第23話 君の特別になりたくて②
僕が作ったのは、カレーだった。
これが一番嫌いな人が少ないかつ、気合が入っていると思われない――何より失敗する可能性が限りなく少ないという理由でチョイスした。そもそも悩めるほど僕の料理のレパートリーと食材が少ない訳なのだけど。
ルルは机の前で律儀に待ってくれていた。何も無いのに凄く楽しそう。
「……まぁ、不味くはないと……思う」
「わぁー! カレーだぁ!」
カレーを皿によそいで一つをルルに渡す。スプーンを手に取り「いただきます」と小さく呟いた後、湯気の立つカレーを頬張った。
「んん~~~~~!! 美味しいです! 懐かしいなぁ」
「……懐かしい?」
「あ、いやっ。えっと……お、お母さんの味に似ていたので! 懐かしいって思っちゃったんですかねぇッ!?」
アワアワと目を左右に泳がせながらルルは随分と歯切れが悪い様子だった。何か言いづらい事があるのだろうけど、あえて触れないことにした。
僕は自分で作ったカレーを食らう。うん! そこそこ美味しいいつものカレーだ。カレーって野菜を煮込んでスパイスを入れただけなのに、何でこんな料理をした感じの味になるんだろうなぁ。不思議である。
人間、腹が満たされれば自然と気分が良くなるのは陰キャも陽キャも共通であるらしく、僕達はまるで友達かのように他愛のない言葉を交わす。……なんだかこの空気感が酷く懐かしく思えてしまうのだけど、それは僕がおかしいだけなのかな?
お互いのカレーが半分になった辺りで、ふと何かを思いついた表情を浮かべたルルが質問を飛ばす。
「そういえば師匠、何で闇魔術師になろうと思ったんですか?」
「そりゃまぁ……陰キャだからだろ。僕が魔獣を倒せる力を得るためには、闇魔術しかなかったから仕方がなく」
「師匠は魔獣が倒したかったんですか?」
「…………いや、別に魔獣を倒したかったからじゃないな」
魔獣は嫌いだし滅びればいいと思っているけど、世界の平和のためだけに魔獣を討伐しているのかと問われるとちょっと違う気がする。
それよりももうちょっと人間臭い、私欲にまみれた動機だったはず。
僕は――幼少期の頃の自分の心境を思い出しながら、呟く。
「目指した一番の理由はやっぱり、幼馴染にカッコ良く思われたかったんだろうな」
「----ッ!!??」
言ってからルルにとって理解不能な発言をしていた事に気づく。慌てて細くしようとルルを見たら――なぜか彼女は顔を真っ赤にしていた。……そんなにカレー辛かったか?
「……そ、その幼馴染とはどうなったんですか師匠」
「………………あー…………」
痛いところを突かれた。胸の奥がキュッと痛む。
リリィとは気まずく別れたまま、かれこれ一週間以上も会っていない。同じ町にいるからいつか会えるだろうと楽観的に考えていたけど、もうビックリするほど出会わない。すれ違いもしない。
これはいよいよリリィが僕を避けているか……町を出て行ってるかだよなぁ……。
「……まぁアイツはアイツで元気にやっていけるさ。むしろ僕のような退屈な奴がいない方が楽しく過ごせるまである。そもそも性格が違う――陽キャと陰キャは交わるべきじゃなかったんだよ」
キリキリと心が擦り減る音を僕は聞こえないフリをする。ただの強がりなのは分かってる。それでも、そう思わないと立ってられないのだ。
ただでさえ僕はリリィに大きな後れを取っているんだ。彼女と対等になるには、もっと孤独にならなければ。もっと可哀想な人にならなければ。
全ては強くなるために。
切る捨てて切り捨てて切り捨てて切り捨てて切り捨てた先に――
一体僕の掌の中に、何が残るのだろうか?
「………………ッ」
しまった。考えてしまった。
リリィを振ってた夜を最後に必死に逸らして来た、どす黒い不安の塊と目が合ってしまった。
怖い。怖い。怖い。怖い。
一人で生き続けるのが怖い。誰にも認められいで終わる人生が怖い。
僕が生きていたという証明が残せない事実が怖い。
老後が怖い。十年後が怖い。一年後が怖い。一か月後が怖い。明日が怖い。
なにより――孤独に慣れてしまうのが死ぬほど怖い。
その時には取り返しのつかない物を失っていそうな気がして。
「――――――――しょう…………師匠ッ!」
声が聞こえる。そして――気づく。手のひらがほんのりと温かいことに。
「…………って!?」
何事かと思えば、ルルが体を少し前に出して――僕の手のひらを握ってくれていたのだ。
「師匠、大丈夫ですか? 少し横になります?」
不安半分、恥じらい半分でルルは僕なんかに声をかけてくれる。僕なんかを師匠なんて呼んでくれる。
「……悪い。ちょっと考え事をしていた」
そういえば繁華街の時もこんな風にルルを心配にさせたっけ?
ははっ。何だか笑えて来た。
強くなろうと何もかも切り捨てて来たのに。
どうしようもなく弱いのは何故だろう?
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