第4章 第16話 やっとつかんだ理想の生活

 さ~てっと。ギルドから帰ってきた俺は、しずかに交代して武具の修理、もとい、破壊された武器や防具の製作に入った。

 流石にフェニックスの熱に耐えられる防具は作れないし、あんな戦いがそうそうあるとは思えない。

 だから戦った時の感想を元に改良を加えた。


 ディータは装備全損、ルリ子も随分とダメになってた。


 数日かけて制作し、以前よりも強力にすることができて、みんな満足していた。


 制作して、みんなで冒険して、ご飯を食べて、リアと寝る。

 そんな生活がずっと続いてほしいと心の底から願っているが、ついにタイムリミットが来てしまった。


 明日にはパンドラ国へ向けて出発しないと、ドミストリィとの約束に間に合わない。


 スキルは上がって強くなった自覚はある。

 でも、それでも勝てる気がしない。

 一縷いちるの望みをかけて、ブラスティーの元を訪れた。だが。


「なぜお前に教えないといけない。そこまでの義理は無いはずだ」


「だからさ、そこを何とか頼むよ。ドミストリィのちょっとした情報でもいいんだ、教えてくれよ」


「断る」


「そこをなんとか、頼む!」


 土下座して頭を地面に当てた。

 俺は死ぬわけにはいかないんだ!


「かりにも俺に勝った男が、無様な姿を晒すな!!」


 ブラスティーはどこかへ行ってしまった。

 だめか……ま、無理だとは思ってたけどね。

 正座をして天井を見上げる。


 ブラスティーや神獣と戦った時も情報はなかったけど、ドミストリィは何か違うんだよなぁ。

 単純な強さだけじゃないような……あの異様なプレッシャーは、強さだけじゃない気がする。


 向こうの国に行ったら情報が手に入るかな。

 無理だな。オンディーナに攻めてきた兵士は操られてたみたいだし、とても情報が引き出せるとは思えない。

 ぶっつけ本番、か。





 いつも通りリアに起こされて、みんなでご飯を食べながらダベって、出発の時間になった。


「じゃあちょっくら行ってくるよ」


 しんみりしたくもないし、みんなを不安にさせる訳にもいかない。

 いつも通りに軽い気持ちで出かけようとした。けど……リアが服を放してくれない。


「リア、ちょっとドミストリィと話してくるだけだよ」


 下を向いたまま何も言ってくれない。

 でも小刻みに震え、水滴がポタポタと落ちている。

 どんだけ強がっても不安は拭えないよね。


「ユー……さん、帰って……くる……よね?」


「もちろん! 俺はリアと楽しむために生きてるからね。まだまだやりたい事が沢山残ってる!」


「じゃあ……帰ってきたら……お買い物……いこ?」


「うん。カワイイ服を買って、美味しいもの食べて、お散歩して、あっちこっち遊び回ろう」


「ん……楽しみにしてる」

 

 やっと手を離してくれた。いや、覚悟が付いたんだろう。

 リアの頭をなでて、みんなをみる。


「んじゃ、俺は海外旅行に行ってくる。帰ってきたらリアと忙しくなるから、お前らは勝手にしグワ!!」


 なぜかアズベルにドロップキックを食らった。

 なぜゆえ。


「いきなり何しやがる! 俺の腰は大切なんだぞ! イチャつくのに支障が出たらどうする!」


「うるさいわ! 何が勝手にしろだ! とっとと倒して帰ってこい! そしたらお前を倒せば俺が最強って事になるからな!」


「ほざけ! お前なんて何万年経っても指先1つであしらってやるわ!」


「んだとゴルァ!」


 殴り合いが始まった。

 う~ん、久しぶりな感じ。


 数分ほど殴り合い、リアにお弁当を渡されたから手を止めた。


「はいユーさんお弁当。途中で食べてね」


「ありがとリア。お昼が楽しみだ」


「アニタ、俺に弁当は?」


「あるわけないよネ?」


「喧嘩は終わったかしら? じゃあさっさと行ってきなさい。帰ってきたら私が愛人になってあげるわ」


「じゃあ私はルリ子の愛人」


 ベネットとエバンスがなんか言ってるんですけど!

 まったく、こいつらは俺で遊ぶことに生きがいでも感じてるのか?


 ま、俺はリアだけいればいいけどな、はっはっはぁ~!

 ちょっとだけなら遊ばれてもいいけど。


「お前らと話してたら出かけられん! さっさと終わらせて帰ってくるから、お前らはいつも通り適当にやってろ! 師匠命令だ!」


「「「は~い」」」


 俺はダッシュで走り出す。

 ちくしょう、楽しいよう、いつまでもバカやってたいよう!

 念願の異世界でやっと、俺のいる場所が出来たっていうのに、どうしてこんな事になるんだ!

 涙を拭いながら、全速力で走り出した。




 確かもうそろそろ街が見えてくるはずだけど……あ、あれかな?

 全速力で走っていたら、いつの間にか山を飛び谷を超え、パンドラ国に入っていた。

 う~ん、飛龍で飛ぶよりは遅いけど、国1つ移動する位なら走るので十分だな~。


「でっか……」


 オンディーナに負けず劣らず大きな街だった。

 確かパンドラ国はパンドラ帝国、つまりここが帝都になる。

 はぁ……気が重いけど、入るか。


 入る時にいちゃもん付けられるかと思ったけど、冒険者カードで問題なく入れた。

 すげー人だなぁ、やっぱり帝都だけある。

 そろそろ昼時なせいか、呼び込みが沢山いる。

 俺はリアの愛妻弁当を食べるがな!


 大きな公園があったから、ベンチに座って食べてた。


「ごちそーさまでした」


 ふい~、美味しかった~。

 弁当箱を丁寧に片づけてバッグに片づけると、声を掛けられた。


「お前がバンチョウか?」


 見た感じ騎士っぽい人が3人、俺を囲む。

 バンチョウか、ドミストリィにあった時は番長だったから、俺は知らないのかもしれない。


「番長はオレだけど?」


「ドミストリィ様がお待ちだ。こちらへ来てもらおう」


 ついに来ちまったか。

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