第4章 第20話 世界間戦争

「最終基準を満たしてくれたこと、感謝いたします」


 目の前にいるのは銀色の長い髪をした、美しい女性。

 白い布を体に巻き付け、背中には白い鳥の羽根が付いている。

 なんだろう、初めて会うはずなのに、どこか知っているような……?


「あなたは……誰ですか?」


 少なくとも俺に危害を加えるつもりが無いのは分かる。

 でも、突然こんな場所に連れて来られ、俺の混乱は未だに収まっていない。


「私はトパーズ。世界を統治する神・アスラベクターの使徒」


 世界を統治する神? やっぱりそういう存在っていたんだ。

 でこの女性はその神様の使いって所か。


「じゃあ、えーっとトパーズさん? どうして私はここに居るのでしょうか」


「先ほども申しましたが、基準を満たしたため、この場にお呼びしました」


「基準? 私は何かやりましたっけ?」


「はい。それも十分すぎる成果です。お陰で開始する事が出来ます」


「成果って、どんな成果を出しました?」


「絶対条件はこの世界の頂点に立つ事と、一定の強さを持つ者が100名を超える事。しかしあなたはその上に位置するものを5名も育成されました。これで間違いなく互角の強さとなりました」


 世界の頂点って、ブラスティーとドミストリィは? 100名? 5名? なんだそれ……?

 育成? 100と5? 5人……あ、ウチのパーティーメンバーは俺を抜かして5人だな。

 じゃあ100って? 王都のギルドで鍛えた連中全員合わせたら、100人はいくかな。


「俺や他のキャラクターで育てた人数、って事ですか? でも俺よりもブラスティーやドミストリィの方が強いですよ?」


「育成された数です。アナタはあの世界で頂点に立たれました。ブラスティーもドミストリィも、あなたに負けた事を認めています。数多くの弱小世界に転生させましたが、これほどの成果を出す事は稀な事です」


 弱小世界? この世界……転生した世界の事か? 科学は遅れてるけど、生命としての力はこっちの方が圧倒的だと思うけど……どこと比較してるんだろう。


「さっきからちょくちょく分からない事があるんですが、開始するとか、互角の強さとか、まだ何かあるんですか?」


「はい。これからが私達の目的になります。2つの世界を隣接させ、戦わせます」


 ……???? 何の話? 2つの世界を隣接させる? 戦わせる? 更に意味が分からなくなってきた。

 どことどこを戦わせるんだ? そもそも2つの世界ってなんだ?


「えっと、すみません。1から説明してくれないと、私の頭では理解できません」


「分かりました。では私達の目的からお話ししましょう」


 神様たちは増え過ぎた世界を減らすため、あまり進化の見込みのない世界を無くすことにした。

 いわゆる並行世界パラレルワールドが増えすぎ、無為に時間を過ごすだけの世界を消滅させる決定を下す。

 だが無条件に消滅させるのではその後の反動があるため『戦いによって消滅した』という事実の元で消滅させる事になる。


 そして見込みのない世界の中からランダムで選び、その世界同士で戦わせることにした。

 だが違う世界では戦力的にも偏りがあるため、その偏りを無くす手段を模索した。

 それが“転生させる”事で神の恩恵を与え、弱小世界の戦力を底上げさせる事だった。


 神が直接手を加える事が出来ないゆえの、苦肉の策だ。


 幸いにも、どの世界にも異世界を夢見る存在はいるらしく、選定には苦労しなかったとか。

 今までも沢山の世界に転生させ、沢山の世界が消滅していった。

 もちろん育成が全く進まない場合が多く、その場合は次に回されていたようだ。

 

 ……ココの話しには聞き覚えがある。ブラスティーだ。

 あいつは転生先の世界を亡ぼしたり、何もしない事もあったようだ。

 そのたびに元の世界に戻されて、日常生活を送っていたらしい。

  

 そして遂に俺は育成に成功し、戦いを始める事が出来るようになった……らしい。

 それはつまり……。


「今より2つの世界を隣接させ、世界間戦争を発生させます」


 俺が……戦争を起こさせたという事だ。


「まて……待ってくれ。俺が……俺が余計な事をしたから……戦争が起こるのか……?」


「余計な事ではありません、膨れ過ぎた世界を救うために必要な事なのです」


「それでも、それでも……俺が……」


「あなたはこの世界を救う手助けをしたのです。こーちゃ状態のこの世界は、これ以上の進化を望めないのですから」


「……膠着こうちゃく状態?」


 あれ? このやり取りはどこかでやった事があるぞ?


「そ、そのコウチャク状態を打開しない限り、この世界もまた、滅んでしまうのです」


 銀色の長い髪……きっとあいつが大人になったら、こんな美人になるだろうな。


「そうか。でも宝石ジュエルは俺に随分と肩入れしてくれたけど、それは過干渉じゃないのか?」


「……バレちゃったねお兄さん。担当する転生者の手助けは、ある程度認められてるんだ。だから必死にいい方向に誘導したりして、ここに導いてたんだ」


 トパーズの姿が俺の知る宝石ジュエルの姿になる。


「担当する転生者って事は、他にも神様の使途が居たんだな」


「いたよ。ブラスティーにもドミストリィにもいた。でもあの2人はいう事を全然聞かないんだってさ」


 何となく想像出来るな、それ。

 ああそうか、そういえば宝石ジュエルはブラウザゲームみたいな操作をしていたな。やっぱり神の手の様な存在だったんだ。


「はぁ、それにしても戦争が起きるのか。何とか止められないのか?」


「無理だよ。アスラベクター様がもう動いちゃってるし」


 宝石ジュエルの上の神様か。それは止められそうにないな。

 

「じゃあさ、俺をさっきの世界に戻してくれ。俺はリアやアズベル達と共に戦う」


「いいの?」


「ああ。あそこが俺にいるべき場所だからな。と、そういえば戦う相手ってどんな世界なんだ?」


「それはね、お兄さんが元々いた世界、地球だよ」

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