第12話 宴会という陰キャの拷問器具④
彼女の唐突過ぎる問いかけに、心臓が大きく跳ねた。後頭部をガツンと殴られたような衝撃を受けて、僕は彼女の言葉を飲み込めないまま、表情を伺う。
彼女がいくら酔っている事を考慮したとしても、聞き流せる発言ではなかった。
「……付き合うって、また今度一緒に行動しようといった意味な訳じゃ……」
「……ないね。……そのまんまの意味……です、ハイ」
「……………………」
「……………………」
どんちゃん騒ぎの片隅で、この世の終わりかと思うような沈黙が二人を包む。みるみる内にリリィの顔が赤くなって茹蛸みたいになっていた。
またいつもの冗談ではないかとリリィの目に視線を向けるが、もうビックリするほど視線が合わない。緊張しているのか、彼女の持つジョッキが微かに震えていた。
――は、反応がガチっぽいだとッ!?
お、落ち着けッ!
……えっと、勘違いじゃなければ――
僕、告白された?
「……もしかして、リリィ」
「は、はい!」
「…………滅茶苦茶酔ってる?」
「……うぇーいッ!! そりゃもうベロベロよ。ベロッベロのデロデロっすわ。多分半分溶けてる。幼馴染に告白なんて恥ずかしい事、飲まずにやってられますかってば!」
そうケラケラと笑いながら、何故か僕の肩をバシバシと叩く彼女の行動は誰がどうみても酔っ払いのそれであったが、不思議と僕には無理している風に見えた。
「で、どーなのよ? 魔王を倒した英雄様が生まれて初めて告白してるのよ? 何かいうことあるんじゃないの? ん? ん? おねーさんに正直に言ってみ?」
「……………………」
彼女の泥酔状態から考えて、この告白は軽い冗談あるいはその場の勢いから出た言葉である可能性が非常に高い。というか多分そうなんだろうけど。
もし、仮に、何らかの奇跡が立て続きに重なったとして、本当の本当に彼女に付き合う意思があるとして――
僕は、考える。
彼女は誰もが認める美人である。性格も明るく気遣いの出来て、誰にでも優しくてとんでもなく強い。文句の付け所など一つも見当たらない。彼女の告白を断る男性なんてこの世に存在しないのではないのだろうか。
それに対して僕は、まるで根暗という文字を擬人化したかのような地味な外見に他の追随を許さない圧倒的コミュ障。褒めれる所を探す方が困難だ。友達も脅威のゼロ。性格も卑屈で自分の事しか考えられない自分勝手な人間なのは自分が一番よく知っていた。
だから――
「……ごめん。君と僕じゃどう考えたって釣り合わないよ。リリィはもっと素敵な男性――ノーマンさんみたいな人の方が良いに決まってる」
僕は彼女の顔を見れないまま、申し訳ない気持ちで胸をいっぱいにさせながら首を横に振る。冗談を冗談で返せないのは僕の悪い所だ。
恋人関係というのは、お互いが対等だと判断した相手とより深い交流のための契約だと僕は解釈している。釣り合わないにも程がある。子供の頃の寝るまでの間にする空想の方がまだ現実味がある。
……返事がない。恐る恐る視線を上げると――
「……そっか」
彼女は笑っていた。
瞳にいっぱい涙をため込んで。何かを堪えるかのように食いしばりながら。唇を震わせながら。
暗い話は苦手だと、どんな時でも明るく楽しく振る舞う彼女が隠しきれない程の心の痛みを負いながらも、
彼女は必死に下手くそな笑顔を浮かべていたのだ。
その瞬間、僕は取り返しのつかない発言をしてしまった事に気づいた。
「……そ……そっ……そうなんだッ! あ、あはははは……ははっ」
「……………………ごめん」
「あ、謝らないでよ! エレノアくんは悪くないよ! ……あ、……じゃあっ! わ、私! ちょっとこれから用事からあるから……か、帰るねっ!」
「……お、おうっ」
「ま、またねエレノアくん! 今度は友達として……遊ぼうね! あと、エレノアくんは私と釣り合わないと言ったけど、そ、そんな事絶対にないから! エレノアくんの素敵な所、いっぱいいっぱい知ってるだからねッ!」
最後にそう言い残し、彼女はギルドから出て行った。
「…………………………」
リリィは自分が振られたというのに、最後まで僕を気遣って優しい言葉をかけてくれた。
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