第3章 第40話 アタシには理解できない想いだねぇ

「ん? まだ座っていたのか」


「はい、動いていいとは言われてないので」


 王の寝室を出て裏口から帰る途中、アミックが地面に正座をしていた。

 腕の中には小さなクマのぬいぐるみを抱えているが、動かなければアミックが人形に見えてしまう。


「では勝手にしていい。ただし、私達の邪魔はするな」


「いいんですか?」


「約束を守っている限り、私から何かをする事は無い」


 それだけ言って、私は外に出るべく壁を登ろうとした。


「……なぜ付いて来る?」


「あの……その……デスペナルティーでレベルが下限まで落ちちゃって……このままだと他の冒険者に何されるか分からなくて……」


「? 鉄の処女アイアンメイデンがあれば問題ないだろう?」


「あれはレベル100にならないと使えないから」


「つまり、いまのお前は弱いと?」


「精々上級冒険者くらいです」


 上級冒険者か、決して弱くはないが、アミックの噂を聞く限り、随分と好き勝手をしていたようだからな、弱いと知れたら何をされるか分からないだろう。

 だが、それこそ知った事ではないな。


「なら頑張ってレベルを上げる事だ」


「コ、コ、コ、コミューン以外の国に連れて行って下さい!!」


「断る」


「そこを何とかぁ!!」


「ええい五月蠅い!」


 腹を力いっぱい殴ると、しばらくして体が光り出した。

 なに? いくら力いっぱい殴ったからと、こんな簡単に死ぬようになったのか。

 本当に弱くなったんだな。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ メイア ⇒ ルリ子 ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「ゲート」


 適当にゲートを出して、中にアミックを放り投げた。

 オンディーナのどこかだが、どうせ死にゃしないんだ、運が良ければどこかの街にたどり着くだろうさ。


再呼び出しリコール


 ギルドの部屋に戻ってくると、ベネットとアニタ以外が揃っていた。


「お帰りなさい、ルリ子お姉ちゃん」


「ただいまリア。どうだい? 何か変わった事は無かったかい?」


「それが……」


「どうしたんだい?」


 テーブルに置いてあった手紙を渡してきた。

 なになに? 明日の朝、王城に来い、だって?


「なんだい? これは」


「あー、お前がどこかへ行った直後にな、あの執事が持ってきたんだ」


「若くていけ好かない奴。また威張ってた」


 ああ、あのブチ殺してやろうと思った奴か。

 次に会ったら殺そう。


「行く必要は無いよ。明日は予定通りに馬車護衛の依頼を受けて帰るんだ。ああそれから、決して王城には行くな、間違っても国王と会うのは厳禁だ」


 少しジト目で見られた。

 城で何をしてきたんだろう、とでも思っているんだろうねぇ。

 お前たちは私の事を乱暴者とでも思っているのかい?


「それとエリーナだが、意識は戻らないかい?」


「うん、まだ眠ってると思う」


「あいつは4つ首のドラゴンを操った奴の部下だが、部下全員が売り飛ばされていたよ。ブラスティーが指示したのかどうかは知らないが、かなりの人数だったね」


 エリーナの事で調べた内容を一通り話した。

 アタシの暗殺に失敗した後、しばらくは元の部隊にいた様だが、上司が失敗・死亡したのと同時に売り飛ばされていた。

 大体の者は労働力や戦力として使われていたが、片腕のエリーナはオモチャとして貴族の慰み者にされ、飽きたら次へ、飽きたら次へと転々とされていた。


 最終的には見るに堪えない体となり、あのスラムに捨てられたようだ。


 あの時『パンをくれたら、いいよ』というのは、パンをくれたら何をしてもいいよ、という意味だったのだろう。

 あんな状態でも生きようとしていたんだね、恐れいるよ。


「リア、どうしてお前は助けようと思ったんだい?」


「あの人は、エリーナさんは、ユーさんを好きって気持ちは本当だったと思うから。でも、きっと上司には恩が合って、断れなかったのかなって」


「俺はてっきり、任務の為ならあそこまでやれるのかってビビったもんだが、違うのか」


「アズベルは唐変木とうへんぼく


「な、なんだとぉ!?」


 女には分かるのかねぇ。アタシには分からないがね。





 朝食を食べてギルドへ向かい、オンディーナへ帰る道の馬車護衛依頼を受けた。

 受付嬢は何も渡してこなかったし、相変わらずニコニコだ。

 エリーナを馬車の後ろに乗せたが、まだ意識がはっきりしないのかボーっとしている。


 コミューン国王の事はこの国を出てから話そう。

 いま話すと手助けをしようとか……いや、そこまでお人好しじゃないね、ウチの子らは。

 面倒事は嫌だし、国のために何かをするなんて御免だ。

 洗脳された奴がどこで聞いてるかもしれないしね。


 来た時はぼったくりの事で頭がいっぱいだったが、よく見ると兵士の数がとても多い。

 治安は良いんだがねぇ。そうか、移動中に盗賊や大型モンスターが出て来なかったのは、治安維持に金をかけているからか。

 悪くはないが、冒険者がいる世界なんだから、役割分担をしないといけないねぇ。


 あまり、後味の良い仕事ではなかったね、今回は。

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