第3章 第13話 エリクセン陥落。これは急がねば!

「ジュエルよ、ここ周辺の情報を知りたいのじゃが」


「どこどこ~?」


 兵舎の会議室に籠り、透明なゲートでワシの目を通して上空から山を見ておる。

 この先がパンドラ国らしいが、この辺りには人が居る様子は無い。

 アグレス・エリクセンへ続く道には敵兵はおらなんだし、ここにもおらんという事は敵の増援は無いという事かのぅ。


 しかし1万の兵だけで攻め込むなどあり得ん。

 しかもすでに1割の兵を失っておるし、移動日数を考えると、すでに増援が来ていなければ無意味じゃ。

 という事は、やはり直接王都を襲うつもりじゃなぁ。


「んー、ここには誰もいないみたい」


「そうか、分かった。次は数時間先じゃから休んで構わんぞ」


「やる事ないから見てる」


「ではワシはメシを作ってくる」


「じゃあ私も手伝う」


 鳥型ゴーレムを自動モードにして席を立つ。

 ここに居ると言ったり付いて来ると言ったり、ジュエルの発言には一貫性がないのぅ。

 兵舎の裏側に馬車を置いてあるから、そこでメシの準備じゃ。


 メイアに交代して作っておったが、ジュエルは詰まらなさそうにして馬車の中に入ってしもうた。

 手伝うのではなかったのか?

 数日分の作り置きとデザートを準備し、メイアからワシに交代すると馬車から出てきた。


「ご飯、今から食べるの?」


「そうじゃな、腹も減ったし食べるとするか」


 会議室に運んでゲートを眺めながら食べるとしようかの。

 ……と思っておったのじゃが、ジュエルってこんなに喋る子じゃったのか。

 ワシの隣でひっきりなしに話しかけてくるが、ずっとゲートを眺めておったから寂しかったのかもしれんな。

 メシ時くらいはおしゃべりしても良いじゃろ。


 数時間が経過し、ゲートにはずっと灯りのない暗い森が映し出されておったが、1角に明るい場所が見えた。

 どうやら何かがキャンプをしておる様じゃな。


「ジュエル起きるのじゃ」


 ワシの背中によしかかって寝ているジュエルに声をかける。

 せめて馬車の中で寝ていろと言ったのじゃが、ここで寝てしもうた。

 疲れるだけじゃろうに。


「ひゅえ?」


「あそこの明るい場所、あれは何者じゃ?」


 ゴーレムを灯りの場所に向かわせ、近くの枝に止まらせた。

 ジュエルが目をこすりながらゲートを見、手を中空で動かし何かの操作を始める。


「パンドラ国兵士。第1騎士団。兵力5万4千。騎兵2万、歩兵2万4千、弓兵1万。隊長ドミストリィ:転生者」


「ドミストリィ? それが向こうの転生者の名前か」


「うん……パンドラ国の強い方……だね」


「ほほぅ、ブラスティーと同格の者か、やはり本命は王都強襲のようじゃ」


「だね……弱い方はエリクセンで戦ってるし……」


 弱い方? そういえばパンドラ国にも転生者が2人おると言っておったが、両方とも出陣しておるのか。

 しかもエリクセンじゃと? こっちに来なかった残り9千を率いて向かった街じゃ。

 

「これはしまったのぅ。あの店長でも1日持てばいい方じゃ」


 弱い方の転生者がどれほどの強さか知らんが、少なくともワシと同格であろうし、システムのバーションアップ前だとしてもリア達よりも強い。

 それほど転生者とは圧倒的な差があるのじゃ。


「ん……んん~~……はぁ、アミックっていう人。もう戦い終わったみたい」


「なんと! つまりエリクセンは落されたという事か!?」


「ん~、うん、貴族の屋敷が占拠されて、もう誰も抵抗してないから陥落したね」


「転生者では無いが、それなりの強さの者が街におったのじゃが、わかるか?」


「えーっと……体の大きなおじさん?」


「そうじゃ」


「街の中央で貴族と一緒に吊るされてる。明日の朝に死刑執行、だってさ」


「死刑じゃと! こうしてはおれん、直ぐに助けに行かねば」


「いっちゃうの? 流石に私は足手まといになるから残ってる」


「うむ、リア達が戻ったらこの事を伝えてくれ。だが応援は必要ない、とな」


「要らないの?」


「そうじゃ、騒ぎを起こしたら死刑が早まるかもしれんのでな、出来る限り隠密行動で行く」


「わかった。気を付けてね」


「うむ、行ってくる。メシは作ってあるから、リアかアニタに頼んで温めてもらうのじゃぞ」




 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

 ⇒メイア

 ◆ 番長 ⇒ メイア ◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 薄緑うすみどりの革鎧に身を包み、頭は迷彩のバンダナで覆い、目の下にはクマが出来ていて目つきが鋭い。大きな胸はサラシを巻いて押さえつけているが、鎧の上からでも膨らんでいるのが分かる。

 うむ、急がないとリー店長が危ないな。


再呼び出しリコール


 エリクセン近くの森に魔法で移動し、街へと走り出す。

 少し走ると違和感があった。なんだ? 何かが違う。

 街の外は戦場になったようで荒れ果てているが、それだけではない。

 そうだ、なぜ道の真ん中に1ブロック分の芝生が生えている? なぜ数本の木が生えている? なぜ人が数名入れるほどの真四角の穴が開いている?


 転生者の仕業……だろう。


隠密行動ステルス・ムーブ


 そろそろ街の近くに着くため姿を消す。

 街の入り口は閉ざされており、かんぬきがされていて開かない。

 ふむ、なぜ見張りが居ない?

 攻め落として油断しているのか? それならば楽でいいのだが。


 防壁にたどり着いた。

 中からは騒がしい声が聞こえるが、外には人影が1つもない。

 とは言え門が開かないので、防壁を超えていくしかないようだ。

 鉤縄かぎなわ(忍者が壁を昇る時に使う物)を矢じりにつけて防壁の上に向けて撃つ。

 しかし先端の3又の金属が石に引っ掛かる所で何かに弾かれてしまった。


「なんだ? 何かに当たって弾かれた……のか?」


 落ちてくる矢と鉤縄を受け止め、もう一度場所を変えて上に撃つ。

 やはり何か目に見えないモノに弾かれ、鉤縄は落ちてきた。


「結界、なのか? まさかと思うが、街全体を結界で覆っている、のか?」


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