第3章 第58話 こ、殺してはおらんわい?

「お主ら全員が、王都の外周を1日で走ってきたというのか?」


「ああそうだ、前回の条件がそれだったんだろ? だからずっと走り続けていたんだ」


 な、なんとぉ! あれから数ヶ月が経っておるが、ずっと走っておったのか!

 おお、おおぅ、熱い、熱くなってきたのぅ!!

 なんだか目頭が熱くなってきおったわい!


「それではお主らの腕を見せてもらおう!」


 



 うむ、腕の方はまだまだじゃったな。

 しかし体力があるせいか、結構コテンパンにしたのに立ち上がってくる。

 全員予想以上に頑丈なようじゃな。


「よし! それでは個別指導にはいるぞ!」


「「おーー!!」」


 元気じゃな! シゴキ甲斐があるわい!!

 そうして50人以上の阿呆あほう共の訓練が始まったのじゃ。


 指導していて知ったのじゃが、傭兵は魔法も使える剣士が多いが、想定される相手が人間である以上、必要以上の筋肉や防御は必要なく、鎧の隙間から突いて倒すというのが基本の様じゃ。

 そういう考えで言うと、しずかがクオパティ国で作った革鎧は正解じゃったようだ。

 隙間が無く、体重をかけて突いても簡単にはつらぬけん。おまけに軽い。


 兵士は少し変わり、基本的に魔法は専用の部隊がいるため魔法は使えぬ。

 じゃが相手に魔法部隊がいる想定で動くため、金属の鎧でしっかりと固めるのが基本だとか。

 多少の機動性を失っても防御を取るのじゃな。


 大規模な戦術魔法があれば戦い方が変わるのだろうが、今のところそういった物はないようじゃ。


 しかし同じ人間を相手にするのに、傭兵と兵士ではスタイルが全然違うのじゃな。

 傭兵は様々な戦いに対応させ、兵士は国にあった戦い方をする、と言った感じか?

 冒険者でも戦い方は千差万別じゃからのぅ。


 傭兵の魔法は簡単な物ばかりで、攻撃はほぼ魔法の矢マジックアローのみ、あとは回復や身体強化しか使わんようじゃから、ユグドラででも教えようかの。


 数名居る魔法使いは……まぁルリ子でいいじゃろ。


 



 10日以上が過ぎ、そろそろ一方的に叩きのめすだけではない者が出てきた。

 随分と飲み込みが早い気がするが、まあええじゃろ。

 3人は傭兵、4人が冒険者、1人が兵士じゃ。

 この者たちには少し長めに手合わせをするようにした。

 ワシは相変わらず教えるのがヘタじゃから、相手の悪い所や良い所を口では上手く説明できん。

 こうして長めに手合わせをして、覚えてもらしかないのう。


 さて問題のエリクじゃが……アニタの矢を10本に2~3本は避けられるようになった。

 では意地悪をしてやろう。

 必死にアニタの矢を避けておる横から、槍を投げつけた。


「うおっ!? バンチョウ!? 危ないだろ!」


 避けおった。

 矢は反射神経だけでは避けれんからな、やっと広範囲の視界が開けた様じゃ。

 もちろんかんや周囲の気配も見れるのじゃろう。

 ワシは気配察知はできんが、逆に反射神経で避けられるのだ。


「うむ、いい具合に仕上がっておるな。久しぶりに手合わせをしようかの」


 エリクは長めの剣を両手で持つ剣士タイプ。

 しかし防具は軽装で、籠手こてと具足は金属じゃが、体は袖の無い厚手のベスト、ズボンも作業ズボンの様なものをはいておる。

 どうやら筋肉が多いため、鎧を装備すると動きが阻害されるようじゃ。


 じゃが軽装なぶん意外と動きが早い。

 ワシも同じような両手剣を持って斬りかかるが、予想以上に剣で受ける。

 動きが早いといっても体の割に、という程度で、素早さをウリにしている奴には敵わん。

 じゃからヘタに動き回るよりも、剣で受けながら相手のスキを突く戦いがいいのじゃろう。


 剣で打ち付ければ剣で受け、突けばかわす。

 こっちの攻撃はしっかり見えているし、無理に攻撃を受ける事もない。

 う~む、これだけ出来れば上級パーティー依頼を受けても問題は無いのに……おしいのぅ。

 出来る限りの事はするかの。




 約30日の訓練が終わり、最終的に100人近くが参加するまでになっておった。

 初期からおった約50人は問題なく合格点を出し、途中参加の者は目標を設定させて終わる事になる。

 以前の時は合格の者にはしずか特製装備を渡したから、今回も一通りの装備を渡した。まあ人数が多いから以前ほどいい物ではないが、それでも十分な代物じゃ。


 渡した分の武器じゃが、一応は大量生産ではなく、メニューの作成画面から1本ずつ作った物じゃ。

 簡単な魔法効果も付いておる。


 そしてエリクじゃが……全身から血を流してぶっ倒れておる。

 最後じゃからと手を抜かずに手合わせを頼まれてのぅ……全力でやってしもうたわい、ガッハッハ!

 あ、死んではおらんぞ? ちょっと死ぬ寸前というだけじゃ。





「死ぬかと思った……訓練って危険なんだな……」


 ベネットに治療をさせて、ポーションをぶっかけて生き返えゲフンゲフン、元気になったようじゃ。

 ベッドから起き上がって頭を押さえておる。


「死ぬ寸前までならやるぞ。流石に殺すまではやらんがのぅ」


「俺達にはそこまでやらないのに、どうしてエリクにはここまでやるんだ?」


「簡単じゃ、アズベル達は危険から逃げはせんじゃろ? こやつは逃げ癖が付いておるからな、これ以上はない程危険な状態を経験すれば、本当に避けるべき危険が分かるはずじゃ」


「ではワザと痛めつけた、って事かしら」


 ワシはうなずいた。

 慎重なのはええんじゃが、慎重すぎてもダメじゃからな。

 必要のない警戒心は無駄な労力になる、もっと必要な部分へと割り振らねばな。


「ワシ以上に危険なモンスターなどそうそうおらん。安心して上級パーティー向け依頼を受けてくるのじゃ!」

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