第3章 第49話 大臣の手の上で踊らされた感があります

 作戦の認可が下りて、私達に出来る事はあとわずか。

 武具の手入れ方法の指導、それが終わればこの国を離れる事になります。

 この国の鍛冶屋もオンディーナと変わらない腕があるので、それも直ぐに終わるでしょう。


 戦いの行方を見届けられないのは残念ですが、私達がそこまで干渉する事はできません。

 残り数日でしょうが、それまでは精いっぱいやりましょう。


 鍛冶屋には剣の手入れ方法を教え、革製の兜と鎧、籠手は裁縫屋に教えました。

 盾は木製のラウンドシールド、丸い小型の盾ですが、建具屋なら問題ないでしょう。

 剣は中心線を薄く叩きのばしたロングソード、盾は丸いラウンドシールド、兜は帽子のように頭だけを保護するタイプ。


 鎧と籠手は可動部分以外は堅く、剣や槍で突かれても簡単には貫かれないでしょう。

 リアに作ってもらった薬品は、盾と革製品に塗布してあります。

 水をはじき易い撥水はっすい効果のあるもので、雨が降っても体が冷える事はありません。

 多少の炎では燃えないはずなので、魔法使いが灼熱弾ファイヤーボールを使っても直ぐに燃える事は無いでしょう。


 この国は木材や革が豊富で助かりました。

 さて、本当にやる事が無くなりました。


「皆さんありがとうございます! 政治的に何とか均衡きんこうを保っていましたが、それも限界が見えていました。でもこれで何とかなりそうです」


 政治的な均衡ですか。

 4対2.5対2.5対1という勢力分布の中、ブコムは長男と四男の領地と隣接しています。

 逆にこの状況を利用したのでしょう。

 長男の4に対しては次男・四男の2.5では勝てませんが、三男ブコムの1が加わればかなり戦力は近づきます。

 逆に長男にブコムが加わると5、次男・四男は協力してやっと互角です。

 ブコムの圧倒的不利は間違いありませんが、なんとか状況を最大限利用していたのですね。

 ……大臣が、ですが。


「あなたがいなければ、ここは無くなっていたのでしょうね。水面下で、よく今まで支えられましたね」


「いや~それはもう血のにじむような思いでした。頭がハゲるのではないかと心配で心配で」


「その際は良い薬を紹介しますよ。ツルツルからフサフサになった実績もある薬です」


「その際はぜひ」


 リアが作った薬です。今のユグドラはフサフサではありませんが、長めのいがぐり頭です。

 あの状態からよく毛根が復活したモノです。


 そういえばブコムも顔は出しました。

 しかし長時間のプレゼンが効いたのか、あれ以来、側室になれとは言ってきません。

 リアやベネットにターゲットが移るかと思いましたが、ベネットには痛めつけられ、リアにはベネットより強い夫がいる、と知ったようで、平和なモノでした。

 

 そういえばこの国には転生者らしき人物は見当たりません。

 てっきり各国に2人はいると思ったのですが、必ずいる訳でもないようです。





 クオパティ国を出国し、来た時とは逆のルートで帰ります。

 三男の領地→四男→次男→長男の順ですが、戻りの船旅は人が少なく、船に乗ってくるのは小さな商人ばかりです。

 来るときも乗っていたようですが、傭兵に紛れて気付かなかったのでしょう。

 傭兵も乗っています。しかし怪我人ばかりで、傭兵稼業を引退するしかない程の欠損ばかり。

 私が居る時は小競り合いしかありませんでしたが、それは長男と四男が三男を取り込ませまいと互いにけん制しあっていたからで、他の3兄弟は頻繁に戦闘があるようです。

 

 あの大臣、思った以上にやり手ですよね。


 ユグドラとリアの結婚式はクオパティ国を出てから1月後に行われ、オンディーナから沢山のギルド関係者や冒険者、王侯貴族、来るとは思いませんでしたがブラスティーも来ました。

 しかしあの大臣、式では気を遣いすぎて、さぞ胃が痛かった事でしょうね。


 リア、キレイでした。

 普段は目立ちたがらないユグドラも、あの時ばかりは嬉しくて、リアを見て終始デレていました。

 ちなみにアズベルとアニタも、ここで式を挙げようかと話していましたね。


 後日談になりますが、三男は長男の領地に攻め入り、勢力比を3対2.5対2.5対2にまで押し上げた様です。

 こうなるとどの勢力も決め手にかけ、見事に長期の膠着こうちゃく状態に入りました。

 結婚式の影響があったのでしょうね、三男にはオンディーナの王侯貴族や名だたる冒険者と繋がりがある、と思わせたのです。

 他勢力が必要以上に警戒し、動きが鈍くなったのでしょう。

 してやられた感がありますね、あの大臣には。






 さて、オンディーナに戻ってからはいつも通りに……とはいかず、早速問題が発生しました。

 

「お願いだから、ね、冒険者ギルドとしては放置するわけにはいかないのよん」


 グレゴリィオネェさんが家に現れ、エリーナを引き渡して欲しい、と言われたのです。

 冒険者登録されていた時の罪、冒険者を殺害しようとした事で、指名手配されていたのを忘れていました。

 当たり前と言えば当たり前ですが、ギルドとしては最大級の犯罪行為であり、登録抹消どころか人権を奪った上で死刑になるようです。


 確かにエリーナは奴隷となり、さらに捨てられて最悪の状態でした。

 しかしそれはギルドには関係のない事であり、まだ罪は消えていない、と。


 迂闊でした。

 結婚式にエリーナを連れて行ったことが、こんな形で影響するとは思いませんでした。


「エリーナに殺されかけた本人が【見逃す】と言っているのです。確かに遺恨いこんはありますが、いまの状態で罰を与えても、意味がないのではありませんか?」


「しずかちゃん、言わせないでちょうだい。罪ってそんな事じゃ消えないの。もう個人だけの問題じゃないって、理解しているんでしょん?」


 理解はしています。

 しかし困りました。一度保護した人間をホイホイと渡す訳にもいきません。

 何か手は無いのでしょうか。

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