第3章 第18話 違う、ワシは番長じゃ!

 貴族の屋敷を出て街の中心部を目指す。

 この街に来てから数時間が経っているはずじゃが、まだまだパンドラ兵たちは勝利の美酒に酔いしれておるな。

 ん? あれは新兵かのぅ、き火の周りで裸踊りをさせられておる。


 しかし不用心じゃな、ワシが堂々と街中を歩いておると言うのに、誰も気にしておらん。

 あの結界の事を全面的に信用しておるのだろうか。

 もう無いのになぁ……あの魔女、マテスじゃったか? あの女は軍隊ではどういう立場じゃったのか。


 間違いなくこの街を落としたのは魔女じゃし、それなりの地位だとは思うのだが……いなくなっても誰も気にしておらんというのは気になる。


 まぁええわい、店長と貴族を助けておさらばじゃ。




 街の中心部に着くと、店長と貴族は酔ったパンドラ兵にいたぶられておった。

 まったく、身動きの取れない者に何をしておるのやら。


「面白そうなことをしておるのぉ、ワシも混ぜてくれんか」


 パンドラ兵の前で仁王立ちし、にらみを利かせる。

 すると上長と勘違いしたのか何も言わずに退散していく。

 ふんっ、悪い事をしておる自覚はあったのじゃな。


「もう大丈夫じゃ、今降ろすから待っておれ」


 吊られている2人の鎖を破壊し、ゆっくりと下におろす。

 むむぅ、衰弱しきっておって意識がないか。

 ワシは回復は出来ぬし……おお、そういえばポーションがあったな、あれを飲ませよう。


 青い液体の入った小瓶を取り出し、店長と貴族に飲ませる。

 2人ともゆっくり目を開け、ゆっくりと周囲を見渡しておる。


「アンタは確か……ユグドラの別の奴か。こんな所で何してる、早く逃げろ」


「ユグドラ……君がユグドラなのか? 私達はいいから早く逃げなさい」


 う~む、まだ状況が判断できておらぬ様じゃな。

 といっても、確かにワシが居る場所は敵のド真ん中なのじゃがな!


「安心せい、魔女は倒した。お主たちはどうする? ひと暴れするか? それとも脱出するか?」


「魔女を倒しただとぅ? ……まぁお前たちなら倒しかねんな」


「であれば、私達が居なくなるのはまずい。今は敵兵が酔っているから良いが、酔いから覚めた時に私達が居ないと、街の住人が危険だ」


 おお、なるほどのぅ、流石貴族じゃ、頭がいい。


「ではどうするのじゃ?」


「ユグドラ君は1人で来たのか?」


「ユグドラではない、ワシは番長じゃ。1人じゃ」


「バ……? バンチョウ君、私とリーさんをもう1度つるし上げてくれ。そして君には頼みがある」


 2人を吊るし上げて、ワシは街の中へと姿を消した。




 朝になり、2人の処刑が執行される時間になった。

 のじゃが、執行するはずの魔女が現れず、パンドラ兵たちは右往左往しておる。

 2人がよく見える家の2階から様子を見ておるが、どうやら魔女を探しに行っておるが見つからないでいるようじゃ。

 あの魔女が今頃何をしておるのか知らんが、あの尻では出て来れんじゃろうな。


 恐らくは2番手と思しき兵が壇上に上がり、宣言を開始する。


「マテス様がいらっしゃらなくとも、処刑は予定通りり行う! パンドラ国の慈悲を理解しないオンディーナの兵士よ! パンドラ兵に歯向かった罪は重い、よって処刑を開始する!!」


 剣を2人に向けて高らかに宣言すると、執行人らしき人物が4人、壇上に上がる。

 貴族と店長が手足を縛られたまま降ろされ、ひざまずいて首切り台に上半身を乗せられた。


「構えい!」


 男の合図で2人が剣を上段に構える。

 

「切り落とせ!!」


 男は言葉と共に自分の剣を振り下ろすと、首切り台で上段に剣を構えた男たちは、剣を振り下ろした。

 振り下ろされた剣は……貴族と店長を押さえていたパンドラ兵の首を落とす。


 一瞬の静寂の後、合図をした男の腹に剣が突きさされる。

 目をパチクリしながら、男は壇上から落ちた。


「街を取り戻すのだ!!」


 貴族の号令と共に隠れていたオンディーナ兵が中央広場になだれ込み、パンドラ兵たちは慌てふためく事しか出来ていない。

 

 昨晩ワシが頼まれたのは、約5000人のオンディーナ兵の救出じゃった。

 魔女の罠のお陰で、ほとんどの兵は無傷で捕らえられておったのだ。

 自国に取り込むつもりだったのかもしれんが、それがあだとなった形じゃな。

 さらに言うとパンドラ兵は酔いつぶれておったし、警戒というモノがゼロじゃったから、装備の奪還も配置につくのも楽ちんじゃった。


 パンドラ兵に唯一勝機があるとしたら、9000の兵が一斉に行動する事じゃが、それは魔女を探させるという事で分散に成功しておる。

 魔女が消えた時点で勝負はついておったのじゃ。


 住民の避難も終わっておるし、あの貴族は自分を囮にして住民の命を守ったのじゃ。

 アグレスの街の貴族は気が弱すぎて困ったが、エリクセンの貴族は良い貴族じゃのぅ。


 


 1時間もかからなかった。

 ほぼ一方的な虐殺に近かったせいか、投降した者が沢山おった。

 ワシの役目も終わりじゃ。帰るとするかの。

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