第3章 第41話 そんな義理はないねぇ

 コミューンの首都を離れて最初の街、ギルドへ報告にいくと受付嬢が驚いていた。

 しかし何も言わず、淡々と受付をしているね、チョイトからかってやろうかねぇ。

 【もう終わった】とメモを渡す。


「え? 終わったって……アミッ」


 口を指で押さえ言葉を遮る。

 ああそうか、はたから見たら、アミックが国王を洗脳したように見えるんだったねぇ。

 実際は逆なんだが……ん? アミックが姿をくらましたとなると、ますますアミックが主犯になっちまうか? ま、いっか。


 相変わらず宿の値段が高い。

 だから広場でキャンプをしているが、アズベルとベネットがキッカス達4人に指導している。

 この4人も随分と強くなったね。

 アタシの時はキッカスが突っかかってくることは無い。

 メイアはもちろん、番長にもだ。


 理由を聞いたら

「アズベルさんとベネットさんは私の憧れの、憧れの冒険者なんです! それが腑抜けた冒険者の弟子だなんて、認める訳には、認める訳にはいきません!」

 だそうだ。


 ユグドラは腑抜けで、他のは優秀な冒険者らしい。

 アタシらのメインキャラなんだがねぇ……。


 夜になると、ギルドの受付嬢がアタシらを訪ねてきた。

 詳しい話しを聞きたいらしいから、馬車の中で教えてやると


「え? 国王が? え? え?」


 とまぁ混乱していた。

 考えてみれば、30歳未満なら生まれた時にはすでに国王だし、それより年上でも『めかけの子』と言われれば何も疑問には思わない。

 正当な王族たちはすでに大半が殺され、生き残っていても隠居生活をしているはずだ。


 クーデターを起こす力も無いだろう。

 もっとも、起こしてもオンディーナに吸収されるだけの国だ、すでに価値はない。


「お門違いだとは思いますが、なんとかコミューンが残る手段はないでしょうか」


 そんな事を聞いてきた。

 いくらギルドは中立と言っても、やっぱり自分の国が無くなるのは嫌なんだろう。

 とはいえ、アタシには関係がない。


「知らないねぇ、コミューンでなければならない理由でもあれば、吸収はしないだろうがね」

 

 その後は、特に深い話しはしなかった。

 お門違いだと理解しているし、そもそも国同士の取り決めに、冒険者が出しゃばるのはおかしい。

 少々肩を落として帰って行った。





 約一ヶ月かけた旅も、ようやく終わりが見えてきた。

 やっとオンディーナに到着だ。


「あら、おかえりなさいルリ子ちゃん。お久しぶりねぇん」


「たかがひと月だ、久しぶりって程でもないだろうさ」


 王都のギルドに入ると、相変わらず濃いグレゴリィオネェの姿があった。

 やっぱり家のある街は落ち着くねぇ、今日は家でゆっくりしようか。


「はい、報酬よん。どうする? 次の依頼も受けていく?」


「いやいい。それよりも2階を借りるぞ」


 ギルド2階の部屋を借り、精算をしている。

 親書を運ぶ依頼料は全部アタシらが貰うが、護衛依頼の分は人数割りだ。


「あなた達の取り分は180Gになるわね。ここから荷車にぐるまの修理代を差し引いて、さらに剣の指導料を引いて……45Gがあなた達の分よ」


 ベネットがガンガン差っ引いて行く。

 本来ならオマケで受ける護衛依頼を、必ず受けたのはこのためだ。

 迷惑料も入っているがね。

 日本円で45万円ほどだが、4人の月収と考えると安いねぇ。

 更に孤児院の事もあるから、本当に【親書を運んだ】という実績だけが手に入った形だ。


「ありがとうございます。本来ならば、コレもあなた方の物なのに」


「そこまでは要らねーよ。それに冒険者にタダ働きなんてさせられん」


 剣士のオッサンが頭を下げている。


 実際の所、馬車の護衛を受けたのにはもう一つ理由がある。

 メシ代を浮かせるためだ。

 護衛中は依頼主がメシを提供する決まりだから、その分のメシ代が丸々浮く。

 だから今回は長旅でも、随分と経費が抑えられた。


 ドアがノックされた。誰か来たようだね。


「お客さんが来てるんだけど、お通しして良いかしらキャッ!」


 グレゴリィオネェの口から、聞きたくもない小さな悲鳴が聞こえた。

 返事を待たずにドアを開けたのはブラスティーだ。


「あん? なんでお前がここにいる」


「お前たちだったのか。どうりで反応が無いと思ったぞ」


「反応だ? 何の事だい?」


「お前たちは、お前たちのままか?」


 アタシ達のままか……洗脳の事を言っているのか? だとしたらコイツは、コミューン国王の洗脳の事を知っていることになるが。

 ああ、そういう事かい。


「残念ながらアタシ達はいつも通りさ。すまないね、送り込んだ奴隷たちが活躍できなくて」


「え? 奴隷って、エリーナさんと一緒に売られた人達の事ですか?」


「そうさ、おおかた冒険者が洗脳されたのを合図に、コミューン国王を暗殺するつもりだったんだろうさ」


「ちょっと待てよ、そんな事をしなくても、コミューンはオンディーナに吸収されるんだぞ? どうして暗殺する必要がある」


 ああ、そういえばコレは言ってなかったね。


「コミューン国王はアタシと同じ転生者なのさ。しかも強力な洗脳が使えるから、吸収後にオンディーナの主要人物が洗脳されでもしたら面倒な事になるからねぇ。憂いを断ちたかったのさ」


「その通りだ。余計な事をしてくれたものだな」


 今の状態で、吸収前に反撃をくわだてる事は無いだろうが、仮に反逆者としてコミューン国王が暗殺されれば、吸収後はコミューン人が差別されるかもしれない。

 結果論だがな展開になったようだ。

 良かったじゃないかい、ギルド嬢。

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