第3章 第35話 人形の様な人形使い

 さっきから足を執拗に攻撃されている。

 偶然かどうかは知らないが、私の1番の武器は素早さだ。

 それを封じられては何もできなくなる。


 今は必死に地面を転げ回って攻撃を避けているが、ポーションでは欠損部分の再生に時間がかかり過ぎる。

 何とか反撃をしたいが、足のない状態で、無理に攻撃をすると動きが止まってしまい、大きなクマの爪が襲い掛かってくるため、今は避ける事しか出来ない。

 

 動きの遅い小さなクマが集まってきた。

 いまアレに囲まれたらひとたまりもない、危険ではあるが、一時的に木の上に避難しよう。

 這いつくばりながら腕で木に登り、太い枝にまたがる。

 予想通り地面を歩くぬいぐるみは登ってこれない様だ。が、木にはサルがいるしフクロウもいる。

 

 せめて足が治るまで時間を稼ごう。


 枝の上で短剣を使い、枝を利用して跨ったまま戦い、時にはぶら下がって戦うが、一斉にサルたちがいなくなる。

 木が大きく揺れた。

 下を見ると大きなクマのぬいぐるみが、木に体当たりをしている。

 他の木に飛び移ろうにも、まだ足の再生が終わっていない。


 それにしても、これだけ大きな音が出ていても衛兵は来ないのか。

 そうか……なら仕方がないな。


 来ないのなら、戦っても問題は無いな。


 バッグから大量の小瓶を取り出す。

 黒い液体の入った球体の瓶を地面に放り投げ、私はさらに高い場所へと昇り耳を押さえる。

 瓶は地面に当たると視界が真っ白になるほどの大爆発を起こし、地面にいたぬいぐるみはもちろん、飛んでいたぬいぐるみも衝撃でバラバラになってしまった。

 爆発の衝撃で周囲が砂煙で覆われるが、丁度いい、今のうちに場所を移動しよう。


 木を降りて近くにある小屋の陰に隠れる。

 ぬいぐるみが監視カメラ代わりなら、今の煙で私の場所が分からなくなったはずだ。

 煙がゆっくりと風に流されていく。


 地面には大きな穴が開き、木々の葉は全て落ちていた。

 気軽に使える爆弾ではないが、誰も来ないのなら良いだろう。

 む、足の再生が完了したか。

 出来立ての足にサンダルを履かせ、巨大な弓を取りだす。


 私の身長と同じくらいの大きさの弓で、私が使える最大攻撃力を誇る弓だ。

 金属製の重量のある矢を構え、出てくるのを待つ。


 小さな地響きと共に現れたのは、最初に遭遇した巨大なクマのぬいぐるみ。

 

「やはりな。お前は術者のメイン人形だろうから、あれしきの爆発では吹き飛ばないと思ったよ」


 しかし燕尾服は汚れ、シルクハットは無くなっていた。蝶ネクタイも曲がっている。

 まったくの無傷ではないな、安心した。


 構えていた右手から矢を放つ。


 うなりを上げて飛ぶ矢は、クマの首の付け根へ向かっていく。

 鋭い爪で矢を弾こうとするが、羽根でつけられた回転と重量、速度に弾かれ、首へと命中・クマのぬいぐるみは背中から地面に倒れた。


 どうだ? 並のモンスターならば、10匹以上を貫通する威力の矢だ。

 これで……ダメか。

 ぬいぐるみはのそのそと立ち上がり、私へと視線を向ける。

 風切り音がする。

 だが音源が見えない、さっきの見えない矢か?

 何回も攻撃されているんだ、音の位置から射線が分かるようになってきた。


 少し屈むと後ろの木に何かが当たる。

 しかし何もない。

 空気を圧縮して撃ち出しているのか? 単に空気の矢か? 似たような物か。

 しかし威力がない。私の手を打ち抜いた時もそうだが、精々普通の弓矢程度の威力だろう。


 警戒度の低い攻撃は後にして、元気なぬいぐるみをどうにかしよう。

 返しの付いた矢が効かないのなら、剣で斬りつけても効果は無い。

 しかし私は距離を詰めるべく、姿勢を低くして走り出した。


 見えない矢が飛んでくるが難なくかわし、クマの爪をフェイントで誘発させてクマの腹に手を当てる。


灼熱弾ファイヤーボール


 真っ赤に燃える赤い球が手から発射され、ぬいぐるみを貫通して地面を燃やす。

 しかし期待とは裏腹に、ぬいぐるみ自体は燃える事は無かった。


「耐熱処理済みか、やるな」


 それでも体に穴が開き、穴の周囲は焦げている。

 クマが両手を出鱈目でたらめに振り回し始めた。

 接近戦なら自分に分があると思ったか?


 動体視力と機動性には自信がある。不意を突かれなければ当たることは無い!

 振り回される腕を、見せつけるように避けまくる。

 うむ、こいつも攻撃は速いが、動きが単調だな、もういいだろう。


 黒い液体の入った瓶を3つ取り出し、クマの手をかわしながら焦げている穴にぶち込む。

 少し距離をとり、小型の弓を構えて狙いを付ける。


「これでどうだ?」


 矢で穴を射抜き、黒い液体の瓶に命中する。

 爆発と同時にぬいぐるみが膨らみ、周囲に綿がまき散らかる。

 足だけが地面に立っていたが、ゆっくりと倒れ、飛んでいた腕や頭が落ちてきた。


「流石に内部からアノ爆発を食らえば、お前でも無理だったな」


 これで残りは1人か。


「いい加減に出てこい。そこに居るんだろう」


 クマがいた後方、さっきから見えない矢が飛んできた方向に、小型の矢を放つ。


「なーんだ、バレてたんだ。あーっしの場所がわかるなんて、ちょーっとはできるじゃ~ん」


 そこには少女が立っている。

 まるでフランス人形の様なロリータ衣装で、年齢も10歳には満たないだろうか。

 体の前にはクマのぬいぐるみを抱いていた。

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