第4章 第3話 ピンチはチャンス。それは敵も同じ

 青いローブの上からでも触ったら分かるほど鎧がへこみ、少しだけ肺が圧迫される。

 でも鎧を脱ぐわけにはいかないし、脱いだところで修理をする時間は無い。


 ザリガニモドキが俺を吹き飛ばした……んだよな?

 何をされたのか全然見えなかったぞ。

 丸くへこんだ鎧……魔法か? それとも物理?

 あ、考えてる暇はないな、ザリガニモドキが湖に戻ろうとしてる、水の中では戦いにならないし、戻る前に何とかしないと!


 斧を握りしめ、一呼吸してから全速力で走りだす。

 ほぼ一瞬で接近し、もう1度斧を振りかぶる。

 さあ、もう1度だけさっきの攻撃を受けてやる、撃ってこい!


 斧を振り下ろし、飛び出した目に当たるかという瞬間、やはり俺は吹き飛ばされた。

 みえた……!! 

 今度は吹き飛ばされた距離も半分以下で済み、無理やりだけど着地に成功した。


「げほっ、痛てぇ……げほっ」


 あいつの短く厚みのある腕、あれは折りたたまれた状態で、付け根付近にある丸いコブが超高速で、振り子のように振り出されたんだ。

 しってるぞ、コレ。少し前にテレビで話題になった生き物だ。


 “シャコ”だ。


 10~15センチ程度の大きさにもかかわらず、コブの破壊力は人間がハンマーで叩いたのと同等以上の威力があるという、とんでもない生き物だ。

 それが1メートル50センチの大きさになったら……今の俺でもこうなるほどの威力、か。


 ザリガニじゃねーぞジュエル。

 でもそうか、あの短い腕なら、かなりの接近戦じゃないと使えないだろう。

 2本の腕の動きに注意したら、攻撃を食らわずに済みそうだ。

 うし。逃がさない距離まで詰めて、少しだけ間合いを開けて斧を構えた。


 この距離なら届かないだろう。

 シャコも警戒してゆっくりと横に移動している。不用意には近づけない、だけど近づかないと伐採(斧)スキルは上げられない……相性わるいな。

 ジワリジワリと時間をかけて近づき、コブの動きに注意しながらスキをうかがう。


 ラチがあかない。

 少し強引だけど、1度コブを空振りさせられないかな。そうしたら斧が当てられると思うんだけど。

 ワザと隙を見せて近づくと、予想通りコブを打ち出してきた。

 今だ!!

 体を横にして躱し、斧を頭に振り下ろす。


「くたばれ甲殻こうかく類!」


 斧はシャコの頭部に命中、シャコの鎧ともいえるからにヒビが入った。

 よし! 来るのが分かっていれば大丈夫だ! この調子でもう一発!


 しかし残念ながら2発目は、一気に距離を取られて入らなかった。

 くそぅ、流石神獣と言われる生き物、動きも速い。

 でも狼の神獣ヴォルフとは違い、こちらの攻撃は通用している。

 それに魔法を撃ってくる気配も無いし、こいつは物理専門かもしれないな。


 ……その予想は当たっていたが、神獣を舐めていた事を後悔した。

 ヒビが入ったはずの頭部の殻は破裂するように飛び散り、何が起こったのかと思ったら脱皮した。

 そう、下から新しい殻が現れ、今のシャコは新品同様の姿に戻ってしまったのだ。


 部分的な脱皮ってずるくない!?

 脱皮する前にもう連続して攻撃を当てる? でもそれは避けられたし、じゃあ力一杯振り下ろす? いやいや、今も結構力いっぱいだったぞ。


 ……あれ、こいつって、超強敵じゃん!!

 しかも陸地なのに動き速いし、攻撃は超強打だし、殻は硬いし再生するし……どうしよう。

 魔法と組み合わせて戦うしかないけど、あの殻に俺の魔法は通じるか?

 殻にヒビを入れて間髪入れず魔法攻撃、かなぁ。


 でもそこまで持っていくにも手順が沢山あってですね……つめ将棋かよ。

 詰将棋やった事ないけど。

 それでもやるしかない。

 

 また距離を詰めるべく小走りで接近する。

 シャコも警戒しているようで、俺とは一定以上の距離を保とうと後退する。

 む、湖に逃げられたら厄介だな、何とか俺が湖を背にするように移動できないかな。

 するとアッサリとシャコは湖から離れていき、俺は湖を背にすることが出来た。

 

 ? 妙に簡単に出来たけど、甲殻類はそう言った知恵がないのかな? なければラッキーだけど。

 つまりコイツの攻撃は単純に捕食や防衛の為であって、俺という個に対しての対策は考えていない……でいいのかな。

 

 うっし、なら湖に逃げられる心配がなくなった以上、無理に距離を詰める必要は無い。

 じっくり、じっくりと間合いを計って……は?

 俺は宙を舞い、湖に落ちていた。


 !?!?!?!?

 なんだ!? 何が起きたんだ!!

 水!? 湖に落ちたのか? 違う、体に痛みがある、攻撃されたんだ!!

 最悪だ!! 水中はあいつの舞台。

 それ以上に俺のフルプレートアーマーは水に浮かない、泳げない!!


 そして当たり前のように、水中で俺を見えるシャコが見えた。

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