第3話 職業選択の自由



「ハーーイ、皆さん、余興は終わりです。時間が無いので説明に移ります。

先ほど説明したとおり異世界へ行って頂くのですが、この優しい女神ちゃん、

皆さんを手ぶらで転生させるわけにはいきません。

これから、『女神の祝福』である職業かアイテムのどちらか一つを選んでいただきます」


「さすが、美しい女神様。きっと良い物を用意して頂けるのですよね?」


智弘が揉み手をしながら女神様のご機嫌を伺う。


智弘、お前、悪代官に取り入る三河屋かよ。

駄女神呼ばわりしていたヤツがどうしたんだ。

飼いならされた犬のように従順になりやがって。

絶対、異世界転生にワクワクしてやがる。

他のみんなは不安がっているのに・・・・・これだから『オタク』ってヤツは。


「ふふふ、そなたも悪よの~~ ちゃんと良い物を用意しておいたぞ!」


うわ~この女神様、ノリ良すぎるだろ。

日本のTVでも見ているのか?



「ちょっと待ってください。女神様」


風紀委員の井原 藍が挙手しながら女神様の話を遮った。


「転移先の召喚主の元とおっしゃいましたが、行くだけで良いのですか?」


「それは行ってみないと分かりません。

召喚するのも簡単では無いので意味無く皆さんを呼んだわけではありません」


「無責任すぎるぞ」

「いい加減だぞ」

クラスメイト達の罵声が飛ぶ。

召喚するほうも意味無く償還するわけでは無いので」



「私たちの世界には帰れないのですか?」


「異世界から帰還する方法は『ゲート』を使えば元の世界に戻れます。

『ゲート』は多大な魔力を消費するので簡単ではありません。

そして、『ゲート』は魔王城や古代遺跡など普通の人間が入ることが出来ないところにあります。

非常に危険なところに有ります・・・・・・


私に出来きることは皆さんに『女神の祝福』を与えることだけなのです」


「死、死、死んだら元の世界に帰れたりしませんか?」


「皆さんの世界と同じように異世界も死んだら、それで終わりです。

ゲームのように生き返らせることは不可能です。

間違っても死んだり、自暴自棄になって自殺しないようにしてください。

くれぐれも皆さんの居た世界と同じには考えないでください。

異世界は危険です。モンスターは勿論、人間からも殺される場合もありますからね。

身の回りには注意してくださいね」


空気が凍りつくのを感じた。

それはそうだ、まだ、俺たちは『死』を受け入れるにはあまりにも若すぎる。

いや、もう俺たちは一度死んでいるのも同じなのだが・・・・・なのだが・・・・



「諦めろよ!井原!! 本当なら俺たちは一度死んでいるんだぞ。

それを女神様に救ってもらったんだ。ありがたく思えよ。

そうですよね。女神様」


智弘が揉み手をしながら女神様の顔色を伺う。


智弘、お前、絶対悪人だよ。


「そう言っていただけると皆さんをお救いした甲斐があります」


「そうだ、ありがたく思えよ。しかも女神様から祝福まで貰えるんだぞ!!」


「うるさい!! 変態メガネ!」


「お前だってメガネじゃないか!」


「学校に如何わしい本を持ってくる変態と一緒にしないで!! 不潔!! 不潔!!」


「智弘、止めろ、冷静になれ」


「藍ちゃんも落ち着いてー!」


ナイス、ナイスだ、七海!!お前は空気を読める理性的な女性だ!!

二人で智弘と井原の間に割り込み、これ以上炎上するのを防いだのであった。


智弘と井原は凄く仲が悪い。

原因の半分くらいは俺にあるのだが・・・・・

新学年が始る4月に智弘の『男のロマン』から秘蔵の一冊、

『巨乳帝国』を借りたのだが運悪く風紀委員の井原に摘発されてしまった。

あえなく『巨乳帝国』は没収、俺と智弘は職員室の前に1時間正座させられた。

これを世に言う『巨乳帝国60分の刑』と言われ、今もなお学校の語り草になっている。

この話は同じ学校に通っている妹の茜にも伝わり数日間、俺への待遇は悪かった。

毎日、俺の弁当も作ってくれる優しい妹なのだが


「スケベ」「エッチ」「巨乳」「H」


と海苔やふりかけで文字が書いてあった。

が、「ヘンタイ」と書かなかったことに深く感謝をしている。

妹よ、ありがとう。




「美しい女神様、どうぞ、どうぞ、話を進めてください」


ぐるぐる巻きの簀巻きな俺は女神様に媚を売りながら説明を続けてもらった。



「話しが途中になりましたけれど、皆さんには職業かアイテムを選んでもらった後に転移していただきます。

転移先の世界に行けばに『女神の祝福』が発揮されるようになります。

それでは皆さん、目の前にパネルがあるとイメージしてください」


女神様の言われたとおりにしてみると


「お、おおおおお」


目の前にパネルが現れた。


「おおおーーー」

「パネルが出てきたよ」

「なんかスゲーぞ」


クラスメイト達の驚く声が聞こえる。

誰もがパネルを出すことに成功したようだ。


「これが『女神の祝福』の一覧です」


パネル上には


とても便利なキッチンセット【オマケ付き】

移動戦士・ズガーンダム 

某国一個師団を自由に召喚

ワレトラマンに一日一回変身出来る

デュラランダル

アロロンダイト

エクズカリバー

ミヨ~~ンニル

グルグルニル

ロンロンギヌの槍【防護スーツ付き】

イージーの盾

ライトセイバー


勇者

魔法剣士

剣聖

聖騎士

重装騎士

姫騎士

武道家

魔法少女

魔法使い

僧侶

聖女

リッチ

シスター

忍者

モンク

錬金術師

賢者

吟遊詩人

踊り子



と『女神の祝福』の一覧が現れた。

上のほうがアイテム系で下のほうが職業系のようだ。

・・・・・が、何だかいい加減なアイテム名だな。パチモノ臭が匂ってくる。


「おーーーなんだかスゲー」

「色々あるな~」

「どれにする?どれにする?」

「魔法剣士なんかかっこいいな~」

「ズガーンダムか、昔見たな~」

「女神様、太腹ーーーー」


もう一度中に浮かんでいるパネルを見た。


「うん???」


俺には一番上の『とても便利なキッチンセット【オマケつき】』が、このように見えた。




   これしか有りえません!! 他はゴミ!

       ↓

とても便利なキッチンセット【オマケつき】  ←これ一択 他はハズレ!!

       ↑

   絶対、これがお得!! 後悔させません!!!





なんだこりゃ?どうみてもキッチンセットなんてハズレだろ。

【オマケ付き】は気になるが、これを選んだら終了確定じゃないか?

異世界だろ? 戦闘があるんだろ? キッチンセットでどう戦えというのだ?


俺としてはズガーンダムなんかが良いと思う。

勇者とかは面倒臭そうだし、格闘系は痛い思いしそうだし・・・・・


某国一個師団召喚って一個師団ってどれくらいの戦力か分からないが戦争でもやるのか?

師団が勝手に戦ってくれそうだから怪我しないで済みそうだな。

某国ってカメリア軍かな?

いや、現代の軍隊とは書いてない。中世時代? いや、それより昔の一個師団かもしれない。

この女神様、一癖も二癖もありそうだからな。



「私はシスターなんかいいかな~」

「侍?忍者?侍?忍者?・・・・・・・・」

「異世界と言ったら、魔法だな」



みんな悩んでる。

そりゃ、そうだ命の危険がある異世界だもんな慎重に選ばなくては。

ふと視線の気配がして顔を上げ見回してみると痛い女神ちゃんと・・・・・

おっと、素敵な女神様と視線があった。

ニコッと微笑む女神様。

俺は何気なしにパネルの下のほうへ指を動かすと女神様は動かすと渋い顔をしながら首を横に振る。


エッ!ダメなの?


指を上のほうへ動かすと笑顔になって縦に振る。


エっ 何??どういうこと?


人差し指を立てて二度三度、上へのジェスチャーをするとウン!ウン!!と満面の笑顔でうなずく。


エッ? 『とても便利なキッチンセット【オマケつき】』を選べと?


オマケという言葉にやたらと惹かれるのだが・・・・これは地獄へ一直線コースにしか思えないのだけど。

もう一度、女神様を見て上のジェスチャーをすると、


全力でうなずく。


やっぱ、これを選べということなのか・・・・

選びたくないな~

でも、なぜ女神様が教えてくれたのだろう?



「おい、碧、どれにした?俺は決めたぜ、『魔法少女』だ!」


「ハーー?? 智弘、お前、頭大丈夫か?お前が『魔法少女』なんて犯罪的な絵だぞ」


「異世界だぜ、絶対に成れない職業になったほうがいいだろ。しかも、魔法使えるんだぜ」


「あっ、はい・・・・・」


俺は、それ以上何も言い返せなかった。

コイツはイカレている。異世界に対する恐怖心など無いようだ。


「では、『魔法少女』をポチッと」


パネルを見るとさっきまで表示されていた『魔法少女』が消えて下に書いてある職業が上にシフトした。

ぶれない、智弘はぶれる事の無いヘンタイだ。



「さぁ~皆さん、早く選んでくださいね。どれも一点しかないので早い者勝ちですよ~」


早い者勝ちの言葉を聞いて慌てて『とても便利なキッチンセット【オマケつき】』を選んだ。

信じるぜ、優しい女神様。


その瞬間、あちらこちらから


「あっ」

「あぁぁぁぁぁぁぁ」

「嘘だろう」

「何で~~」

「マジかよ」

「信じられな~~~い」


クラスメイト達の怒号にも似た絶叫が俺の耳に聞こえた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る