第3章 第59話 訓練の終わりと見果てぬ夢

「ワシ以上に危険なモンスターなどそうそうおらん。安心して上級パーティー向け依頼を受けてくるのじゃ!」


 と言ったものの、流石に怪我が治ったばかりじゃから、数日は休養するように言っておいた。

 さて、あとは地下訓練場の片づけでもしようかの。


「おいおいバンチョウ、まだ締めの訓練が終わってないぜ?」


 リアとエバンスは杖を、アズベルは細身の剣を、ベネットは剣と盾を、エリーナは左手で短剣を構えている。

 ん? なんじゃ? まさか……!!


「しごき過ぎたからお礼参りをするつもりか!?」


「違います! 私達は手合わせしてないから、番長さんと1対1をやりたいんです!」


 ああそういう事か。

 そういえば今回の訓練会は他の連中ばかり見ておったからな、お主らはおざなりじゃった。


「ではかかってくるのじゃ!!」





「ガーッハッハッハァ! 中々良い感じじゃったなが、まだまだじゃな!」


 死屍累々ししるいるいとはこの事か。全員が地面にぶっ倒れておるわい。

 しかし強くなったのぅ、以前ドラゴンと戦った時よりも更に強くなっておるようじゃ。


 それよりも驚いたのはエリーナじゃ。

 冒険者登録されておった時は上級冒険者じゃったらしいが、衰えたとはいえ、25日目には王都外周を走り切り訓練に参加した。

 それにユグドラを集団で襲った時の連中の腕は熟練クラスじゃ、それを指揮しておったのだから、エリーナはその上と見ていい。

 冒険者の時は本来の力を隠しておったのじゃなぁ、その方が都合が良かったのかもしれん。


 慣れない短剣を片腕で使っているのに、短剣の使い方が堂に入っておった。

 右腕と視力が元通りなら、かなりモノじゃが……。


「ではワシは用事があるから出かけてくる。お主らは片づけをしておくのじゃ。ああ、2~3日出かけてくる」


 は~ぃ、と力のない返事を聞きながら階段を登って行った。




「あらお疲れ様バンチョウちゃん。どうしたの?」


「うむ、ちょっと頼みがあるのじゃ」


 グレゴリィオネェのいるカウンターで話しを始めた。





 2日ほど外出し、家に戻ってきた。

 いい匂いがするのぅ、そういえば晩飯時じゃな。


「ただいま戻ったぞ」


「おうお帰り。エリクが探していたぞ」


「そうか。何の用かのぅ」


「明日上級依頼を1人で受けるから、お見送りをして欲しいってさ」


「なんじゃそれは。子供でもあるまいに、勝手に行けばいいじょろ」


「なんか許嫁が挨拶をしたいんだとさ」


「……余計に意味が解らんわい」


「あ! 番長さんお帰りなさい! ご飯、食べるよね?」


「うむ頂こう。今日の飯もいい匂いじゃな」


「へっへ~、腕によりをかけて作ったよ」


「楽しみじゃな」


 全員で食卓を囲むのは久しぶりじゃのぅ。

 相変わらず賑やかでええわい。

 ん? エリーナの様子がおかしいのぅ。何かを考えておる様じゃが……何かあれば言ってくるじゃろ。


 予感的中、というか、ついにと言うか。

 食事の後のお茶の時間に、エリーナが口を開いた。


「今までありがとう。私、明日ここを出る事にしたの」


「え! エリーナさん、ずっと居るんじゃないの!?」


「ごめんねアセリア。私ね、記憶がハッキリしちゃったの。一緒に冒険に行った辺りから段々と頭の霧が晴れていって、今では全部自分がやった事を思い出せるようになったの」


「それじゃあユーさんを……こ、コロした事も?」


 コクリとうなずく。

 そうか、全て自分の記憶として認識したのじゃな。

 ならば引き留める事は出来ん。

 ここにいる者に順番に謝っていき、ワシにも頭を下げた。


「それと、ハ……ユグドラに替わってほしいの」


「そうじゃな、直接言った方が良いじゃろうからな」


 キャラクターチェンジ

 ⇒ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ 番長 ⇒ ユグドラ ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「そっか、行くんだね」


「うん。ごめんなさい、命令とはいえ命を奪った事。そしてありがとう、死ぬだけだった私を助けてくれて」


「構わないよ。正直言って、あの時はエリーナだって気付かなかったし、俺」


「うん聞いた。アセリアが拾ってくれたって。だからこうして生きてるの」


「でも今後はどうするの? 多分冒険者にはなれないし、仮になれても制限が付くと思うよ?」


 いくら俺の訴えを取り下げたからと言って、冒険者ギルドには記録が残っている。

 さらに冒険者の間で知らない者はいないだろう、仲間殺しのエリーナは。


「傭兵になろうかなって、思ってるの」


「傭兵か」


 傭兵。金をもらって戦争をする職業だ。

 冒険者も場合によっては戦争に参加するが、傭兵は戦争専門と言っていい。

 戦って、人を殺して金をもらう仕事。

 ああまて、確か傭兵でも事務仕事があるはずだ。計算や書類仕事は学が必要な仕事だし、裏方に回れば片腕でも問題は無いだろう。


「片腕だと、どこまで戦えるか分からないけど、助けてもらったお礼は、必ずさせて欲しいの」


「戦場にでるのか?」


「うん。それしか、出来る事が無いから」


 てっきり教育を受けていると思ったけど、受けていないのかな。

 それともこの世界の傭兵は、本当に戦う事のみなんだろうか。

 俺は、最後にエリーナの体を見たくなった。


「エリーナ、服を脱いで」


「ユーさん! エリーナさんはもう―――」


「まってアセリア、いいの、ここで、脱げば……いいの?」


「ああ」


 家のリビングで、エリーナがゆっくりと服を脱いでいく。

 1枚1枚、服を床にたたみながら脱いでいく。


「下着もだ」


 ぐっと唇を噛みしめ、一糸まとわぬ姿をあらわした。

 体にはまだ細かな傷が複数あり、両乳房はむしり取られて焼かれたあとになっている。

 俺はエリーナに近づき、押し倒す。


「ユーさん!」


 リアが怖い顔で立ち上がり走り寄る。


「治療を開始する」

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