第3章 第52話 なんだいお前たち、何がおかしいんだい?

 山頂近くの洞窟を離れ次の洞窟を目指す。

 だがエリーナが何かを気にしている。


「ねぇ、さっきの人、いいの?」


「何がだい?」


「だって、見るからに怪しい人なの」


 エリーナは何を怪しいと思っているんだろうねぇ。

 アタシだけじゃなく、他の5人もなんとも思っちゃいないのに。


「怪しいって言われてもな、何か怪しい所があったか?」


「全部怪しいの! こんな所を1人でいたり、あんなローブ着てたり、顔が見えなかったり!」


「エリーナ、あなたは気にし過ぎだと思うわ。特に疑う点ではないと思うわ」


「だからそれがもう変なの!」


 どうしたんだろうねエリーナは。

 なんでもない事で興奮状態になるなんて、まだ精神が安定していないからか?

 しかし今はドラゴンの調査が先だ、エリーナの意見は後回しにさせてもらうとしよう。

 エリーナをなだめて山を調べながら降りていく。


 登る時よりも念入りに調べ、洞窟も1つ1つ確実に調べていくが、今のところ何も見当たらない。

 

「ここの洞窟もハズレの様だねぇ」


「奥に深い洞窟ではあったが、それだけだな」


「一番奥は少し広かったけれど、精々クマが寝るくらいだったわね」


 ゾロゾロと洞窟から出てきたが、どの洞窟も同じような物だった。

 人が通れるところは全部入って調べ、小さなところは中を照らしたが、何も無い。

 やっぱりガセネタだったのかねぇ。


 4日かけて山を調べながら降りてきたが、成果はゼロ。

 もう日が沈む、今日はここまでだね。


「明日で洞窟は全部調べ終わるが、どうにも見込みは薄いな」


「ルリ子以外のドラゴン、見たかった」


「野生動物も少なくて小型動物ばっかりだから、食料の補給が厳しいネ」


「なんにせよ、明日が終わったら帰りましょう。成果無しなのは残念だけれど」


 そうだねぇ、これだけ調べても居ないなら、やっぱりここにはドラゴンは居ないんだろう。

 うわさはしょせん噂でしかなかったね。

 キャンプを張って食事を取っているが、ここにきてリアまで変な事を言い始めた。


「あの、エリーナさんのいう通り、山頂近くの洞窟をもう1度調べてみませんか?」


「なんだいリアまで。お前もアイツの事が気になるのかい?」


「実は昨日から少しづつ変だと思い始めてて……だって、確かに怪しい事だらけでした、あの人」


「エリーナと同じ意見、って事かい?」


「はい」


 どうしたモンかね。エリーナだけだから流していたが、リアまで違和感を感じるとなると本当に何かあるのかもしれない。


「他の連中はどうだい? 怪しいと思うかい?」


「いや、俺は別に」


「私も怪しいと思わないわ」


「右に同じ」


「変だとは思わないネ」


 この中でリアは冒険者になったのが1番遅い。

 しかしその実力は誰もが認める物であり、信頼度で言えばエリーナの比じゃない。

 エリーナはエリーナで昔の状態なら耳を傾けたかもしれないが、今の状態ではねぇ。

 しかしそうかい、2人が同じ意見を持つというのなら、調べてみる価値はあるだろう。


「なら明日はそのまま降りて残りの洞窟を調べる。その後にもう一度山頂付近の洞窟へ向かうとしようか」


「ありがとうございます!」


「やっと聞いてもらえたのー!」


 



 朝から洞窟巡りをしているが、やっぱり何もない。

 今しがた最後の洞窟を調べたが、ハズレだ。


「じゃあ登るとしようかね」


 調査をするわけでもなく、ただ登るだけだからかなりペースは速い。

 途中で昼休憩をして、時間で言うと3時くらいには到着した。


「おヤ? あなたガたは……ドうされました? 忘れモノでスか?」


 以前も居た茶色の長いローブを纏い、フードの中が黒くて見えない奴がいた。

 ん? ……なんだ、何かがおかしい。

 いやコイツは以前のままだが、なんだ? なにかが、なにかがおかしい。


「こんにちは。こんな所で2度も会うなんて奇遇ですね。私はアセリアと言います、お名前を伺ってもよろしいですか?」


 リアが笑顔で礼儀正しく問いかける。

 ソイツは動かない。リアの言葉は聞こえているはずだが、直ぐには答えない。


「なゼ、そんな事をキく」


「この山はドラゴンが居るとウワサされる山ですよね。そんな場所に1人で来るなんて、名のある方だろうと思いますので」


 それもそうだ。仮にもドラゴンが居ると言われる場所に、1人で来るはずがない。

 アズベルやリアだって1人では来ないだろう。


 何かが晴れた。


 頭の中で“疑問”に思うはずの霧が晴れ、一気にこいつへの不信感があふれ出てくる。

 

 なぜ、アタシはコイツを不審に思わなかった!?

 どこをどう見ても怪しさの塊でしかないコイツを、なぜ信用した!!

 それは他の連中も同じで、頭の霧が晴れた様だ。


 アズベルとベネットは剣を構え、アニタは距離を取る。


「イつだ? いツ気が付いた?」


「1人は最初っから気付いていたよ。もう一人は2日ほど前らしいがね」


 リアとエリーナを見ると、ソイツも2人を見た。


「そうカ、フタがされていルのか。もう1人ハ、冒険者らしクない思考だな」


「何の話しだい? 話しを逸らすんじゃないよ、お前はなにモンだい?」


「イや、残念ダよ。もうすコし、この場にいタかったのだが」


 フードを脱ぐと、そこには龍の顔が現れた。

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