第3章 第33話 次の敵は……ぬいぐるみ?

「あいつはどうだった?」


 元の部屋に戻るとアズベルが立ち上がり、俺の手を取ってベッドに誘導してくれた。

 どうも……俺の顔色が酷いらしい。

 腰を下ろすと、俺はゆっくりと口を開く。


「アズベルのいった通りだった。体は……ボロボロで、酷いありさまだった……」


「そうか。でも治療したんだろう?」


「うん。リアは厳しいや、俺に許してやれとは言わないまでも、見逃してやれ、なんて」


「アセリアがそんな事を言ったのか?」


「言ってないけど……そういう目に見えた」


 エリーナが生きていた事は構わない。

 でも奴隷すら捨てられたエリーナの姿は、わかっていても未だに同一人物とは思えない。

 同窓会に行ったら整形した同級生に会ったみたいな気分。

 リアはよくわかったな。


 その後は女性陣が交代でエリーナを看病したけど、なかなか目を覚まさなかった。

 俺は別にやる事があるから、ヘタに目を覚まされるよりは良いかな。


 夜になり、夕食を食べた後で部屋に1人で戻る。

 皆には出かけてくるとだけ伝えたけど、多分バレてるな。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ ユグドラ ⇒ ルリ子 ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


 ……大丈夫のようだ、のぞき見はされちゃいない様だね。

 さてと、じゃあ城に行くとしようか。


再呼び出しリコール


 一人用の移動魔法を使い、城の内部へと移動する。

 来た時に数か所【記録マーク】をしておいた。

 人が少ない場所を選んでおいたが、ここは応接室の窓の外、1階部分の木の陰だ。

 城の敷地内も、見られている感じはしない。


 ここは小奇麗になっちゃいるが、光源が無く人もいない、正面入り口からも離れていて、侵入にはもってこいだ。

 さ、アタシの役目は終わりだ。後は任せるよ。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

 ⇒メイア

 ◆ ルリ子 ⇒ メイア ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 薄緑うすみどりの革鎧に身を包み、頭は迷彩のバンダナで覆い、目の下にはクマが出来ていて目つきが鋭い。大きな胸はサラシを巻いて押さえつけているが、鎧の上からでも膨らんでいるのが分かる。


 日中の下調べで目星は付けておいたから、早速見に行くとしよう。


 小型の弓を構え、ロープの付いた矢をつがえる。

 狙いは5階のバルコニー、その近くの資料室と執務室だ。

 小さな風切り音と共に矢はバルコニーの内側に入り、かぎ爪の矢じりが石の外壁に食い込む。

 数回ロープを引っ張るが、外れる気配はない。


 よし。体をかがめ、力の限りジャンプする。

 3階までは問題なく飛べたが、この速度だと4階が限界か、ロープを垂らしておいて正解だったな。

 ジャンプの勢いがなくなる前にロープを引っ張り、さらに加速させる。

 バルコニーの手すりに指をかけ、ゆっくりと顔を出す。……誰もいないな。


 体を持ち上げてバルコニーに入り、廊下の灯りに照らされないよう注意して接近する。

 ステルスムーブは長時間は使えない、少しでも使わずに行こう。

 窓が開いている場所があった、そこから覗き込むと廊下の両側が見渡せたが、人影はない。

 そのまま体を滑り込ませ、足音を立てない様に着地する。


隠密行動ステルスムーブ


 姿を消す、というよりも、完全に気配を消す、といったスキルだ。

 気配がない、そこに人が居ると認識できなければ、人間は視界に入っていても認識できないらしい。

 だから監視カメラなどがあったら通用しない。日本では無意味な技だな。


 足音をさせず壁際を歩き、資料室の扉に耳を当てる。……誰もいない様だ。

 鍵もかかっていない、ではお邪魔するよ。


 中は暗く、どこに何があるのか見えない。

 人が居ないのだから当たり前だろう。

 小袋から目薬を取り出す。暗視ナイトサイトの薬だ。これを目に差すと、深夜でも夕方程度には見えるようになる。


 順番に資料を探し、目的の物がいくつか見つけられた。

 【奴隷商人目録】【皇族構成図】【収支報告書】【政策一覧】

 どれも古い資料は必要ない、ここ数年で十分だろう。

 今は精査する必要は無い、記憶する事に専念だ。


 次は執務室に入る。ここも誰もいないな。

 いくつかある机の引き出しを漁り、目的の物を探すが……見当たらない。

 鍵付きの引き出しがある。ピッキングで鍵を開けて調べると、中から目的の物が見つかった。

『異能力者の保護と協力』と書かれた資料によると、どうやら王族は転生者の協力を得て、国防や政治に役立てているようだ。

 ふむ、国防は単純に戦闘能力の高さからか? 政治は地球的な政策の提案でもしたのだろうか。


 やはり私達を覗き見していたのは転生者か? アミック様と書かれているが、ギルドで聞いた名前と一致する。

 するとアミックが入れ知恵をして、通行料やオンディーナ民からぼったくっているのか?

 いやそんな政策をしている国なんて地球にあっただろうか。

 ああ、報復措置で重課税とかあるな、ではオンディーナへの報復? 

 いち国民に課した所で意味があるとは思えないが……。


 まぁいいだろう。この先この国に来ることがあるか分からないが、今はこれで十分だ。

 ギルドの受付嬢達には悪いが、私達が何かをする必要は無い。

 



 入ってきたバルコニーから地面に飛び降り、裏口付近のしげみみへ向かう。

 ここからなら城の外へ出れそうだな。

 城壁の側へ寄り、もう一度弓を構える。


 !!


 風切り音が聞こえ、とっさに大きな木の後ろに姿を隠す。

 なんだ? 今のは矢が飛んでくる音に似ていたが、どこから撃ってきた?

 それに矢が見えなかった。何かに当たった音はしたが、矢が見当たらない。

 周囲には人の気配はない。一体、どこに居るんだ。


 建物の陰から人の姿が見えた。

 いや……なんだあれは? テディーベア、巨大なクマのぬいぐるみが、こちらを向いた。

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