・・ゴリラじゃないんだから」


豪快に笑いながら智弘がツッコミを入れる。



「智弘、お前、口が悪すぎ。『魔法少女』を迷いも無く選ぶヤツに則之も言われたくは無いぞ!

『姫騎士』って職業なのか?」


「普通はお姫様や爵位を持っている家柄の女騎士を言うはずだから職業では無いぞ」


だよな。普通なら『騎士』の事を言うはずだよな。

よく分からない女神様セレクトだ。


「で、碧は何を選んだ?」


「『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』!!」


「ぶわっはっはっはっは、それ絶対ダメなヤツだろ。俺なら絶対、選ばないぞ。ぶわっはっはっは」


智弘は出っ張った腹を抱えながら爆笑してやがる。



「『魔法少女』を迷いも無く選んだヤツに笑われるとイラッとするなー」


「僕、『聖女』なんて恥ずかしいよ。みんなに笑われる。変更できないかな?」


「将太、お前の『聖女』はアリだぞ。似合ってる、似合ってる。俺が怪我したら膝枕で看病してくれ」


「嫌だよー アオ君。からかわないでくれよ」



「大丈夫よ、緑山君。私『リッチ』だから養ってあげる。

商人でお金持ちだから何とかなるから大丈夫。お姉さんに任せなさーーい」



え?『リッチ』って商人なの?モンスターじゃないの?

俺はあまり、ファンタジーに詳しくないからよく分からないけど、骸骨の魔法使いじゃないのかな?



「七海、『リッチ』って・・・・」


「しおーーーん、こっちこっち、こっちにおいでー」

「変態が移るから、こっちおいでー」


七海の仲の良いクラスメイト達に呼ばれて行ってしまった。

俺は慌てて智弘に尋ねる。



「智弘、『リッチ』って骸骨のモンスターだよな~?」


「そう、最強の魔法モンスターの一人のはずだが、

『キッチンセット』を『女神の祝福』に授ける女神様だからな案外普通の『商人』の可能性もあるな。

金持ちで使われるのは『rich』、アンデッド・モンスターは『lich』

RとLの違いがあるがカタカナで書いてあるから何とも言えないな」


「そういえば『商人』ってなかったよな」


とパネルをイメージして出してみようとするがもう出てこなかった。

嫌な予感がする。こういう予感は往々にして当たるから始末が悪い。

そう思いながら女神様の方を向くとクラスメイト達が抗議している。


「やり直してください」

「『忍者』選んだのに『モンク』なんて、話しが違う」

「私は『賢者』がいいのに『吟遊詩人』ってなによー」

「『デュラランダル』ってなんだよ、俺は『ワレトラマン』になりたいんだよ」


「はーーーい、皆さん変更は出来ませんよ。

抗議も受け付けません。

不慮の事故があったかもしれませんけど

皆さんが力を合わせれば良いのです。

皆さんが力を合わせれば良いのです。。

大事なことなので2回言っておきました」


「いやだよー、こんな職業」

「勘弁してくれよ」

「もうやだー」

「ズガーンダムを速攻でゲットできた俺は勝ち組!」


クラスメイト達はまだ、文句を言っている。

『とても便利なキッチンセット【オマケ付き】』を選んだ俺は果たして正しかったのだろうか?

『一抹の不安』どころか『不安』しか無い。



「女神様、質問があります。先生やバスの運転手さんはどうなってしまったのでしょうか?」


井原が挙手して質問をする。

こんなときにもマジメなヤツだな。

よく覚えていたな。俺なんか今置かれている状況で他人のことを考える余裕はなかった。

井原は何を選んだのだろう?風紀委員が露出の高そうな『踊り子』だったら笑ってしまうな。


「残念ながら助けることが出来ませんでした。申し訳ございません。

20歳を過ぎると一人召喚するのにも多大な力が必要になってしまうのです。

先生、運転手さん、ガイドさんの3人でこのクラス生徒35人分に相当します」


「えっ、先生が・・・・・・」

「面白い先生だったのに」

「ガイドさんまだ若くて綺麗な人だったのにな~」

「先生・・・・・」

「ガイドさんと写真撮っておきたかったな~」

「先生・・・」

「う、う、う・・・・」


すすり泣きが聞こえてくる。

40過ぎた男性教諭だったが生徒を大切にしてくれる先生だった。

ガイドさんも24,5の綺麗な人だったのに。

・・・・・・誰も運転手さんのことは気に掛けてないんだな。

俺も印象薄いし・・・・

亡くなった3人の冥福を祈っておこう。

多分、落ち着いたら俺たちクラスで葬式をしないといけないだろう。


「女神様、我々の行く世界はどんな世界なのですか?」


お、忘れていた。さすがだ、委員長・赤城!!

いつでも冷静なヤツだ。


「文明や生活は皆さんの世界の中世を想像してください。

その異世界の人たちはその世界を『ハルフェルナ』と呼んでいます。

大小さまざまな国があり、獣人、魔族、魔王もいる世界です。

その中の人間族が納める3大列強国の一つ『ガルメニア王国』の王から召喚要請がありました。

皆さんは、ガルメニア王の元へ行っていただきます。


ちなみに『ハルフェルナ』の共通言語は日本語、貨幣は円です。

言葉に困ることは無いでしょう。

物価水準も国と国で若干の差はありますが日本と同じくらいと考えてください。」


「なぜ、日本語なのですか?意味が分かりません!異世界なのですよね」

赤城、ナーーイス。


「それは太古の昔『ハルフェルナ』で神と魔神の戦いがあり、

その戦いで召喚されたのが日本の勇者様だったのです。

その者は天界の神々と共に魔神を倒し『ハルフェルナ』を救い、

後に『神』と言われ今もなお称えられています。

その時に使ったのが私の隣にある剣とローブです。

私も他の神々と一緒に戦いに参加したのですよ」


女神様は『天界のなんちゃら』を一つずつ指を差しながら説明してくれた。

やはり、神具だったようだ。

あの二つ、持って行きたいな~~


ちょっと待て、太昔ということは、この女神様・・・・・

ババーなんじゃない?

太昔というのだから100年レベルの話しじゃないはず、1000年単位。

1000歳超えてるババーなんじゃないか?


「あーーー、皆さん、私がババーだと思ったでしょう。

残念、ここは時間の概念が無いのですよ。

皆さんの世界、異世界とも時間の経過が違いますからね。

だから、

ピチピチですからね。

ピチピチですからね。

ピチピチ!! 

ピチピチ!!

大事なことなので2回言いました」


痛いな~この人。でも俺はこの女神様大好きだぜ。


「他にも日本からの召喚者が『ハルフェルナ』の危機を救い、

皆さんの世界、日本の文化などある程度根付いています。

お米もありますからね。

ただ文明レベルは魔法が高度に進化しているため現代の日本より遥かに遅れています。

皆さんの世界でいうと中世あたりを想像してもらうと良いでしょう」


「マジか、米食えるのか」

「日本人はお米よね~」


米が食べられるなんてありがたい。

良い世界に送り込んでくれる女神様に感謝と。


「ハルフェルナには多くの魔王がいます。

魔王は魔族の者だけがなるとは限りません。

異世界人も召喚者さえも魔王になることがあります。

ただ、すべての魔王が邪悪なものとも限りません。

数は多くはありませんが人間に友好的な魔族の王もいます。

ですが魔王と言われる者は絶大な力を持っています。

危険な存在なので注意してください」



キッチンセットではなんの役にも立たないので、その絶大な魔王様とは距離を取る様にしておこう。



「みなさんも魔王と相見えることになると思います。覚悟しておいてください。

魔王を

封印できるのは『勇者』だけです。

封印できるのは『勇者』だけです。

大切なことなので2回言っておきました。

忘れずに覚えておいてくださいね」


『勇者』選ばなくて良かったーーw

『勇者』選んだら強制的に魔王討伐の先鋒、決定。

で、俺たちの『勇者様』は誰なんだ。


「十中ハ九、赤城が『勇者』だな」


「やっぱり、智弘もそう思うか?」


「あ~~間違いないだろう。あいつ、迷わず選びそうだもん。

だいたい一番モテルいけ好かないヤツが『勇者様』ってのが異世界もののお約束だよ」」


「リーダーシップもあるし人望もあるし、頭や運動神経もいいから赤城君なら、ピッタリじゃないかな」


将太も智弘に同意見だった。

赤城なら問題ないだろう。


「『勇者』さんになったのは誰ですか?」


七海がみんなに問いかけた。

七海が『女勇者』なら俺の命を掛けて守ってあげてもいいかもしれない。

まぁ、どちらかというと『主人公キャラ』より守られる側の『ヒロイン・キャラ』だよな。


「俺が『勇者』です」


あ~~~さいですか、さいですか。

赤城君ですか。こういう美味しい役どころはイケメンが持っていくのね。

分かっていましたよ。分かっていましたよ。


「赤城君、頑張ってみんなを守って魔王をやつけてくださいね」


「分かった。七海さん。頑張るよ」


おい、ちょっと待て、なに二人で見つめ合っているんだ!

赤城!なんか良い雰囲気作ってないか!

お父さんは認めませんよ!!

俺の、いや、俺たちの七海を独り占めするきか!

許さんぞ、許さんぞ。

俺のキッチンセットで成敗・・・・・することはできないよね。


さらば、七海。ありがとう七海。

お前は赤城のハーレム枠に行ってしまうんだな。

お前の二つの巨大な山に顔を埋めさせてもらったことは忘れないよ。


「赤城君と七海さん、美男美女同士でお似合いだね」


将太、お前まで言うか!

お前も中性的で美少年で女子から人気があるぞ。

少なくとも俺の100倍はモテルぞ。


「赤木君を守らないといけないでゴザルな」


則之がつぶやいた。


「そうだな。封印ということは赤城が要になると言うことだ。」


「多分、異世界だからレベル上げとかもあるだろうから、赤城が倒されないようにしないとマズイな」


「俺のキッチンセットで守ってやるよ!!」


「ぶわっはっはっはっ! 碧、それは死亡フラグだぞ」


「碧殿、それは雑魚キャラっぽいノリですよ」


やばい、今、マジで余計なことを言ってしまったかもしれない。

俺、雑魚なの?

死んじゃうの?





「さぁ~ 皆さん目を閉じてください。

『ハルフェルナ』へ転移してもらいます」


目を閉じなかったら、どうなるんだろう?

ここに残ったままかな?


「目を閉じないと、どこか知らない世界へ飛ばされることになりますからね」


ギクッ、あの女神様、俺の心の中を読めるのかよ。

女神様、先ほど『ババー』と思った事を心から謝罪します。

それより、まだ聞きたいことが沢山あるのに・・・・

俺は思わず


「女神様、他にも聞きたいことがあります」


「残念ですが時間切れです」


「女神様、ハルフェルナへ行っても会えますか?助けてもらえますか?」


「異世界へ降臨することもありますから会えるかもしれませんが、

神は余ほどの事がない限り、人間の理に干渉するべきでは無いので助けることは難しいかもしれません。

それでも、出来る限り手助けはしたいと思います。

今までで最高の『女神の祝福』を与えました。

皆さんが協力さえすれば帰還することは難しくは無いと思います」



何故だかわからないが俺はこの女神様に親近感を覚える。

ほぼ会うことは出来なさそうだ。残念。



「それでは皆さん、目を閉じてください




皆さんが異世界から無事に帰還できる日を願っています。



いってらしゃ~~~~い」




この女神様だから普通に手を振るのではなく、

ハンカチを持って大袈裟に振る芝居じみた送り出し方が脳裏に浮かぶ。



俺は意識が遠のくのを感じた。

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