第4章 第2話 湖の神獣 いきなりのピンチ!

「神獣がいるのはソルランド共和国の南、丁度オンディーナ王国の国境を越えた山の中にいるよ」


「へぇ、じゃあそんなに遠くないんだな」


「いや違うぞユグドラ。オンディーナとソルランドの国境は、ここから馬で10日はかかる場所だ。しかも高い山脈があるから、迂回したら数倍の日数がかかる」


「げ、マジで?」


 うわぁ~、それは困るな。ひと月以内にパンドラ国へ行かないといけないし、遠回りしてる時間なんて無い。

 何かいい手は……あ。


「ならドラゴンに乗って行けばいいじゃないか」


 山道を馬で10日ならドラゴン、特に飛龍で行けば半日で十分到着するだろう。

 そうしたら後は場所を記録マークしたら移動魔法を使い放題!!

 それなら危なくなった時は逃げ出して、体制を整えて再戦、って事もできる。

 よし、それでいこう!


「ドラゴンって、乗れるの?」


「うん乗れるよ。大きい奴も小さい奴も乗れる」


 そういうと目を輝かせるリア。いや全員。

 あ~、乗せてくれって目だねこれ。

 いやいや、今回は死なないための訓練、しかも命がけの訓練なんだからね?


「……まさか付いて来るって言わないよね? 流石にダメだからね? 俺自身だって危ないのに、みんなを守る事なんで出来ないからね?」


「え? 流石に付いて行かないよ? ただ……ちょっと乗ってみたいな~って」


 う~ん、乗るだけならいいかな。

 今日は準備をして明日出発するつもりだから、今日は少しなら時間もあるし。

 それに……本当は付いて行くとか、危ないから止めてとか言いたそうなのを我慢してるのが分かるし。

 せめてそれ位はしてもいいよね。




 ルリ子でドラゴンを呼び、みんな(ジュエルも)を乗せて遊覧飛行を満喫し、ついでに神獣がいる場所を教えてもらった。

 山脈を超えた先にある山の中、すごく木が生い茂ってたけど、どんな神獣なんだろう。後でジュエルに聞いておこう。

 あ、直接神獣の住処には行ってない。遠くから場所を教えてもらっただけ。




 家に戻り、神獣と戦う準備を始めた。

 この間、しずかですごく良い斧が作れたからそれを持っていこう。

 あと鎧の予備と大量のポーションと治療キット、食料があればいいかな?


 上がるスキルは一通り上げて、可能なら上限の150までもっていきたい。

 時間はかかると思うけど、何とかひと月で仕上げないといけないから、それこそ強行軍で行くしかないな。

 休んでる暇はない。幸い俺の体は疲れを知らないから、大怪我をしない限り戦い続けられる。

 嬉しい様な、悲しい様な? ブラック企業が泣いて喜ぶ体質じゃん。

 

 こんなもんかな。メニュー画面のバッグの中は小さな箱で一杯だ。

 色分けして、中に何が入っているのか分かるようにしてあるけど、古いゲームの仕様だからマス分けとかされてないし、とっさの場合は間違えそうだな。


 よし、準備完了!


 今日は美味しいご飯を食べて、いっぱいリアとイチャついて、明日からの特訓にしっかりと備えよう!





「うっわ、なんだココ、足場がぬかるんでるし、木が多くて近い場所しか見えないぞ」


 ジュエルに聞いた場所に到着した。

 密林とは聞いていたけど、こんなにすごいとは思わなかった。

 視界が悪すぎて、向かっている場所があってるのか自身が無くなりそう。

 一応方角的には合ってるみたいだけど。


 1時間以上は探し回ったかな。

 やっとそれらしい場所に出てきた。


「ここかな? ジュエルが言ってた湖って」


 家の前にある湖程じゃないけど、大きな湖を見つけた。

 ここだけ不自然に水があるし、対岸を見る限り密林の中なのは間違いない。

 こんな所じゃ戦えないな。よし、開拓しよう!


「ずぉ~りゃ~ぁ!」


 新しい斧を構えて、低い位置で斧を横に薙ぎ払う。

 すると衝撃波が広がって幅5メートル、長さ20メートル程の空間の木は全て倒れていた。

 お、おお~、実際に使ったのは初めてだけど、開拓に最適な武器じゃないか!

 もちろん戦いにも使えるけど。


 調子に乗ってあちこちで振り回し、200平方メートル位の空き地が完成した。

 大量の木は森の中に放り投げた。


「これ位の広さがあれば大丈夫だろ。さてと、それじゃ誘い出しましょうかね」


 聞いた話しだと湖の主が神獣らしく、ここの主は頻繁に問題を起こしているらしい。

 討伐隊を差し向けても場所が分からず撤退するため、完全な姿が確認されたことは少ないとか。

 じゃあどうしてジュエルは知っているのか……ジュエルだから、としか言えないね。


 生肉を沈まないように軽い木に括りつけ、湖に投げ込んで様子を見る。

 神獣は水生生物だけど、陸でも普通に活動できるらしい。

 ジュエル情報では『ザリガニみたいな奴』と言っていたから、大きなハサミを持っているのかな?

 

 しばらくすると水面が波を打ち始める。

 来たか!?

 俺はエサに括りつけたロープをゆっくり引き寄せて、神獣が陸に上がるように誘導を開始する。

 水面が盛り上がり、何かがエサに高速で近づいて来る!

 速い! ザリガニって水中でこんなに速く移動できるんだっけ!?


 急いでエサを引き寄せ陸に上げると、ソイツは勢いよく陸に飛びあがってきた。

 背中のから? はエメラルドグリーン、無数の足は濃い毒々しい赤、目は正面に2つ飛び出している。

 ……あれ? ザリガニって頭がとがって無かった? それにハサミもないぞ? 前に突き出した2本の短い腕にはトゲが沢山付いてるけど、アレで何をするんだろう??


 予想とは違う姿に戸惑いながら見ているけど、長さは大体1メートル50センチ位かな。

 ザリガニ? としては凄く……いやバケモノじみた大きさだ。


 ザリガニは俺に見向きもせず肉に食らいつき、そのまま湖に戻ろうとする。


「おっと! 俺の相手をしてもらうぞ!」


 斧を抜いて斬りかかる。

 が、俺は200メートル以上吹き飛ばされ、密林の木をなぎ倒して止まった。

 な……なにが、何があったんだ。息が出来ない、背中を強く打ったからか? 胸が苦しい。

 胸を押さえようと手を当てると、鎧が大きく窪んでいた。


 え? ええ!? アダマンタイト製のプレートがへこんでる!?!?

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