第3章 第19話 敵部隊が消えた、じゃと!?

 リコールブックを開き、アグレスの街近くに登録されている場所を呼び出す。

 呼び出すというより、ワシを向こうに呼び出す、といった方が正解じゃな。

 一瞬でアグレス近くの森の中に移動し、街へと向かった。


 そろそろリコールブックのチャージ回数が減っておるな、しずかで回数を増やしておくかの。





「おっかえりー番長!」


 兵舎の会議室に入ると、ジュエルが飛び出してきた。

 口にはエビフライをくわえて、じゃがな。


「ただいまじゃ、いい子にお留守番できておったか?」


「バッチリ! 応援に行こうとするみんなを、しっかり止めたしね!」


 止めた、というみんなを見ると、食事の手を止めてワシを取り囲んだ。


「な、なんじゃ? どうしたのじゃみんな」


 スッ、と手をあげ、順番にワシの頭を叩き始める。


「あだだ! 何をするのじゃ!?」


「何をするのじゃ、じゃありません! 1人で勝手に出て行って、どれだけ心配したと思ってるんですか!!」


「全くだぜ、しかもお前と同じような奴が居るっていうじゃねーか、余計に連れていけよ!」


「1人で勝手な行動をするのなら、こちらにも考えがあるわ」


「師匠が勝手する、なら弟子も勝手する!」


「今回は擁護できないね~、だからもう一発叩いとくネ!」


 む、むぅ、余計な心配をかけてしまったようじゃ。

 

「こ、今後は気を付けるとしよう」


 その後も色々と叱られたが、食事をしながら転生者の事を話していくうちに叱られなくなった。

 よ、良かったのじゃ……。





 その後は護衛隊長らと話しをしたが、敵には新たな応援が来ることもなく、残っているのは王都近くの5万4千の兵じゃな。

 パンドラ国の主力であり、ブラスティーと同等の力を持つという転生者・ドミストリィ。

 その部隊が王都へ向けて進軍している。


「ジュエルよ、敵の部隊はどこら辺におるのじゃ?」


「ん~、王都までは2~3日って距離。でもさっきから動いてないよ?」


 鳥型ゴーレムの目に映る映像を見ながら、ジュエルは情報の確認をしておる。

 ゲートから見える風景は相変わらず深い森じゃが、その中では大量の兵士が動かずに止まっている。


「どうしたのかのぅ、向こうさん、明るいうちに移動せねばならんと思うのだが」


 それから数日間、移動はするのじゃが、あまりに遅く、王都まで1日の距離になるまでに10日を要した。

 じゃがその場所に着いてからも、数日間動いておらぬ。


「王都から連絡とかは来てねーのか?」


「全然来てないネ」


「じゃあ動けない。私達の仕事は、アグレスの防衛だから」


 そうじゃなぁ……依頼内容がアグレスの街の防衛じゃ。最初はアグレスと王都側から挟撃するのかと思ったが、今や敵は王都目前。

 こちらに早馬を送る時間も十分あったはずじゃが、いまだに新たな依頼も来ないとなると……。


「う~む、動けんのぅ」


 相変わらずパンドラ国に最も近いアグレスにもエリクセンにも、敵の増援は現れておらぬ。

 このまま時間が経てば兵糧の問題もあるハズじゃが、一体全体何を考えておるのか。


「あり??」


 突然ジュエルが素っ頓狂な声をあげた。


「どうしたのじゃ?」


「いなくなっちゃった……」


「ん? 何がじゃ?」


 ゲートでパンドラ軍を監視していて、何が居なくなったのじゃ?

 まさか指揮官が居なくなったのかのぅ。


「軍隊が居なくなっちゃった……」


「「「「なんだと!?」」」」


 その場にいた全員がゲートを見るが、確かに今まで居たはずの5万を超える兵士が居なくなっている。

 移動したのかと鳥型ゴーレムに周囲を探させたが、周囲には何もおらぬ。


「なぜじゃ? なぜ突然いなくなったのじゃ。まさか、ワシ等は幻でも見ておったのか?」


「いや番長、地面には確かに足跡があるし、かまどを作った後が残っている。確かにここには人が居たんだ」


「でも、それじゃあどこに行ったんでしょうか」


「ジュエルちゃん、兵士が消える所を見たかしら?」


「消えるっていうか、一瞬でいなくなっちゃって……」


「それ、ゲートとかリコールみたいに魔法使ったんじゃ?」


「じゃあ向こうの人は、ゲートよりすごい魔法を使ったって事だよネ!?」


 うむ、そう……なるな。

 リコールは個人の移動のみ、ゲートは順番に門へと入らなくてなならん。

 今みたいに一瞬で大量の人員を移動させるなど、一体どれだけ大掛かりな魔法になるのか。


「ゴーレムの捜索範囲を広げるぞい」


 範囲を徐々に広げ、ようやくパンドラ兵を見つけることが出来た。

 その場所は、王都・オンディーナの中じゃった。

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