第25話 女騎士と黒蛸と ①
外はすっかり夜になっていた。
私は高鳴る心臓を押さえながら壁にもたれて、深呼吸。火照った顔を冷やそうと両手で覆うが、あまり効果がないっぽい。
私の頭の中で、さっきエレノアくんが言った言葉が何度もグルグル回る。
『僕はリリィに好――――』
アレって、いわゆる……こ、こここ告白宣言だよねッ!? 勘違いじゃないよね!? 夢とかでもないよねッ!?
「キャー―――――ッッ!!!!!!」
我慢できず、私は両手で顔を覆いながら絶叫しながらダッシュをする。近くにいたおじさんがギョッと驚いたような視線を向けるが気にしない。
とにかく今は叫んで走りたい気分なの! 嬉しさが止めどなく溢れてきて、じっとしていたら頭がおかしくなりそうなのだ。
「~~~~~~~~♪♪♪」
気が付けば走りながら鼻歌を奏でていた。体が羽が生えたかのように軽い。今なら空も飛べそうだ。
長かった……! 本当に長い初恋だった。何度もすれ違って空ぶって空しくて、泣きそうになった夜は一度では済まなかったけど、
まぁまぁ、それも全て帳消しにしてやろうではないか! 両想いさえなれば、過去の悲しい記憶もただの恋物語の前振りに早変わりである。
ああ! この世はなんて素敵なのでしょう! 神様、私とエレノア君を巡り合わせてくれてありがとうございます! 私は今、幸せの絶頂にいます!
ありがとう闇魔術! ありがとうお姉ちゃん! ありがとう世界! ありがとう自然! ありがとう皆!
自分でも馬鹿な考えだなぁと思いつつも、感謝したい気持ちが抑えきれず手あたり次第に脳内で感謝の言葉を述べる。まさに有頂天という言葉の擬人化が今の私である。
と、走りながら懐にあるスマホが震えている事に気づく。徒歩にまで速度を下げて、着信音を鳴らすスマホを手に取って見る。
相手はお姉ちゃんだった。
『あーもしもし? おいお前今どこにいんだ? 早く帰って来ねーと餓死するだろうが、ワタクシ様が』
「ごめんごめん! もうすぐ自宅に戻れるからもうちょっと待ってて! 今日は遅いからどこかでご飯食べよっか!」
『……んー? なんか気持ち悪ぃぐらい上機嫌だなお前。まぁ胸焼けするぐらいテンション高いのはいつもなんだけどな。お前、なんかいい事あったのか?』
流石お姉ちゃん。たった数秒の会話で私の機嫌の良さに気づくとは!
「んっふっふっふ。お姉ちゃんの言う通り、凄くいい事があったんだよ! 後でゆっくりじっくり教えてあげるね!」
『興味ねぇよボケ。……つーかワタクシ様の試作品魔道具の調子はどうだ? 不具合があったらスグに言えよ。それを見つけるためにお前に貸してやってんだから』
「不具合なんてとんでもないよ! やっぱりお姉ちゃんはパーフェクトな天才だよ! あー私お姉ちゃんの妹で本当に良かったぁ!」
『あっそ』
「死ぬほど興味なさそうッ!?」
予想通りの反応だけに、嬉しくて自然と口角が上がる。私が褒めちぎりお姉ちゃんがバッサリとそれを切り捨てる。何百回とやって来たこのやり取りが、私はとても好きだった。
「あ、そういえばお姉ちゃん! 貸してくれた魔道具だけど、もう使わなくても大丈夫だから!」
『……へぇ。何とかなったのか?』
「うん! 元気と勇気をいっぱい貰ったよ! 流石にまだちょっと魔道具ナシで会うのは気まずいけど――でも、もう頑張れる」
言ってしまえば、姿を変えてエレノア君に接触するのはかなりズルい行為だ。私はお姉ちゃんの優しさを利用しただけなのだ。
--なにより、エレノア君に嘘をつき続けるのはとても良くない! 彼に教えられるという夢のような日々だったけど、これ以上魔道具に頼ってしまったらもう戻れない気がする。
ここからは正面突破だ! 小細工はしない。真正面から会って魔道具を使って嘘をついていた事を謝って――
――もう一度彼を好きだと伝えよう。今度はお酒なんかの逃げ道を使わずに!
魔王なんかよりよっぽど厄介だったエレノア君を倒してやる!
『あっそ。お疲れさん。まだまだコスト関係で量産は難しいが、いろいろと改善点は見つかったよ。それじゃあお試し期間は終了ってことで』
お姉ちゃんはそう言うと、返事を待たずに通話を切った。やれやれ、今夜はお姉ちゃんのほっぺたを落としほど美味しいご飯屋に連れてってあげますか! どこにあるか知らないけど!
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