第4話 闇魔術師エレノアは陰キャである④

 ……そんな訳で、まんまとリリィに乗せられた僕は、適当に時間を潰して集合時間ギリギリに町の門へと到着したのであった。



 実の所、ギルドに向かった時点で魔獣と戦う準備は万全であったため、僕は一時間という自由時間を全て読書(誰でもできる! 驚くほど簡単にコミュ障が改善出来る方法! 定価1800ゴルド)に費やした。



 ……頑張って読んだのはいいのだけど、短期間に焦りながら文章を詰め込んだせいで、自分でも驚くほど本の内容を思い出せない。強い緊張のせいで、脳内が新しい情報を受け付けないのだ。……結局、半分も読めないまま自宅を出た。



 待ち合わせするのが美少女だから緊張している訳ではない。ふん、あまり僕を舐めないで頂こうか。



 美少女云々よりも前に、人と会話する事にド緊張しているのだ。緊張しすぎてちょっと足が震えてる。精神ダメージが足にキテる。



 気まずくならないために喋らなければ! とか自分臭くないかな? とか魔獣討伐に関係ない事で僕の頭の中はパンパンであった。魔獣との戦闘は慣れたものだけど、久々に会う幼馴染との会話は未知数。そこの違いである。そもそも人と緊張せずに喋れていたら陰キャなんてなっていない。



 ……しかし心のどこかでリリィと一緒に行動出来るのを喜んでいる自分がいるのも事実。心臓は出会う前からバクバクと煩い。「もしかして今回のをきっかけに恋愛関係に……!?」なんてあり得ない仮定を妄想してしまう有様。んな訳ねーだろ死ね! と僕は心の中でツッコミを入れる。



 彼女は誰にでも平等に優しいのだ。僕は――彼女にとって特別じゃない。


 そして僕は彼女の特別になろうなんて決して考えてはいけないのだ。陰キャが勘違いした先は――悲劇である。誰も幸せにならない。



 そこんところを肝に銘じてリリィと対峙する。あくまで冷静に。決して踏み込まず、動揺せず今日を乗り切ってみせる!



「あっ!! エレノアくん来てくれたんだっ!! 嬉しい大好き~~!! ひゅ~優男! 夏の優男グランプリは優勝間違いなしだね!」


「……………………お、おう」



 出会って二秒でリリィの満面の笑みに赤面した僕は、目を反らして木に止まる鳥に視線を向けた。秒殺であった。



 会話としたと言うよりは、僕の困惑が口から漏れたといった方が正しい。リリィの返しやすいボケもスルーしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



「……あはははははは! このそっけない感じ久しぶりだなぁ!! エレノアくんが変わってなくて私は嬉しいよ。ういういどうしたの? なーんで私と目を反らすのかなぁ?」



 リリィは体を傾けて僕と視線を合わそうとするため、慌てて逆方向に目を向ける――が、すぐに彼女は僕の視線に移りこもうとする。


 そんな攻防を何回か繰り返し――



「あ、やっと目が合ったね」



 上目遣いの彼女と至近距離で目が合う。

 心臓が止まるかと思った。



「……か、帰るっ!」


「あはははははは! ごめんごめん! 私が悪かったからぁ~~!」



 ……そんな付き合いたてのカップルみたいな問答をしていたら、近くにいたおっさんが舌打ちをした後に地面に転がっていた石ころを蹴った。


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