第22話 君の特別になりたくて①


「…………おお!」



 この反応は、間違いない!



 僕はルルに歩み寄って手に持っていた水晶を眺める。半透明の水晶の中心に、ほんの僅かであるが黒い靄が生まれていた。



「し、師匠……! これって……ッ!」


「出力にやや課題はあるけど――とりあえず『放出』は合格だな」


「やったぁ――――ッ!! やりましたよ師匠! 褒めて褒めて褒めて褒めてッ!!」


「わ、分かったから抱きついてくるなっ」




 ピョンピョンと飛び跳ねて小躍りするルルがこちらに飛び掛かって来たので後ろに下がって回避する「へぶっ!?」ルルは地面に顔面をぶつけた。しばらく床をゴロゴロと転がって悶える。



 僕は机に置かれた水晶に視線を向ける。既に黒い靄は消え去っており、水晶は半透明に戻っていた。



 それにしても……凄い才能だ。

 闇魔術を学んで一週間弱で『放出』の感覚を掴むとは。



 今なら断言できる。ルルは天才だ。僕だって放出を学ぶのに数か月を要したというのに。少しだけルルの魔術センスに嫉妬を覚える。



 ルルならさぞ優秀な――光魔術になれるんだけどなぁ……。



 つくづく勿体ない。なぜ闇術師を目指すのか。まぁ、魔力を放出する感覚は光魔術にも使えるらしいので、全くの無駄の努力では無い筈である……多分。



「師匠! ししょう♪ ししょう~~! 師匠♥」


「……なんだ?」




 ルルはニコニコニコニコと、まるで餌を貰う前の飼い犬のような視線を僕に向けていた。もしルルに尻尾が生えていたら、凄い勢いで左右に揺れていたに違いない。



「師匠ッ! 私が言いたい事、分かりますか?」


「……褒美が欲しいのか?」


「正解です! 流石師匠! 師匠にかかれば私の考えなんてお見通しでしたか!」


「……そんな顔で言われたら誰だって分かるよ」




 一週間も毎日のように会っていたら、何となくルルの言いそうな事は分かる。まぁ、彼女があからさま過ぎるというのもあるけど。



「さぁさぁさぁ! 師匠は私に何をくれるんですか? 楽しみだなぁ~! 愛情が籠った奴が欲しいですね~~~!」


「…………ご飯作ってやる、とか?」




 今日はルルが家に来た時間が遅かったので、いつも晩御飯を作る時間と被ってしまっていた。料理を振る舞う予定は無かったけど、一人分も二人分を作る労力はさほど変わらない。



「えッ!? 師匠の手作り料理ですかッ!? やったーッ!! 私、頑張って良かったぁ!!」



 起き上がったルルが信じられないと言った表情を浮かべた。


 てっきりショボいと文句を言われると思っていたが、予想以上にルルは喜んでくれた。……つーか大げさ過ぎる! やめてくれ! 食費の節約のために自炊しているだけで、人様に振る舞えるほどの料理は出せない!




 爆上がりするハードルに震えながらも、僕はキッチンへ立つ。何の躊躇いもなく僕の後を付いてきたルルに「座っててくれ」とお願いする。見られて料理するなんて、恥ずかして我慢ならん。新手の拷問である。






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