第3章 第51話 ドラゴンが居ないじゃないか

「嫌だ。付いて行く」


「嫌よ。付いて行くわ」


「嫌です。付いて行きます」


「イヤ。付いてく」


「嫌だネ。付いて行く」


 揃いも揃ってドラゴン調査について来るという。

 普段なら構わないが、今はそうもいかないって言うのにねぇ。


「だから全員が付いてきたら、誰がエリーナの面倒を見るんだい?」


「連れていけばいいんじゃないか?」


「連れていけばいいと思うわ」


「連れていけばいいと思います」


「連れてけ」


「連れていったらいいと思うネ」


 こいつらは……普段は押し付け合うくせに、こんな時だけ妙に気が合うじゃないか。

 しかし連れて行くだって? まぁ移動自体は問題ないが、戦闘になったらどうするんだい?

 戦闘になったら……まぁアタシ達なら問題ないか。

 しかし山道をアタシ達のペースで移動するとなると……ゴーレム馬に乗せればいいか。


「おや? 意外と何とかなりそうだねぇ。それで、とうの本人はどうなんだい?」


 皆がエリーナに注目すると、エリーナは目を輝かせていた。


「行く! 私も行きたいの!」


 こうして臨時の7人パーティーが結成された。


 馬で3~4日って事は、馬車だとその3倍以上はかかる。

 また往復でひと月近くかかっちまうねぇ、色々な物を積み込んどかないといけない。

 王都の北東にある街・ジョザ・マルーザから近いが、そういえば行った事が無かったねぇ、そこで食料を補給できるだろう。

 

 この国には大きな街以外にも村が点在している。

 しかし基本的には1000人に満たない村で、補給の当てにはできない。


 



 準備が整い、馬車で出発した。

 御者は相変わらずアズベルとアニタだ。ほぼ固定だね。

 エリーナはパッと見は町娘の様な衣装だが、実は革で作られていて、それなりの防御力がある。

 流石にただの服装では連れていけないからねぇ。


 ジョザ・マルーザの街はそれなりの大きさの街だ。

 リアやアズベル達と知り合った街・エリクセンよりも少し大きい。

 この街は広場や公園には露店があるが、道には無い。

 その代わり小さな店が立ち並ぶ商店街があちこちにある。

 街の貴族の方針なのかねぇ。ただ、気分的には衛生的に感じる。


 一泊して出発だ。


 街を出て数日が経つと、しおの香りがしてきた。

 どうやら海が近い様だね。

 確か海が近い場所の山だったか、ドラゴンが居るっていう山は。

 

「着いたぞ、この山だ」


 普通の山だが、周囲と比べると少し大きいか。

 山の中腹辺りまでは馬車で行けたが、それ以上は坂が急になったから歩いて行く事になった。

 予定通りエリーナはゴーレム馬に乗せていこう。


「ドラゴンって噂には聞いた事がありますが、ルリ子さんのドラゴンみたいに大きいんでしょうか?」


「さあねぇ、アタシは自分のドラゴン以外は見た事が無いからね。誰か知ってるかい?」


 残念ながら全員ウワサでしか聞いた事がない様だ。

 最初の頃は、アタシのドラちゃん達がウワサのドラゴンだと思っていたらしい。

 ドラゴンのウワサは各国にある様だが、実際に目撃された例は稀のようだ。


「ドラゴンの調査自体は以前から行われていたが、いまだに存在が確認されていないんだ」


「あん? じゃあどうしてこの山に居るってわかるんだい?」


「ここしかあり得ないのよ。情報を集約すると、この山に存在するのは間違いないはずなのよ」


「なんだい、その不確定な確信情報は」


「目撃情報を集約すると、全部この山で消えてるのネ。だから、この山のはず、なんだけどネ」


「でも、調査をしたらドラゴンは見当たらない、って事かい?」


 皆がうなずく。

 そもそもの情報源が間違っちゃいないかい? ただのウワサに踊らされている訳じゃないだろうねぇ。

 ここまで来て無駄足でした、はゴメンだよ。


 それからしばらく山を登り、日も暮れたからキャンプをする事になった。

 普段は火を囲んでのごろ寝だが、今日はゴーレム馬にテントを積んでいるから寝心地は良かった。

 ゴーレム馬のスペックは思ったよりも高いねぇ。ある程度の登山は考えていたが、人が通れるところは問題がなさそうだ。


 夜が明けて朝食を食べている最中、つまらない事に気が付いた。


「そういえば山に入ってから、モンスター共が襲って来ないねぇ」


「あれ? そういえばそうですね」


「それも、ここにドラゴンが居ると言われる理由の一つだ」


「凶暴なモンスターはドラゴンを恐れて居着かない、そう言われているわ」


「そんなもんなのかねぇ」


 ゲームなんかだとドラゴンの住むダンジョンに、山のようにモンスターが湧いていたが、実際は違うのかねぇ。 

 今はそんな事を考えていても仕方がないね、さっさと出発して調査をしようか。

 

 そして調査を再開して半日が経過し、アタシ達は山頂にたどり着いた。


「おいおい、てっぺんに来ちまったぞ。ドラゴンが住んでそうな場所はあったか?」


「おかしいわね、それっぽい場所はなかったはずだけれど」


 結構しらみつぶしに調べたはずなんだがねぇ。

 小さな洞窟はいくつかあったが、とてもドラゴンが住める大きさじゃない。

 はてさて、どうしたもんかねぇ。


「何もない所で遊んでいても意味はないねぇ。次は降りながら探すとしようか」


 山を下りながら調査をしているが、今度は小さな洞窟も調べる事にした。

 なにか手掛かりがあるかもしれないからねぇ。


「ここが1番高い位置にある洞窟だね、入るしよ……ん?」


 中から人が出てきた。

 茶色で地面を引きずるほど長いローブをまとい、フードを深くかぶっているから暗くて顔は見えない。

 おやおや、同業者かねぇ。


「こんにチは。このような場所で人にアうとは。ドラゴンの調査デすか?」


 妙ななまりの喋り方だねぇ。

 声も男か女か分からない、まだ日は高いのにフードの中も見えない、妙に背が高い、まぁ、特におかしなところはないねぇ。


「ああ、ドラゴンの調査に来たんだがね、どうだい? ここには居なかったかい?」


「エえ、ここはハずれでしたよ」

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