第2話 女神様、登場
「ヒーーーール」
空から白く輝く靄のような物が俺たちを覆う。
心地良い。安らぐ。
クラスメイトも一瞬で落ち着きを取り戻し、叫び声は静まった。
どうやら痛みは消えたようだった。
声の主の方を振り向くと、
部屋の上のほうから真っ白な服を着た背中に羽の生えた美しい女性がゆっくり降りてきた。
その女性は『伝説のなんちゃら』の間に止まろうとしていた。
天使?
どう見ても天使だな。さっきのは魔法なのか?
ヤッパリ、ここは天界なのだろうか?
天使を良く見ると・・・・・・
あれ?ゴンドラに乗ってる?
魔法で降りてきたんじゃないの?
羽に見えたのはゴンドラに付いている飾り?
エ、エーーーーーー
「天使?」
「ゴンドラ?」
「羽、無いよ」
「え、え、え?」
「どうなってるの?」
クラスメイトも色々と気がついたようで先ほどの静寂から辺りはざわめき始めた。
天使でなければ怪しい女性だよな~
変人?
「よっこいしょっと」
おいおい、「よこいしょ」っておばさんかよ。
天使改め怪しい女性がゴンドラから降りて
「まだ、どこか痛かったりする人はいますか?
念のために、もう一度ヒールを掛けておきますね」
「ヒーーーール」
さっきと同じく心地良い白く輝く靄に包まれると気分は落ち着く。
「はい、これでツカミはOKですね」
ちょっと待て、そのツカミというのはゴンドラ・ネタか?
それとも、ヒールの方か?
どっちだよ。
「すいません。お姉さん。クラスメイトを助けてくれてありがとうございます。
ここはいったい、どこなのでしょうか?」
お、さすが我がクラスの出来すぎ君!
イケメン委員長の優等生 赤城 雄哉!!
先陣を切って質問するところは頼れるリーダー!
クラスの女子のほとんどは「赤城く~~~ん」状態。
目がハートマークになっているのがハッキリ分かる。
が、女子からだけでなく男子からも信頼が厚い。
俺も女子だったら少なくとも俺に惚れるより赤城に惚れることは間違いない。
世知辛いぜ、この世の中は。これ、現実なのよね。
「ここはですね~」
「天界だろ、そして、異世界へ召喚だろ。残念女神!それとも駄女神と呼んだほうが言いのかな?」
と、と、智弘。お前、なんて事を!! なぜお前はそんなに偉そうなんだ! 空気を読めよ。
「あああああああ、それ言っちゃいます?言っちゃいます?
こんな可憐で優しく美しい女神ちゃんに、そんな暴言、吐いちゃいますか~」
おいおい、自分で可憐で優しい美しいとか言う?
しかも自分に「ちゃん」付けって。
痛い人なんだな。
でも、このノリ、嫌いじゃないぜ。
「そうですか~ あなたには『女神の祝福』は無しということで宜しいですね」
「さーーーせん。女神様、私が間違っておりました」
『女神の祝福』と言った途端、智弘はスライディング・スーパー土下座を決めたのであった。
智弘、お前、変わり身、早いな~
出世するぜ。
「智弘、赤城が話を進められないから少し大人しくしていろ」
「水原君はそこで少し正座ね」
ナーイス、ナーーイッス、俺は七海にサムアップをした。
「女神様とお呼びすれば宜しいでしょうか?質問があります」
「はい、そう呼んで下さい。くれぐれも残念女神とか駄女神とか呼ばないでくださいね。
ガラスのハートにヒビが入っちゃうので。
女神にも禁則事項があるのですべてを答えられるわけではありませんが、
抵触しない範囲でお答えします」」
う~~~~ん、やっぱり残念な女神様だな。
でも、俺、この女神様、好きかもw
「う、うん、女神様。我々はどうなっているのでしょうか?
バスに乗って崖から落ちたとこまでは記憶にあるのですが」
咳払いを一度しながら赤城は尋ねた。
「そうです。バスで崖から落ちたところを私の力でここへ転移させました。
本来なら、あそこで皆さんは全員亡くなっていたと思います」
やはり、そうか。あの高さから落ちれば死んでいて当然だ。
「女神様、ありがとうございました。女神様のおかげで救われました。
ところで、ここはどこなのでしょうか?」
赤城、お前冷静だな。冷静すぎるぞ。
「『女神の間』と言われています。
ここには時間という概念がありません。
ここには時間という概念がありません。
簡単に言えば時間が経過しないと思っていただければ良いでしょう」
?なぜ2回言う?
「大事なことなので2回言いました」
そ、そうなの・・・・・
「僕達は元の世界へ帰していただけるのでしょうか?」
「今、戻っても転落死するだけですよ」
「このまま、ここにいるだけですか?」
「みなさんには異世界へ転移してもらう事になります。
そして、転移先の召喚主の元へ行っていただきます」
「嫌よー、今すぐ帰して。お家に帰りたい!」
「パパ、ママに会いたい」
「帰して、家へ帰して」
女子達がヒステリックに騒ぎ出す。
あ~~、俺も家に帰りたい。
父さん、母さん、妹も心配するだろうし、犬のタナとロゼの散歩も行ってあげないと可愛そうだし・・・・
「おばさん、俺たちを帰せよ。こんなとこに用は無い!!」
「いいから、家に帰せよ、家に帰りたいんだよ、おばさん!!」
「ババー、御託はいいから、帰せって言っているんだよ」
あぁぁぁぁぁぁ、お前ら、『おばさん』『ババー』それは言っちゃダメだ。
仮にも女神様だぞ! ちょっと空気を読めよ。
だから、お前らは「ガサツ」「無神経」とか言われるんだよ。
うちの学校は、けして進学校では無いがバカ高校でもない。
どこにでもある普通の中堅高校だ。
その普通・中堅高校にも出来の悪いヤツは必ずいる。
こいつらは『バカ』では無い、『バカ』ではないのだが。
ただ単にどこにでもいる空気が読めず、意気がるだけの・・・・・・
『アホ』
「あぁぁぁぁ、女神ちゃん、怒っちゃいました!
これから、あなた達三人は、アホ1、アホ2、アホ3と改名しちゃいますね~」
女神様が宣言すると3アホの名前が思い出せない。
思い出せるのは、やはり、アホ1、アホ2、アホ3。
怖いぜ、女神様。
俺は空気が読める男だ。ここは大人しく下手に出よう、けして逆らわないようにしておこう。
『長い物にはぐるぐる巻きに巻かれろ!簀巻きの如く』これが俺の好きな言葉の一つだ。
「ババー、ふざけんなよ!!」
「ぶっ殺すぞーーーーーー」
「名前を戻せー」
三人は叫びながら女神の方へ突撃して行った。
が、女神が手のひらを三人に向けながら片手を前に突き出すと、
手の少し前に透明なバリアのような壁が現れ見事に三人は壁に激突。
そして、その場に倒れた。
「あーーこれが若き血の暴走というヤツですかね。女神ちゃん、疲れちゃいます」
この女神様、いい性格している。
「この三人は脳筋なので『戦士』の職業が良さそうですね。
はい、決定!! 『ポチッとな』
私、優しい女神だな~ 本来なら『無職』でも構わないのだけど」
自分で、いい子チャン・アピールする、ちょっと痛い女神様。
『ポチッとな』・・・・・
無いわー!絶対無いわ!!
今どき『ポチッとな』は無いわ。
でも、そんなノリの女神様がますます好きになった。
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