第3章 第15話 魔女の罠

「返り討ちにしてやんよクソババァ!」


 そう言って私は魔法を詠唱しようとしたけど、ババァは階段を走って降りてきた。

 あり? 魔法使いじゃないの? 接近戦闘型魔法使い?

 そして私の正面に立って指差し、ふんぞり返ってこう言った。


「はん! 貧弱なチビガキが、小さな胸と違って態度だけはでっかいわね!」


「ハァ!? ディータちゃんは胸小さくないですぅ! ちゃんとありますぅ!」


「へぇ、どの口が言うのかしらねぇ?」


 腰に手を当てて胸を張りだした。

 グゥ、確かにこの人は胸大きいけど、ベネットちん並みに大きいけど、けど!

 突然背中を向けて手をヒラヒラふってる。


「勝負あったわね。子供はおうちでお寝んねしなさい」


「だから子供じゃないって言ってんじゃん!!」


 もーあったまきた! 直接ぶんなぐってやる!

 1歩踏み出した瞬間、床からトゲの付いた金属の輪が私の足に噛みつこうとした。

 ベアトラップだね。

 ふん! こんなの引っ掛かるわけないジャン!


 軽くひとっ飛びして避けると、天井から巨大なハンマーが振り子のように動いて私の左肩に当たり、反対側の壁まで吹き飛ばされた。


「ギャピー!」


「おーっほっほっほ! なんて良い鳴き声なのかしら。その調子でもっと鳴いてちょうだい」


 クソババァの高笑いを聞きながらヨロヨロ立ち上がる。

 クッソムカツクんですけど!

 てかハンマーなんてどこから現れたの? そもそもベアトラップも突然現れたし。

 おしおきだべ!


「陰険BBA! 若くてピチピチなお肌に嫉妬したな!?」


「あんですって!? ピチピチなら良いってもんじゃないのよ! お肌はあでやかさが重要なのよ!」


「負け惜し言うな!」


 もー許さない。往復ビンタの刑だ!

 身体能力なら絶対に負けないんだから! BBAに負けてたまるか!


 そしてツカツカ歩く私の足元からは、さっきと同じように罠が発動した。

 今度は勢いよく床が斜めに跳ね上がる跳ね床だね。こんなのジャンプしたら無意味なんだから。

 さっきは前に飛んでハンマーに当たったけど、今度は真上に飛んだ。

 くっくっく、これでハンマーに当たることは……あ。


 今度は正面から振り子ハンマーが来た。

 さっきと違うじゃん!!

 でも想定済みだよ! 


魔力防護壁エネルギー・ウォール!」


 正面に壁を出してハンマーを止めた。はーっはっは! こんなの晩飯前よ!

 と思ったら背中から猛烈な勢いで押し出され、ハンマーと挟み込まれてしまった。


「ゲボハ!」


 ど、どゆこと……後ろを見ると、壁の1部がせり出してた。

 何メートル……飛び出してんのよ……。

 ハンマーが消えて壁が戻っていき、ペチャンコになった私は地面にヒラヒラと枯れ葉の様に落ちた。

 いつの間に罠設置したんだお?


 親指をくわえてプーッと息を吹くと体が元に戻った。


「あっぶな! マンガじゃなかったら死んでた!」


「マンガじゃなくてラノベよ?」


「ラノベ万歳!」


 マンガ的ラノベ表現をしたところで、次は私の番だね!

 問答無用で魔法を撃っちゃる!


魔法の矢マジックアロー!」


 近くにいるけど手の届かない距離だから、一番小さくて避けにくい魔法の矢を使った。

 なのに、あれ? なんか遅くない??

 いつもならバビュン! って飛んでいくのに、ビヨ~ンって飛んでる。

 あんで? 何がどーなってんの?


「おーっほっほっほ! 勢い良く魔法を使った割にはしょぼいわね」


 ヒョイッとかわして階段を昇って行く。

 逃げるつもり!? 逃がすかぁ!

 BBAの後を追いかけて走ってるけど、当たり前のように罠があちこちに設置されてる。

 でも場所は分かってるから避けるのはカンタン!


 階段の下に1つ! 「ハァ!」とジャンプでかわし、階段の途中の壁の罠を「ほいさ!」としゃがんで逃げて、階段を登り切った天井のハンマーを横にずれて避けた。


「はーっはっは! ディータちゃんは1度見た罠には2度とは掛からないの―――」


 床に罠の反応が現れた。

 あれれーおかしいぞー? 床の罠はさっきあったし、ここには何もなかったはずだぞー?

 そして私の視界は真っ暗になった。何だコレ!?


「●◇▽弗Ψ¶Θ!?」


 なんかすっごく声がごもってる。何かが頭にかぶさってるみたい。

 何かを頭から取ろうと引っ張ってるけど、ん~取れない!

 取れなくて暴れてると何かに引っ掛かる、なに、今度は何の罠!?


 と思ったら浮遊感と共にパリン! という音で視界が戻った。

 

「いったぁ~い!」


 頭を抱えてしゃがみ込むと、目の前には割れた花瓶があった。

 花瓶? こんなの頭にかぶってたのかよ。

 てか私、2階から落ちたのか。

 なんだろう、この屈辱レベルがガンガン上がっていく感じは。


「付き合ってられるかぁ! 瞬間移動テレポート!」


 2階のオバサンの目の前に瞬間移動し、拳を振りかぶった。


「食らえ! ディータぱぁ~んち!」


 私の怒りの鉄拳、ついでに屈辱を晴らすべく拳を振り抜いた!

 でもオバサンは何事も無かったように横にスライドしてかわした。

 ウソ! なんでそんなベネットちんみたいな避け方が出来るの!?

 ん? 違う、横に動いたのは私だ。


 まるで左側の壁が磁石みたいに私を引き寄せる。


「ちょっ! ちょっとタンマ!」


 必死に抵抗するけどダメ、ゆっくりと壁に引き寄せられて、壁に貼りつけにされた。

 な、なんで!? どんな仕掛け? 重力でも操ってんの!?

 壁から離れようとするけど全く動けない。


「くぉ~~のぉ~~! あり? なんで上下が入れ替わってんの?」


 いつの間にか頭が下側にあり、そして上に戻る。

 回転してる? 壁が? 扇風機の羽根みたいに?

 気が付いた時には凄い速さで回転を始めていた。


「Noおおおおおぉぉぉぉおおおお!!!!」


 回転が終わり、ぺっと吐き出された私はふら付きながらオバサンを睨んだけど、あふぁ、足元が……真っ直ぐあるけいないぃ~。

 そのまま階段を転げ落ち、やっと止まったと思ったら扉の前にいた。


 あれだけ色々あったのに、私は振り出しに戻ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る