第3章 第34話 ぬいぐるみに追い込まれる暗殺者

 クマがいる。熊? くま……クマちゃんといった方が良いか。

 仕事のし過ぎで目が疲れたか。

 もう一度確認しよう。

 木の陰から少し顔を出して、確認する。


 やはりクマのぬいぐるみだ。


 なんだアレは!! ふざけるのも大概にして欲しいものだな!

 クマが攻撃をしてきたのか? 風切り音しかしなかったが、何かを飛ばした? 魔法か?

 落ち着け私、クマだからなんだというのだ。別に戦いに来たわけではない、用事は終わったのだから、さっさと帰ればいいのだ。


「リコー……!?」


 再呼び出しリコールでギルドへ移動しようとしたら、いつの間にか足元には、小さなクマのぬいぐるみが2つ近づいて来ており、私の足の上に座る。

 と、同時に爆発し、とっさに逃げたモノの、左足の膝から下が吹き飛ばされてしまった。

 1つでは無いのか?! 複数体を同時に操れるのか!


 左足に甚大なダメージを負い、右足もボロボロだ。


偉大なる治癒グレートヒール


 私のMPマジックポイントでは1回使うと空っぽになってしまうのに、出会った瞬間に使う羽目になるとはな。

 左足は再生され、右足もキレイに治った。

 

隠密行動ステルスムーブ


 敵が複数体いるのなら、場所が特定されていては不利。

 ステルスムーブで場所を移動し、気付かれない様に建物の陰に入る。

 壁に背を付け上を見ると、明かりの点いていない窓がある。 

 確かココは倉庫だったはずだ、中でやり過ごせないだろうか。


 音を立てずに窓を開け、窓枠に手をかける。

 が、手に激痛が走り慌てて離すと、手の甲に何かが刺さった痕跡がある。

 クッ! なんだ? 何が刺さったのだ!

 触っても何もない、しかし手には矢が刺さったような穴が開いている。


 目に見えない矢、か。

 だが一番問題なのはそこではない、なぜ私の居場所が分かったのだ?

 隠密行動ステルスムーブ中の私の居場所を、正確に認識している。

 魔法による索敵か? それとも別のスキル?


 気配による索敵なら私にも出来る。

 だがぬいぐるみの気配など知らないし、有るのかも分からない。

 直接的な戦闘能力の低い私としては、なんとか逃げたいところだが……気配が読めなくても分かる、に囲まれているな。


 聞き覚えのない足音らしきモノ、聞き覚えのない羽ばたきの音、それらが私を包囲している。

 ふと夜空を見上げると、そこには数匹のコウモリらしき生き物が飛んでいた。

 ああ、知らない羽ばたき音はアレか。

 ぬいぐるみの羽ばたき音など、知らなくて当たり前だろう。

 そうか、アレに監視されていたのだな。それならステルスムーブが通じない理由が分かった。

 監視カメラか。


 この国に入ってから監視していたのも、空を飛ぶぬいぐるみだったのかもしれないな。

 私との相性は最悪、だな。


 微かに上から音がして横っ飛びに避けると、私が居た場所にはくちばしの長い鳥? の、ぬいぐるみが地面にくちばしを突き刺していた。

 部分的に硬いのか。

 動けないぬいぐるみをナイフで切り裂くと、中からは綿が出るだけで、動きを止める事は無かった。

 しかし真っ直ぐには歩けないようで、グルグル同じところをまわっている。


 効果がないわけではない……か。


 だがノンビリ考えている暇はない。

 ぞくぞくとぬいぐるみが襲い掛かってくる。


 足元からはクマのぬいぐるみ、空からはフクロウのぬいぐるみ、木には猿のぬいぐるみが、そして周囲には手の丸い人のぬいぐるみがナイフを手にしている。

 とても愛嬌のある笑顔でナイフを構えるさまは、非常に不気味だ。

 他にも正体の分からないぬいぐるみが多数いる。


 これだけの数を操っているのか……人形使い、そんな職業があるのかもしれないな、ゲームになら。

 だとしたら、余計に相手などしていられるか!


 全力でジャンプをして城のバルコニーにロープを投げる。

 さっきも飛んだから、足りない分の高さだけロープで補助をして、5階のバルコニーに飛び乗る。

 ここならコウモリやフクロウの相手だけを―――大量の小さなクマのぬいぐるみが待ち伏せをしていた。

 バ、バカな!


 大爆発を起こし、私は地面に叩き落とされてしまう。

 空中で姿勢を維持することが出来ず、背中から地面に叩きつけられ、一瞬息が出来なくなる。

 さらに落ちた場所には沢山のぬいぐるみが待ち伏せをしており、ナイフやツメを私に振り下ろしてくるではないか。

 とっさに体を起こしたが、あちこちから血が流れだす。


 回復ポーションを飲みながら逃げだしたが、あれだけの爆発が起きたのだ、兵士が駆けつけてきてしまう。

 早く逃げなくては!

 建物から離れ、必死に城壁を目指して走るが、何かに足を取られて転んでしまう。

 こ、今度はなんだ!

 足元を見ると地面と同じ色をした、大きいスライムの様なぬいぐるみが動いている。

 アレを踏んだのか。

 なんという……滑稽な姿だ。ぬいぐるみに襲われ、追い込まれるなど。


 しかし死ぬわけにはいかない!

 立ち上がり走り出そうとするが、また転んでしまう。

 なんだ、またスライムか!?


 今度は違った。両足の足首から先が地面に落ちている。

 いつ攻撃をされた!!

 よく見るとスライムのぬいぐるみには、数か所に凶悪な牙を生やした口がある……さっき転んだ時に、すでに噛み切られていたのか。

 しかし偉大なる治癒グレートヒールを使うMPマジックポイントは無く、ポーションでは治療が間に合わない。

 さらに巨大なクマのぬいぐるみが私目がけて走ってくる。


 クロスボウを取り出し、急いで体にロープを巻き付けて矢を撃ち出す。

 重りの付いた矢は私ごと飛び、数メートルではあるが移動・クマの攻撃を避けることが出来た。

 クマの鋭く長い爪は、大きく地面をえぐっていた。

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