第3章 第50話 信頼と階級の価値

 エリーナを救う方法……ダメです、私では思いつきません。

 こういう時は悪知恵を借りるとしましょう。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ しずか ⇒ ルリ子 ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


 さてと、どうしたもんかねぇ。

 パッと思いついた方法はあるが、通用したらいいんだがね。


「おい、エリーナは指名手配されてるんだったよな」


「そうね、国中どころか近隣の国にまで手配書は回っているわね」


「その手配書は誰が出したんだい?」


「誰? ん~申請したのはワタシで、ギルドマスターの許可の元、手配書を作成・配布したわん」


「お前はエリーナに何かされたのかい?」


「いいえ? ユグドラちゃんが殺されかけたって聞いたからよん」


「じゃあ大本おおもとはユグドラなんだね?」


「そうなるわね」


「じゃあ取り下げる」


「え?」


「あん時は混乱していたからねぇ、エリーナの飲み物に毒が入ってるって勘違いしちまったのさ」


「で、でも毒で死にそうになったんでしょ?」


「ああそうさ。だがアレは、体調が悪い時に毒草を食っちまったのさ。そしてタイミング良く飲み物を渡したエリーナは、自分が悪いと思い込んで逃げちまったんだろうさ」


「……今さらそんな話しをしたら、ユグドラちゃんの階級も信頼も落ちちゃうわよ?」


「構やしないさ。どこまで落ちる? 上級か? 初級か?」


「ごめんなさい、いまのは忘れてちょうだい」


「あ、あーっそういえばあの時!」


「リア、お前は黙ってな」


「はい……」


「ふぅ。でもそれだと、エリーナは救護義務を放棄しちゃったから、そっちでの罪が残るわよん?」


「そっちはどんな罪だ?」


「ユグドラちゃんが死んだわけでもないし、怪我を放置って形だと、10G~50Gの罰金ねぇん」


 10万~50万円か。

 まあその程度なら構やしないだろう。


「分かった。今のエリーナでは支払えないから、アタシが立て替えておこう」


「じゃあ近いうちに払いに来てねん」


 何とかなったか。

 力技に近かったが、まあこれでエリーナが追われることは無いだろうさ。

 グレゴリィオネェが帰り、家の中は一気に緊張が解けた。


「ふぃ~、妙な疲れ方をしちまったぜ」


「折角助けたのに、死刑だなんてとんでもないわね」


「すみません、私のわがままのせいで」


「じゃあ今日はハンバーグ作って」


「あっはっはっは、私も作るの手伝うからネ!」


 その日の夕食はハンバーグパーティーという、日本でも聞いた事のない食事になった。




 翌日にギルドへ罰金を払いにいくと、グレゴリィオネェが手招きして待っていた。

 

「おはよ~。昨日の今日で、素早いお支払かしらん?」


「面倒事は早く終わらせる主義なんでね。で、10Gかい? 50Gかい?」


「50Gよん。あ、はいありがと。それでね? もう一つお願いしたい仕事があるんだけど、話しを聞いてくれる?」


 1階のミーティングスペースに移動のため、エリーナを含めたアタシ達7人とグレゴリィオネェはぞろぞろと動き出した。

 今の時間は朝のピークを過ぎているから、ギルド内には冒険者は少ない。

 なのに何だろうねぇ、ジロジロ見られているよ。

 ああ……エリーナを見ているんだね、見た目は元に戻ってきているから、会った事のある奴なら気付くだろう。


「それで、どんな仕事だい?」


「これなんだけどね」


 1枚の依頼書と、分厚い書類の束をテーブルに置いた。

 依頼書を手に取ると

【ドラゴンの生態調査依頼】

近隣で目撃されたドラゴンの調査を依頼します。

ドラゴンの大きさや体重、知能や言語能力、体液など

可能な限りの情報を集めてください。

 と書いてある。


 アタシは目を細めた。

 

「おい、このドラゴンってのは、まさかアタシのドラちゃん達じゃないだろうねぇ?」


「ルリ子さん、落ち着いて落ち着いて、ハイ深呼吸して~スゥ~はぁ~」


 リアに言われて深呼吸をしちまったが、なんだい? いきなりどうしたんだい?


「だ、だ、だ、大丈夫よルリ子ちゃん、馬で3~4日ほど離れた場所にある山中に、ドラゴンが住んでるって言われているの。それの調査依頼よん」


 なに焦った顔でドモってんだい? おや? エリーナはどうして震えている? それに、いつもは野次馬根性で近くで話しを聞いている冒険者がいなくなってるね。


「お前のドラゴンを調べさせろなんて命知らずはいねーよ」


「なに言ってんだい、殺したりしないさ。向こうが殺してくれと言うまでいたぶるだけさ」


「だからそんな事を言う人はいない、っていっているのだけど」

 

「まるでアタシが怖い人みたいじゃないか?」


「ルリ子の無自覚はある意味恐怖」


「まぁその話は置いといて、ネ? エリーナも、ほら大丈夫、怖くないから」


「大丈夫……なの?」


 何だろうねぇ、釈然としない。

 最近のエリーナは会話が普通に出来るようになった。

 自分が何をやったかも覚えてはいるが、話しを聞いていると、遠い昔の事のように感じているようだ。

 

「それでね、ドラゴン相手なら一番適任なのはルリ子ちゃんじゃないかって、どう? 引き受けてくれる?」


「ああ構わないよ。ただ調査ってのが面倒になったら、連れてきてもいいんだろ?」


「そ、それは構わないけど、野生のドラゴンは暴れたりしない?」


「暴れたらオシオキするから大丈夫だろ」


「ならそれでもいいわん」


 ドラゴンか。

 この世界にならいるとは思っていたが、実際にお目にかかれるとはねぇ。

 どんな奴なのか楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る