第3章 第57話 何でもすると言ったな?

「なぜじゃ!? なぜ依頼を受けぬのじゃ!!」


「危ないだろう! 1人で上級パーティー向けとか、そんな冒険できるか!!」


「お、お主は冒険者じゃろが! 多少の危険は覚悟の上では無いのか!」


「冒険者だからといってこのんで危険な事なんかしない!」


 情報では特級冒険者になるための条件は、熟練パーティー向け依頼を2人か、上級パーティー向け依頼を1人で複数回達成させればいいようじゃ。

 エリクは、特級冒険者であるロバートと互角の実力がある。

 じゃから上級パーティー向け依頼を、1人で達成する事は可能なはずなのじゃが……。

 なぜにそんなに受けたくないのじゃ??


「それではどうするというのじゃ? このままでは特級冒険者にはなれんぞ?」


「だからさ、もっともっと強くなったら受ける」


「もっととは、どの位じゃ」


「ん~、アズベル位か?」


「アホか! あ奴は1人で熟練パーティー向け依頼を軽々とこなすのじゃぞ!」


「それくらい強くなったら上級パーティー向け依頼を1人で受ける」


 な……なんなんじゃコレは!! それじゃと覇王級ではないか!

 どういう事じゃ? 特級冒険者になりたいのではないのか??


「あーバンチョウ、そいつは昔からそういう奴なんだ。やたらと安全を重視して依頼を受ける。熟練冒険者になったのも、上級依頼で簡単な奴を沢山受けた結果なんだ」


「安全を重視するのは構わんが、上級依頼とはいえ、危険はあるのじゃろ?」


「1回目は個人向けの依頼を数人で受け、2回目で人数を減らして確認し、3回目で1人で受けるんだ」


「ど……どれだけ慎重なのじゃ」


「それでも昔は依頼を受けていたんだ。だが最近は悪化したって話しだったが、確かに酷くなってるな」


「症状が軽減したのではなく悪化したのか? 以前の訓練が終わったのならば、さらに難易度の高い依頼を受けてもいいはずじゃが」


「なあエリク、どうして前にも増して慎重になったんだ?」


 アズベルも疑問じゃろう、もちろんワシもじゃが、ベネットとエバンス、アニタまでもが手を止めてそばに来ておる。

 強くなったのに慎重度が増す理由とはいったい?


「だってよ、結婚したいんだよ俺は。だから将来は子供も生まれるだろうし、絶対に怪我を、死ぬわけにはいかないだろ?」


「それは分かるがのぅ……ん? それはお主の許嫁いいなずけも理解しておるのじゃろ? ならばどうして特級冒険者になれ、などと言うのじゃ?」


「それは、なんでだろうな。特級冒険者になれば達成料金も上がるし、子供が沢山ほしいって言ってたから、金が必要なんじゃないか?」


 達成料金とはなんぞや??

 アズベルに聞いてみよう。


「ああ、基本的にランクが上の依頼になるほど依頼料プラス階級手当が付くんだ。逆に下の依頼を受けたら依頼料しかもらえなくなる」


「ワシ、そんなの貰った事ないぞ?」


「バンチョウとかユグドラはなぁ、のっけからランクに当てはまらない事をしてたからじゃないか?」


 ……言われてみれば身に覚えがあるのぅ。

 まぁええわい。


「確かに結婚すれば金はかかるからのぅ、お主の許嫁が言いたい事は分かる。じゃが、どうするのじゃ? このままでは特級冒険者にはなれんぞ」


「特訓でなら死ぬ事は無いだろうから、どんな特訓にでも耐えて見せる! だからバンチョウ、頼む!!」


 なんじゃろうか、言ってる事はわかるが矛盾しておらぬな??


「どんな特訓でもといったが、本当に良いのか?」


「ああ! どんな特訓でも構わない!」





「いーーーーやーーーーーあーーーーーーー!!!! やーーめーーてーーくーーれーー!!」


「どんな特訓でもいいと言ったのはお主じゃ、耐えてみせい!」


 ワシは今、地下訓練場でエリクに向けて無数の槍を投げておる。

 一応先は丸いが、当たれば致命傷になる威力じゃ。

 これを全て楽に避けれるようになれば、大体の攻撃はかわせるじゃろうからな、ガッハッハ!


「死ぬ! 死ぬからなそれ! うぉあ! いま殺すつもりで投げただろ!!」


「当たり前じゃ! 死ぬ気にならねば覇王級など夢のまた夢よ! 安心せい、しっかり最後は取ってやる!」


 今のところ1秒に1発じゃが、アズベルやベネットなら秒間5発でも平気で避けるじゃろうし、もっともっとペースを上げねばな!

 

「そらそらそら! 喋っておる暇はないぞ! きびきびと避けて、あ」


 槍が頭に命中して意識を失ってしもうた。

 う~ん、まだまだ終わりではないぞ? 

 ヒールポーションをエリクの頭からかけ、無理やり意識を戻させた。


「よし! 続きを始めるぞ」

 

 エリクに付きっ切りでは他の者どもに指導が出来んから、アニタに交代じゃ。

 5メートルの距離でアニタに矢を撃たせれば、ワシが投げた槍に近い速度じゃろう。

 確かあの弓は200m/sじゃから、0.025秒で避ければいいんじゃ、簡単じゃろ?


 他の者どもへの指導をしておるが、こちらは順調じゃ。

 特級になりたい者がほとんどで、こちらの指示にしっかりと従ってくれる。

 うむうむ! 指導のしがいがあるのぅ!


 しかし予定外の事も発生した。

 翌日の朝、ギルドの地下訓練場には50人以上が集まっておったのじゃ。


「これは何事じゃ?」


「バンチョウ! 俺達王都の外周を走って来たぜ! さあ指導をたのむ!」


「なん……じゃと?」


 元から居たのは20人ほど、それが新たに30人近くが1日で外周を走って来たじゃと??

 どうなっておるのじゃ、こんなに沢山はみきれんぞ!?

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