第13話 今夜は月が綺麗ですけど失恋しました①
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか借家に戻っていた。僕は扉を開けてすぐ傍にある魔法石に魔力を込めると、部屋に取り付けた魔法石が一斉に蝋燭の火のような明かりを灯した。
埃っぽい部屋に少し顔を歪めつつも、僕はベットに座る。窓から満月の月明かりがほんのりと部屋を照らす。
一息ついて、自分がかなり酒臭くなっている事を自覚する。まぁそうだろ。一人で時間を潰すためにかなり酒を飲んだのだから。
今日は僕には珍しく色々な事があった。朝リリィと出会い、昼に一緒に魔獣を討伐し、夜に一緒に慣れない飲み会に参加した。僕にはとてもとても珍しく、たくさんの人と交流できた。それもすべて、リリィのおかげである。
ほっとできる自宅に戻ってくると、突然疲労が僕を襲ってきた。出来る事なら服を脱いで入浴を済ましたかったのだが、面倒過ぎる。どうせ明日の予定もないし、このまま気の済むまで熟睡してやろう。
ベットに仰向けになってゆっくりと目を瞑るが――どれだけ寝返りを打とうと一向に眠れない。
体の疲労に反して、頭の中では先ほどの出来事が何度も頭の中をグルグルと回る。リリィの何かを堪えるかのような笑顔が脳裏にこびり付いて離れない。
「………………これで良かったんだ」
僕はまるで自分に言い聞かせるかのように呟く。
闇魔術師というのは、陰キャであればあるほど多くの魔力を扱う事ができる。そのため、あらゆる繋がりを自らで断ち切らなければならない。その勇気がないのであれば、最初から闇魔術師なんて選択していない。
一人の力でも生活出来ているのは、僕が孤独であるが故なのだ。誰かと付き合うなんて深い繋がりを結ぶなどあってはいけないのである。
だから僕の判断は間違っていない。
「…………………………くそっ!!」
僕はベットに持ち上げた拳を裏拳で叩きつけた。ボフンとベットが埃と共に音を鳴らす。
ああ、そうだよ! 全部建前だよ! ただの言い訳だよ!! 自分の納得が出来る理由を当てはめようとしているだけだよ!!
そんな事は知ってるんだよ!!
本当は、とてもとても嬉しかった。今日彼女に会って本当に嬉しかった。僕なんかを好きでいてくれて、本当に心の底から嬉しかった。
子供っぽい笑い方も、活発な性格も、ちょっと強引な所も全然変わっていなかった。見違えるぐらい綺麗になっていたけど、僕の知っている彼女であった。
「好きだったに決まってるだろ!」
幼少期に頃から、今日までずっと僕はリリィの事が好きだった。
初恋だ。
僕のような陰キャに、可愛くて優しくて明るい女の子と一緒にいたら、好きにならない方がおかしい。
ずっと告白できず仕舞いであった。恥ずかしかったという点もあるが何よりも、僕は彼女と対等な人間になりたかったのだ。
自信が欲しかった。
僕もリリィに何か与えられえる人間だというのを。
だが、彼女を対等になるには僕が余りにも弱く――彼女は強すぎた。その差は数年間で縮まるどころか到底及ばないほどの大きな差が生まれていた。
もっと他にいい人がいるだろう――なんて言葉は本音からほど遠くて、
ただただ僕は、怖いのだ。
自信が無いまま彼女と付き合って、何も持たぬまま彼女に大切に思われて、
みじめで死にそうになるのが。
そう、全部自分のためなのだ。僕はどうしようもなく自分勝手な人間なのだ。長らく他人と関わらなく生きていたせいで、気遣いなんて持ち合わせていないのだ。
「………………ごめん」
僕は、自分しかいない部屋で謝罪する。
リリィを泣かせたのは、これで二度目であった。
一度目の時と、僕は何も変われずにいた。
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