第3章 第14話 洋館の魔女

 その後も数回、場所を移動して鉤縄かぎなわを防壁の上に向けて撃つが、何かに弾かれてしまう。

 どうやら本当に街全体を結界で覆っているようだ。

 間違いなく転生者の仕業と見ていいだろう。

 だがなんだ? この規模の魔法をプレイヤーが使えるゲームとは。


 いや、今考えても意味は無い。

 知らないゲームなんて山のようにあるのだからな。

 それよりも、一体どうやって街に入ればいいのだ?

 街に侵入させないために張られた結界ならば、侵入自体が困難だ。

 ……私では分からないな、交代しよう。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

 ⇒ディータ

  メイア

 ◆ メイア ⇒ ディータ ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 肩より少し長いウェーブのかかった薄い茶髪を左右の耳の後ろ上で少しだけまとめ、アクセサリーを多数つけてカラフルな衣装を着ている。キラキラの短いスカートとキラキラのノースリーブが軽薄さをかもし出してる。

 はいっ! ディータちゃんでっす!


「いや~凄いっすねこの結界! ウソつけ! 魔力が全く感じられない結界なんてあるわけないジャン」


 つまり結界じゃなくって、別の目的の見えない壁。

 でも中に入らなきゃだから、何か手掛かりを探さないと。

 と、まぁ何度も来た街だから目星は付けてあるんだけどね~。


 1つめは門の脇にある小さな扉。

 人一人がやっと通れるくらいの扉で、門を閉じた後でも緊急時はここを通っていいみたい。

 静かに押して見たけど、まぁ閉まってるよね。


 次は裏門に回って見たけどこっちもダメ。

 仕方ないから裏門から少し離れた防壁の石を押す。

 う~ん、ここは兵士とか貴族用の秘密と扉なんだけど、ここもダメっぽ。


 じゃあ次。

 防壁が作られたときに埋め忘れた場所に行こう。

 埋め忘れたって言っても穴が開いてる訳じゃなくて、防壁の外側と内側は石で塞がれてるけど、内部が埋められてない場所がある。

 多分石をどかせれば匍匐前進ほふくぜんしんで中に入れるんじゃないかなーって。


 うむ、予想通り! 外側1番下のブロックを2~3個どかすと中は空洞だった。

 狭いな~、ディータちゃんはスレンダーだから通れるけど、ベネットちゃんだったらアウトだね。

 中を移動して突き当りの石もどかすと、遠くに街の灯りが見えた。

 ここは何もない原っぱ。防壁の近くは基本的に何もない。

 正面の門にしても、門から少し離れてから建物が並んでる。


 さーて、まずは店長さんを確認しないとね。


 街の中央部にいくと、鎧がボロボロに破壊されて両手で吊るされた店長が居た。

 隣には知らないオジさん……あ、この街の貴族かな?

 周りには敵兵が沢山いるけど、見張っている訳じゃなくて酒盛りしてる。

 勝利の美酒に酔いしれてますねぇ、グヘヘ。

 

 この街の兵士は見当たらないし、住民も見当たらない。

 兵士は監禁されてるのかな。住民は自宅待機?

 ここに来るまでもそうだったけど、警戒というモノが一切されてない。

 ザル。多分結界の強さを信じてるんだろうけど、入られたら少人数でも制圧できそう。


 ま、私としては動きやすいからいいけどね~。


 転生者らしい人が見当たらないから、少し兵士たちの会話に耳を傾けた。


「いやっはっは、それにしてもマテス様様だな! あのデッカイ戦士を近づけることなく倒しちまうんだから」


「全くだぜ。それにしても恐ろしい魔女だ、あんなの絶対に食らいたくないぜ」


「だな。それでマテス様はどこに行ったんだ? 酒くらい一緒に飲んでもバチは当たらないだろ」


「今頃貴族の屋敷で優雅に食事でもしてるぜ」


 ほうほう、マテスって言うんだ。しかも魔女? 魔法使いかな。

 じゃ早速貴族んちにいきまっしょい!


 お、これかー、デッカイ家! どんだけ民の血税を注ぎ込んでんだ!

 ホントにもー、あれ? 鉄の柵が開いてる。不用心だな~入ってくれと言わんばかりじゃありませんか! お邪魔しますね。


 しっかし屋敷にも見張りが居ない。何考えてんのマ……マ……マチス! マチス様は不用心だね。

 正門も開けて中に入った。ここまで見張り無し!


 中は吹き抜けで、正面にはレッドカーペットが敷かれた大きな階段があり、途中から左右に分かれている。

 絵に描いたような洋館だ! バイオハニャードみたいだ!

 でも暗い。ローソクは何本かと暖炉があるけど、この広い空間を照らすには全く役に立ってない。


「私の別荘へようこそ、ディータさん」


 突然名前を呼ばれた。

 声は階段の上、2階から聞こえてきた。

 そこには漆黒の様に黒く、長い髪をしたお姉さんがいる。

 真っ赤なチャイナドレスみたいに体にピッタリした衣装で、長いスリットからは足が見えている。


「こんばんは、ディータちゃんでっす! お姉さんがマチス?」


 ヤベー! ヤベーよこのお姉さん! 全く気配がしないんですけど!!

 何とか冷静を装って元気にあいさつしたけど、心臓がドキドキ!


「あら、少し違うわね。私はマテスよお嬢さん」


「あれ? マチスじゃないの?」


「マ“テ”スよ」


「チもテも似てるからいいじゃん?」


「形は似てても発音が違うんだから分かりなさいよ!」


 ノリのいいお姉さんだ! よかった、少し落ち着いた。

 手すりを力いっぱい握りながら睨まれたけど、美人なお姉さんに睨まれるとハァハァしたくなるね。


「まったく、これだからガキは」


「ディータちゃんガキじゃないです! 16歳なんだから立派な女性だもん!」


「16歳? ただのガキじゃない」


「なんだとぅ!? お姉さんはいくつなのさ!」


「私は24歳よ」


「なんだ、ババァじゃん」


「バ!? 24歳だって言ってるでしょ!」


「女の子は18を過ぎたらババァなの。知らないの?」


 あ、プルプル震えてる。気のせいか髪が逆立ってきたような??


「クソガキが! ぶち殺してやる!!」

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