第3章 第48話 ブコム篭絡作戦

「もう完成したとは本当ですか!?」


 朝食を取っている最中に、大臣が慌ただしく食堂に入ってきました。

 朝はのんびり食べていたいのですが、来てしまったモノは仕方ありません。


「まだ全てが出来たわけではありません。剣と盾が出来ただけです」


「見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「鍛冶場に置いてありますので、ご自由にどうぞ」


 走って鍛冶場へ向かいました。

 ふぅ、これで静かにいただけます。





「あの、しずか殿? 質問があるのですが」


「次は何ですか?」


 静かになったと思ったら、しばらくして戻ってきました。

 今は食後のティータイムなので、のんびりしたいのですが。


「剣が山のように箱に入っていたのですが」


「はい、ですから剣と盾は完成した、と言ったではありませんか」


「完成って、剣と盾1セット完成したのでは……?」


「いいえ、剣と盾2千セットが完成しました」


 かなり驚いていますね。私も自分で作っておいて何ですが、とても驚いています。

 製作マクロのお陰で数倍の速度で完成しましたし。

 後は鎧部分ですが、もう鉄の残りは少ないので、無駄遣いは出来ません。


「こんなに簡単にできるなら、依頼料はもっと安くして頂いても……?」


「なら他の人に頼んでください。全て鉄塊に戻しますので」


「いえいえいえ! ちょっと思っただけです、思っただけ」


 慌てて部屋を出ていきました。

 これ以上機嫌を損ねてはまずいと思ったのでしょうか。

 ここが財政難なのは分かりますが、ソレはソレ、コレはコレ。

 

 そういえば三男ブコムは顔を見せませんね。

 顔が腫れあがっていて出て来れないのかもしれません。


「さて、それでは仕事を始めましょうか。リア、ベネット、お願いします」


 リアは私と一緒に、ベネットは人材を探しに行きました。

 ひょっとしたら、万が一ですが、軍師的な考えを持っている人が居るかもしれません。

 さて、装備自体は今日中に完成させましょう!




 その日の晩、ベネットから嬉しい報告がありました。


「ブコムにうとまれて、裏で事務仕事をしていたわね。しかも3人も」


「3人ですか、それは大量ですね」


「3人とも現状を打破する作戦をいくつか持っているけど、何度立案しても却下されて不貞腐ふてくされていたわ」


「人材はいるのですね。よかった、明日にでも話しを聞いてみましょう」





 3人の話しを聞き、必要な道具を作る事になりました。

 幸い鉄の使用量は少なくて済みそうなので、大急ぎで作る事にしましょう。

 それと作戦に合わせて装備を微修正しました。


 大臣には話しを通しておきました。有無を言わせずOKさせましたが、問題はブコムです。

 何とか3人の重要性を理解してもらえればいいのですが。

 ブコムが復活したら話しをしましょう。




 約1週間後、ようやくブコムの顔の腫れがひき、久しぶりに顔を見せに来ました。


「完成したか! そうかそうか、流石は私が見込んだ女だ!」


 鍛冶場での仕事中、大きな足音を立てて入ってきました。リア達は裏で別の仕事をしています。

 肩をバンバン叩かれて痛いですが、今少し我慢しましょう。


「ブコムさん、話しがあるのですがよろしですか?」


「ん? どうした、ついに俺の側室になる決意を―――」


「裏方に回されていた人物についてです」


「裏方? 誰だそれは」


「みなさん、少し手を止めて来てください」


 裏口から入ってきたのはリアとベネット、そして男性2人女性1人。

 男性は20代と40代、女性は30代でしょうか。

 ブコムとは目を合わせようとしませんね、嫌っているのか怖いのか。

 両方ですかね。


「誰だ? この3人は」


「あなたに何度も作戦を提出して、全て却下された人たちです」


「ああ~あ、そういえば居たな、姑息な手段を使って勝とうとする者が。俺の性に合わないから却下した!」


 覚えていましたか、忘れていたらゼロからの説得なので楽でしたが。

 マイナスからの説得を始めましょう。


「それではプレゼンを開始しましょう」





 ~5時間後~


「わか……った。すきに、すると……いい」


 それだけ言って、ブコムはテーブルに頭をぶつけながらも眠りました。

 結局作戦の意義を理解せず、長期戦に持ち込み意識をもうろうとさせ、判断力を奪ったうえでの了承でした。

 もっとスマートに出来れば良かったのですが、思った以上に拒否反応が強かったですね。

 トラウマでもあるのかと思うほどに。


「休憩なしのぶっ通しでやって良かったわね。コイツ、思った以上に強情だったわ」


「本当。どうしてここまで嫌がるんだろう」


「なんにせよ、ブコムの認可が下りたのは間違いありません。気が変わらない内に進めましょう」


 私達も疲れましたが、作戦を立てた3人はもっと疲れているようです。

 倒れないだけブコムより丈夫ですね。


「やっと……やっとこの作戦が日の目を見ることが出来る」


「長かった。苦節20年、やっとブコム様に採用された」


「こんなに長時間ブコム様と話しをするなんて、思いもしなかったわ」


 初めて認められた喜びは大きいようです。

 しかしここからが本番。

 私達が出来るのはここまでですが、しっかり見守ってあげましょう。

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