第11話 宴会という陰キャの拷問器具③
「………………」
な……長い……長すぎる。
さらに一時間ほど一人でお酒を飲んでいたが、ほんといつまでたってもお開きになる様子はない。それどころか場の盛り上がりは酒の量に比例して上昇しており、人も最初の時よりも明らかに増えている。下手したら夜が明けるぞ。
そろそろ帰ってもいいのでは? 勝手に帰っては申し訳ないなぁと考えていたけど、そもそも僕程度の存在、誰も認知していない訳で、いてもいなくても同じじゃないのではないだろうか? 場違い間が凄い。
……やっぱり帰ろう。魔獣の報酬はまた後日で……いや、特に貢献していないし貰わなくてもいいか。なんだか息苦しい。早く自分にふさわしい場に逃げなければ。
僕は心の中で謝罪して立ち上がった瞬間「あ、エレノアくん! そこにいたんだぁ!」とリリィが嬉しそうに手を振って、千鳥歩きでこちらに歩み寄って来た。
「エレノアくん~~えへへへ、へへへへへへへへへへ! エレノアくんエレノアくんエレノアくん!!」
「な、なにっ? どうしたの?」
「えへへへへ~~! 呼んでみただけ! にひひ♪」
「……………………」
これはもうアレだ。完全に出来上がってらっしゃる。ちょっと見ぬ間に酔っ払いが誕生していた。こういった時どうすればいいのか全く分からなくて、僕はただただ困惑する。
「イェーイ! エレノアくん楽しんでる? 飲みが足りないんじゃないの?」
そう言ってリリィは店員を呼んで僕のジョッキに酒を注がせる。め、めんどくせぇ!
「じゃあ改めて……カンパーイッ! ヒューッ! 今日はお疲れ様――ッ!!」
「……お、お疲れ様……」
ジョッキを重ねる僕達。酔っぱらった彼女はいつもより目がトロンとしていて可愛い。抱きしめたくなる。……アレ? 僕も少し酔ってる?
「ねぇエレノアくん、さっき私が男に絡まれているの見てた?」
「……まぁ、かなり目立っていたからな」
「えー見てたのに私の事助けてくれなかったの? うえーん悲しいなぁ」
「うっ……」
「あははははは冗談だってば! だから申し訳なさそうな顔をしないでよ! 酒の場なんだからその気になれば穏便に済ませられたんだけどね。ちょっと大人気なかったね私」
隣に座ったリリィは足をプラプラさせながら上機嫌で語る。
「それにしてもぉ! 好きでもない男に歩み寄られて本当にめんどくさいよぉー! 魔王を倒してから凄いのなんの! どっかの領主の息子やらやたら偉そうな貴族から毎日のようにお見合いの手紙が届くんだよ? 破るのは簡単だけど無視すると後々厄介になるから一度は合わなきゃいけないしぃ。好かれるのは嬉しいけど、こうも数があると……ねぇ?」
「リリィも大変だな」
「ふへへ♪ そうなのぉ、私可愛いから! お母さんに感謝しなきゃね♪」
「………………」
彼女は得意げに笑みを浮かべた。いつだって彼女は自信満々で謙遜を好まない。そういう奴なのだ。実際に過剰評価でもなんでもなく彼女は可愛いため、嫌味に聞こえないのもポイント高い。
「はぁ、それならいっそ『永愛の誓い』でもした方がいいのかもね」
「ぶッ!?」
彼女の唐突な言葉に僕は酒を吹き出しそうになる。
「エレノアくんはどー思う? 私、付き合った方がいいのかなぁ?」
じっと彼女は僕を見つめる。何だコレ。何か試されているのか?
永愛の誓いとは言葉の通り『永遠の愛を誓う』光魔術師で行われる最大の契約である。言い換えると『結婚』である。
相手を一人しか選べないという制約はあるものの、契約を交わすと魔力が桁違いに底上げされる。契約破棄をしても再度契約可能という条件の緩さも相まって、案外ノリや勢いで永愛の誓いをする光魔術師も多いと聞く。
契約の条件は至ってシンプル。『お互いが愛し合っている事』と『お互いが同じ指輪を付けている事』で契約は成立する。
「……さぁな。それを決めるのはリリィだから、僕はなんとも言えない」
「んー……。そういう言葉が聞きたいんじゃなくてぇ! ねぇ、どーなの? 私が付き合ったらどうなの? エレノアくんはどー思うの? 君の本心を聞かせてよぉ!」
彼女は僕の肩を掴むと、ブンブンと前後に強く揺らす。光魔術師の身体的ポテンシャルを存分に発揮された揺さぶりはマジで強烈だから!
ちょっ! やめっ! 力強ぇ痛てぇ! あんまり揺らすと吐く! 吐くから! 比喩とかじゃなくて本気でゲロっちゃうから!
「つ、付き合って欲しくないと思っています!」
「……うへへへへ。へへへへへへへへへッ!! 嬉しい事言ってくれるねぇ!!」
彼女は顔を真っ赤にさせながら嬉しそうに僕の肩をバシバシと叩く。揺さぶりから解放された僕はホッと安堵してすぐに自分の大胆な発言を思い出し、静かに赤面する。
お互い顔真っ赤。なんだコレ。
「私も本当は永愛の誓いをしたいよ? でも恵まれた悩みなのは分かってるけど、私を好きになってくれる人って外見や知名度でしか見てない人ばっかりなんだもん。そりゃ良い人だっていると思うけど、なんだか姫様みたいに扱われるとムズ痒くて」
「確かに姫って柄じゃないな。昔は昆虫を捕まえて育てるのが好きな田舎娘だったもんな」
「今も好きだよ? 今度一緒に捕りに行こうよ?」
「……時間が合えばな」
「オッケー! 明日空いてる? 明日九時にここ集合ね!」
早い早い早い! 流石陽キャ、行動力がお化け過ぎる。
「はぁ、もうアレだよ。私の事を理解してくれるのはエレノアくんだけだよぉ」
「……そんな事ないって。ちょっと酔い過ぎだぞ」
「ん……帰るのめんどくさいからおぶってぇ。エレノアくんの家に行きたい」
「リアクションに困る冗談はやめてくれ」
「なーんーでーよー! 昔はよく一緒に寝たじゃん! いいじゃん別に寝ようよ寝ようよー! それか一緒にお風呂入ろうよぉ」
「………………」
周囲の視線が痛い。何でお前がリリィと仲良いんだよ的な空気をヒシヒシと感じる。こ、怖い! 目立つって怖ぇ!
そんな空気に全く気付く様子もない彼女は、自分の髪を弄りながら恥ずかしそうにボソリと呟く。
「じゃあさ、付き合ってみる?」
「なにが?」
「だからさ、私達付き合ってみようよ。ほ、ほらっ! お互い気が合うしさぁ! なんだかうまくやれそうじゃん!」
「………………は?」
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