第3章 第47話 創意工夫は職人の醍醐味

 三男ブコムの領地で依頼を受けた私は、鍛冶場で頭を悩ませていました。

 2千人分の装備を揃えないといけないのに、使える金属は約100人分……不足分は融通して欲しいと書いてありましたが、まさか1900人分の鉄を融通する事になるとは。

 流石にそこまでの在庫は持っていませんし、いまから揃える事も難しいでしょう。


 考えましょう。

 どうしたらコレで2千人分の装備を揃えられるか、を。

 そうですね、まずは部隊編成を知りたいですね。

 歩兵と騎兵では装備も違いますし、弓兵や槍兵も違います。


 ブコムの兵力は約1万。

 歩兵が8千、騎兵5百、弓兵1千、槍兵5百。

 歩兵が多いのは土地的に山が多く、馬の足を活用できないからのようです。

 同様に槍兵も山では使いづらく、弓兵は歩兵の補助として存在するようですね。


 騎兵・槍兵は装備が揃っているようなので、歩兵と弓兵ですが、弓兵は鉄はあまり使いませんので歩兵に集中する事になります。


 槍兵なら武器を木で作れるのに……。


 とは言え歩兵も軽装歩兵に限定しないと、鉄がいくらあっても足りません。

 うん、軽装歩兵なら金属は一部しか使わないので、なんとか人数分は揃えられそうです。

 機動力も上がり良い事づくめ。

 ではアレを用意してもらいましょう。


「大臣さん、いまから言うものを揃えてください」





「しずかさん大丈夫? いくら何でも2千人分の装備なんて時間がかかり過ぎない?」


「実のところ、数は何とかなります。1番の問題は材料でしたので」


「そうなの?」


「ええ。しかしリアにも手伝ってもらわないといけません」


「任せて! 私の責任みたいなものだし!」


 残念ながらこの国には錬金術に使える施設がないので、馬車に装備してある機材を使用しましょう。

 リアには薬品の調合や簡単な裁縫をお願いしました。


「私にできる事は何かないかしら?」


「そうですね……では、簡単でいいので、この国の訓練を見て来てください。兵士の実力や運用方法を知りたいですね」


「分かったわ」


 さて、それでは制作に入りましょう。

 リアに数は問題ではない、と言ったのは本当で、汎用品ならばメニューの製作画面を使えば……おや? 以前と何かが違いますね。

 以前は作るアイテムを指定して1つずつ作っていましたが、コレは? 見覚えのない蘭をクリックすると、横長の空欄が10こ出てきました。

 空欄をクリックすると一覧表が現れ、一つを選ぶと次の空欄にも表がでます。


 これは……マクロ画面ですか?

 私が今まで手動で操作していた行動を選択し、全て自動でやってくれるのですか?

 わかる範囲で上から順番に選択していき実行を押します。


 メニューのバッグの中に剣が現れました。

 今マクロで制作した剣です。

 一瞬ですね。では回数を指定して、条件も追加して実行してみましょう。


 マクロが順番に進み、1秒に2本ペースで剣が出来上がっていきます。

 たまに【高品質のみ】の条件に合わなかった物が自動で溶かされ、インゴットとしてバッグに現れます。

 1分足らずで100本の剣が完成し、バッグの中は剣だらけになりました。

 標準品質が2回出来たので、高品質の確率は98%ですか。

 便利ですね。しかしいつの間にこんなシステムが?

 システム? ああ、以前アップデートされた時でしょうかね、私はほとんどワンオフ品を作っていたので、汎用制作は使っていませんでしたから。


 これならば更なる時間短縮が図れます。

 

 剣を1時間ほどで2千セット用意でき、鍛冶場で箱に入れていきます。

 ワンオフの時は自分で切っていためいも、きちんと自動で入っていました。

 『Lady Sizuka』

 戦争で使う物に自分の銘が入ってしまいましたか……いえ、結局のところ武器も防具もそういう物なのです、使い方までは指定できません。


 さて、これにひと工夫しましょうか。


 他の部分も制作し、鍛冶場は箱で一杯です。

 困った事に、いえ困ってはいませんが、1日で依頼の半分近くが終わりました。

 後は手入れの方法と、残った部位の製作のみです。


「ねぇしずかさん、薬品が樽10個以上になったけど、もっといる?」


「そうですね、10個あれば問題ないでしょう。明日はそれを使いましょう」


「兵士の様子を見て来たけれど、いま話してもいいかしら?」

 

「聞きましょう」


 夕食を頂きながら話しを聞いています。

 ここの兵士たちは士気は高いのですが、どうも脳筋の三男の影響か、規律正しくは動けないようです。

 個人の練度自体は高いようですが、規則的な部隊行動は苦手のようですね。

 このままだと間違いなく負け戦になりますか……結婚式を挙げた場所が無くなるのは困ります。


「ベネット、多少……口を出せますか?」


「アズベル程ではないけれど、私も部隊指揮の経験は豊富よ? 任せてちょうだい」


 部隊指揮、とはいっても軍隊のではなく、冒険者パーティーが複数集まった複合パーティーの指揮です。

 アズベルは数百人単位、ベネットもそれに近い人数を動かせます。

 戦場全体を見れる人材がいればいいのですが……ない物ねだりですか。

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