第3章 第46話 真の依頼書
ブコムは治療のためどこかへ連れていかれ、私達は大臣に連れられて応接室に来ました。
お屋敷の応接室だけあって壺や絵画が飾られていますが、こんな所にお金をかけていていいのでしょうか。
「先ほどはお疲れさまでしたベネット殿。それからしずか殿、アセリア殿も、ブコム様が失礼な事をした
ソファーに腰をかけ、大臣は正面に座りました。
先ほどまでの無関心さが嘘のように、頭を深く下げています。
ブコムの前では無関心を装っていないといけない理由でもあるのでしょうか?
「いえ構いません。もう帰ろうと思っていますので」
「そうおっしゃらず、いま一度、話しを聞いてはもらえませんか」
妙に冷静ですね。こういう所は昨日から変わっていません。
しかしオールバックの頭をしきりに撫でているのは、自分の緊張を紛らわそうとしているのでしょうか。
頭をなでるのを止めて、懐から1枚の紙を取り出して渡してきました。
? なんでしょう。
【鍛冶ギルドへの依頼書】
「ん? これはオンディーナのギルドで見たモノとは別ですね」
「はい。それが正式な依頼書になります」
そこに書かれていたのはクオパティ国・ブコム王代理依頼と書かれています。
代理依頼? 王ではなく別の人が依頼を出した、という事ですか。
条件は
・材料は可能な限り揃えるが、不足分は融通して欲しい
・兵士2千人分基本装備一式
・予算は1万G内で収めて欲しい
・基本的な手入れ方法及び、兵士の指南
書かれている内容が随分と変わっています。
材料はクオパティ持ち、兵士の数が半分以下、予算のハッキリとした明示、そして鍛冶指導から手入れ方法へ、そして兵士の指南。
材料はその内容で良いでしょう。
しかし予算が足りなさすぎます。1万G(約1億円)では相場の5分の1以下ですし、手入れ方法は良いとして、兵士の指南? 鍛えろという事ですか?
「以前のモノと随分内容が違いますが、アレは一体何だったのでしょうか?」
「申し訳ありません、ブコム様がアレを送れとおっしゃられて……やむおえず」
「つまり断られるのを分かっていたのですね?」
「……申し訳ありません」
「しかしこの依頼書にしても、予算が少ないうえに兵士の指導ですか? それは私の領分ではありませんが」
「噂は聞いております。ユグドラ殿やルリ子殿、バンチョウ殿といった
「出来ません」
「そこを何とか!!」
テーブルに頭がぶつかりそうな勢いで頭を下げていますが、出来ないモノは出来ません。
ベネットをバカにされ、私は側室になれと言われ、依頼内容は相変わらず滅茶苦茶。
こんなものを受けると思われるとは、職人を舐め過ぎではないでしょうか。
「残念ですが、これ以上は話す事はありません」
立ち上がるとリア、ベネットも席を立ちます。
「結婚式!」
突然大声で大臣が叫びます。
結婚式? 何を言っているのでしょうか。
「ユグドラ殿とアセリア殿は、2人だけの質素な式を挙げられたとか。この地には景色が良くて有名な式場がございます。我々が最高の演出で、最高の思い出となる式にして見せましょう!」
何を言っているのでしょう。
今更結婚式を挙げる意味があると思っているのでしょうか。
確かに
リアの目が光り輝いています!
両手を胸で組み、まるで『将来の夢はお嫁さん!』という少女のようにきらめいています!!
これは……ベネットを見ると諦めた顔で左右に振っています。
確かに2人だけの式は質素な物でしたが、やはり豪華な式に憧れるのでしょうか。
「は! いえいえ、そんな言葉に乗せられるほど、私達は甘くありませんから!!」
と、必死に自分を押さえるリア。
ああ、そんなに歯を噛みしめて堪えなくとも。
はぁ、これは断れませんね。
「お受けしましょう」
「受けてくださいますか!」
「し、しずかさん!?」
「ただし! 依頼内容は人数分の装備一式、手入れ方法は教えますが、兵士の訓練はなしです」
それ以上はタダ働きどころでは無く、大赤字になってしまいます。
リアにも色々手伝ってもらわないといけませんね。
「ありがとうございます! それだけでも十分助かります!」
大臣はしきりに頭を下げて握手をしてきます。
「ところで、さっきまでと随分態度が違いますが、ポーカーフェイスはどうしたのですか?」
「ああ、申し訳ない。ブコム様は常に上から目線でいないと気が済まず、それは私達にも厳命されております。なので今の私の姿を見られたら、ブコム様に叱られてしまいます」
何とか御内密に、と。何でしょうね、立場的には大臣の方が強そうですが、やはり三男であり自称国王のいう事は聞かないといけないのですね。
この人も苦労してますね。
そうして早速仕事場に案内してもらい、必要な物を揃えてもらいました。
が、私は絶望というものを知りました。
「鉄が……たったこれだけですか?」
2千人分の装備を作るための鉄、それをお願いしたのに用意された鉄は約3トン。
100人分が良い所でしょう。
「これが、精いっぱいでございまして……」
やっぱり受けるんじゃなかった。
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